第224話 催眠に掛かりやすい人
万里から忠告された事により少しは悔い改めようと思った西宮。
連日お疲れのご様子の
「西宮さん。授業に関係ないものを出さない」
授業中に机の上に怪しげなセットを広げた西宮は早速百合のストレスを加速させる。
「あなたの為に練習してきたわ。さぁ、これを見なさい」
西宮は百合を見つめながら顔の前で怪しげな振り子を左右に揺らす。
「ほーら、眠くなーる。眠くなーる。一生ストレス感じなくなーる……」
「……今なおストレスは沸き上がっていますが?」
百合がもう一度よく机の上を観察してみると西宮の手元に、
『よくわかる催眠術!! 誰でも2秒で爆睡 ~入門編~』
という、怪しげな本が置いてあった。
「はぁ……、もう催眠術なんて掛かる訳…………」
――パタン。
「え、うそー!? こ、こわっ……」
「麗奈……え? 何したの!?」
盛大にフラグを立てた百合は文字通り2秒で催眠術を目の当たりにした。
「てか…………、お前が寝るんかーーーいッ!?!?」
ちなみに催眠に掛かったのは術者本人の模様。
***
机に突っ伏して寝始めた西宮。
どうせいつもの悪ふざけだろうと、まず初手は疑いから入る4人。
「れ、麗奈ー……? もうこのコントはひとしきりオチまで行ったから起きても大丈夫だよ」
だが無反応。
「西宮さん。尺取り過ぎだから。もうそろそろ起きないとみんなシラケちゃうよ?」
これも無反応。
「西宮ー? いま起きたら百合先生も怒らないってさ」
やはり無反応。
「もうっ! 西宮さん! ちゃんと真面目にして下さいっ!!」
バンッ、と百合が机を叩くと西宮はゆっくりと起き上がった。
すると彼女はゆっくりと教室を見渡した後、席から立ち上がる。
「……な、なんですか? 今度は何を……」
「授業の邪魔をしていた様で、申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる西宮を見て百合の手から教科書が滑り落ちた。
と言うか、教室の全員の手から筆記用具が滑り落ちた。
止まった時間の中で西宮だけが動き出し、机の上の余計なものを片付けて筆記用具と教科書とノートを出す。
「そ、そんな……! 西宮さんがノートを出すだなんて……!? あまつさえシャーペンを持つだなんてっ!?」
「あ、あ~。そういうね。真面目なフリしてボケた後に元通りになるやつ……」
「南雲さん。授業中に私語は慎んだ方が良いわ」
「今はガマン……今はガマン…………」
南雲は西宮が何を企んでいるのかは分からないが、今はとりあえず付き合ってみる事にした。
すると……。
なんと西宮は授業が終わるまで大人しくしていた。
寧ろ、真面目に授業を聞いて丁寧にノートまで取っていた。
休み時間には次の授業の準備を始める西宮を見て、いよいよ4人は正気を疑った。
「麗奈……いつものノリならもうここら辺でネタバラシだよね?」
「ノリ? ネタバラシ? 言ってることの意味が分からないわ」
「ほ、ほら! 勉強とかもう無理しなくていいから!」
「勉強をしないって……あなたたち、何をしに学校に来ているの?」
「いや、そうなんだけどもさ。お前に言われるとなんだか無性に腹が立つな」
「あわわ、わわ……ま、まさかこれ……本当に催眠術に……!」
慌てふためく百合を落ち着かせ、とりあえず4人は西宮を保健室へと連れて行った。
***
「君たちが初めてだよ。正気になった人間を元に戻してくれと頼んできたのは」
いくつかの診断が終わった万里は5人の前の席に腰を下ろす。
「特筆すべき点は2つ。まず、数学の計算問題を出してみた。これが結果だ」
普段の西宮ならまず解けないであろう計算問題を4問全問正解していた。
「えぇ!? 麗奈の頭が良くなってるんですか!? もうそれ催眠術とかいうレベルでは……」
「私が見る限り、頭が良くなっているというよりは問題を解こうという意思があるように見えた。無意識に頭の片隅にあった知識を使って頑張ったのかもしれないね」
「そんな……万里先生!! こいつはそんなッ……本当は努力なんてする奴じゃないんです!!」
「だろうね。よく知ってるよ」
変わってしまった西宮を全力で擁護する北条が痛々しかった。
彼女はまともになってしまった西宮を本気で心配していた。
「そして極めつけはこれだ」
万里は過去に西宮から貰った百合の裏モノ写真を西宮に見せる。
「や、やめてください……学校になんてものを……」
「ホントですよ!! え!? ど、どうして万里先生がそれを!?」
「まぁまぁ、今は細かい事はいいじゃないですか。どうやら、西宮さんはそっち系のものに忌避感を示しているみたいで」
「そんなッ……! 万里先生! 西宮さんからそっち系を取ったらカスみたな人格しか残らないよっ!!」
「それは言い過ぎ。元に戻ったらいっぱい良い所を見つけよう」
状況整理をした万里曰く、西宮は『真面目にして下さいっ!!』という百合によって暗示を掛けられた状態にあるらしい。
なので、百合がその暗示を解けば元に戻るのでは、と結論付けた。
「な、なんだ、良かったー……じゃあ、元に戻しますね! はい、西宮さん! どうぞ!」
パンッと百合が西宮の前で手を叩く。
「…………?」
それを不思議そうに見つめる西宮。
依然、真面目宮さんのままである。
「「「「「…………」」」」」 (←滝のように汗を流す5人)
「ど、どうやって催眠って解くんですかーーーッ!?」
「ふ、振り子!! 状況を再現しましょう!!」
「……この学園。変わった人しか居ないわね」
この後、万策尽くしたが西宮は正気から元に戻らなくなった。
命運は放課後、家庭科部のメンバーに託される――
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