第225話 大河ドラマ『西宮』(ダイジェスト版)
西宮の様子がおかしいという話題は学園中に広がり、色んな生徒がお見舞いに来ていた。
正確には、様子がおかしくないのがおかしいというややこしい事になるのだが。
3月に行った旅行で西宮と同室だった3人組も西宮の元へと駆け付ける。
「た、たしかに~! 様子が変です~! まだ恩返しも出来ていないのに~……」
間延びした喋り方の雉岡は顔を青くさせる。
「ん? そうッスか? 西宮さんて元々真面目な方じゃ?」
紆余曲折あって西宮の人となりを勘違いしている猿渡。
「あ、もしかして、普段皆さんと一緒に居たのって西宮さんの妹なのでは!?」
そして、普段セクハラ三昧をしているのは西宮の双子の妹、という噓偽りを吹き込まれている犬丸も様子を見に来ていた。
3人中2人は西宮に印象操作をされているのであまり意味は無かった。
その後も結局、元に戻す手がかりを掴めないまま真面目宮は善行を積み重ね続けていた。
ある時は――
「茉希。肩に糸くずがついてるわよ、じっとしてなさい」
「お、おう。あんがと」
「……何故ちょっと警戒しているの?」
またある時は――
「南雲さん。何故かカバンの中にお菓子が入ってたから差し上げるわ」
「やたー! ありがとー!」
「……私は何故学校にこんなものを?」
またまたある時は―
「百合先生。そのプリントは2-Aに持っていくものですよね? 私が配っておきます」
「け、敬語!? しかも上から目線じゃない!?」
「……どうしたんですか。そんなに驚いて」
そして、西宮に対する催眠術を信じ始めた3人はある結論に辿り着いた。
「……もうさ。このままでも良いんじゃねぇかって思い始めて来た。今までが異常だったんだよ」
「戻す基準は良いか悪いかの判断じゃないよ!?」
「戻ってもそんなに得すること無いし。ていうかワタシ、元の西宮さんがどんな風だったのか記憶が……」
「ゆーちゃん、嘘だよね!? まだ半日も経ってないよ!?」
「さ、最悪戻らないなら、西宮さんは今日から心を入れ替えたという事で……」
「いやいや、百合先生まで!? 最早これは人格が入れ替わってますよ!」
西宮が戻った際のリスクマネジメントまでし始めた3人。
諦め路線も視野に入れている3人に喝を入れた東堂は献身的な状況整理を見せる。
・日常生活をしていた記憶はある
・過去の奇行については記憶に
・過去の行動の9割が奇行だったので実質記憶喪失みたいになっている
「「「 つ、つまり……!? 」」」
「思い出話をしたら案外元に戻ったり……?」
こうして、西宮の失われた記憶を取り戻す為に放課後はみんなで西宮との思い出トークをすることになった。
***
家庭科部に入ってからの西宮は奇行しか行ってこなかった為、真面目宮さんは自身が家庭科部であることすら記憶喪失していた。
そんな変わり果てたお姉様の姿に最初は涙した四方堂。
……だがしかし、なんだかんだ優しかったので彼女もこっちが本当のお姉様なのでは?と思い始めている。
そんな中、早速部員たちは西宮との関わりが浅い順で語り始めた。
言うなればこれは、ここまでのあらすじ――
①十河灯
「えーと……私と西宮さんの記憶……あっ、そうだ! コンカフェのサービスで杏樹の頭にジュース注いだの覚えてますか?」
「あ、頭に!? 覚えてないわ……」
「じゃあもうダメみたいです。降参!」
「浅すぎますわ!? あなた、普段どんだけお姉様に興味がありませんの!?」
②一ノ瀬紗弓
「西宮さん! ボク、西宮さんに勉強を教わって国語のテストの点数が2点上がりました!」
「それはなんとなく覚えているわ。でも2点は誤差よ」
「おぉ! 紗弓ちゃん良い調子! もう一押しだよ!!」
「あの後、西宮さんボクのことお持ち帰りしたいって……」
「ううっ……頭がっ」
突如、頭を抱え苦しみだす西宮。
それを見た北条は今までの経験則上、嘘臭さを感じ取る。
「ほんまか、こいつ? 都合の良い分だけ
「マキ!! 今もなお、麗奈はこんなに苦しんでいるんだよ!?」
③北条美保
「なんか家に泊まり来て枝豆食ってたよな。
「なんで北条家はそれを止めてあげないの!?」
「莢があんまり美味しくは無かったことは思い出したわ」
「ほんで、風呂場で姉貴をK.Oして、翌日にお詫び何置いてったか覚えてる?」
西宮は痛む頭を庇うようにこめかみを抑えて考える。
サラッと流されているが、他のメンバーは何故北条が風呂場でK.Oされたのかが気になっていた。
「……記憶が曖昧だけど、菓子折りとかを置いていったのかしら?」
「着用済みのパンツとブラジャー置いて行ったぞ」
「う、うう……まさか私がそんなことを……」
「まさかっていうか、西宮さん今までそんなことしかしてこなかったけどねー」
「ゆーちゃん!! 麗奈は今、過去の自分とのギャップに苛まれて……!!」
北条と南雲の間では東堂も催眠術に掛けられている疑惑が浮上していた。
④四方堂ガブリエル杏樹
「何故私がこの順番なんですか!? どう考えても大トリでしょう!! 少なくとも北条さんよりかは……」
「尺があるんだから、はよせい」
「くッ……! ……憶えていますか? 全寮制の学校で同室になった時の事を……」
「まったく記憶にないわ」
「あ、ごめんなさい。杏樹も一部記憶が欠損してるみたいで」
西宮が記憶喪失の間にある事ない事を吹き込もうとしていた四方堂。
困惑する全員に対して十河が注釈を入れる。
「で、ではッ!
「覚えて……ないわ。でも何故かしら? 今、頭の中にフッとちくわの輪郭が…」
「ちくわですの……? 何故なんでしょう?」
「き、記憶喪失の人が言う事だから! あんまり深く考えない方がいいよ!」
***
改めて振り返れば、これまで西宮が歩いて来た道は平坦ではなかった。
各メンバーとの思い出を振り返りながらお送りする大河ドラマ『西宮』。
なんと言っても大トリはあの人……
次回、遂に感動のフィナーレです。ご期待ください!(ナレーター風)
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