第223話 猫と太刀
何故か行われた顧問認定試験を合格した
まずは料理の基礎として包丁の扱い方から勉強する事になったのだが、
……まぁ、進まないこと、進まないこと。
「二天一流、南雲! 参る! 鬼人化ッ!」
包丁を2本を掲げて頭の上でクロスさせた。
前半は宮本なんとやら、後半はゲームのネタで世界観はくちゃくちゃである。
「はい、もうふざけない。南雲さん、前回は柳生新陰流って言ってませんでした……?」
「我が巌流と勝負よ。この太刀を以て一刀に切り伏せん」
「はい、もう西宮さん……きゅうりを切るのにそんな大きな包丁は要りませんよ」
対抗した西宮は刃渡り30cm以上の包丁を下段で構えていた。
もうこの2人には子供用の包丁を握らせた方が良いのでは?と百合は検討を始めていた。
とりあえず、二刀流の片割れと危険な包丁を回収した百合は再び切り方を説明する。
「いいですか? 利き手で包丁を持って、反対側の手は猫の手で……」
「それはあなたがネコだから猫の手も出来るでしょうけど、私はタチだからさっきの包丁を返して頂戴」
「なんの話ですか!?」
「そ、それでは
「……何やってんの? お前の後輩?」
カオス過ぎる状態に北条は冷や汗を流す。
普段はクラメイトという水で薄められていた南雲と西宮がここでは濃縮還元されていた。
そこに大さじ4杯、一年生のヤベーやつらを加える事により百合の顔面からは血の気が引いていく。
「ちょっとこのままじゃ集中が出来ないから一旦、誰がネコの手で誰がタチの手なのかハッキリさせましょう」
「れ、麗奈? ごめん、僕、タチの手の意味がよく分からないんだけど……」
「安心しなさい。あなたはバリネコオブザイヤー受賞よ。その神の手で好きなだけ野菜を切りなさい」
「違うよ! あーちゃんはタチ! ちなみにワタシはネコです。どうぞ!」
「んんん? 手の話なんだよね? ……どうぞ、とは?」
調理場として使っていない方の机で無防備な猫のように転がる南雲。
この時、ようやく東堂は話の方向性がそっち系である事に気付いた。
但し、言葉の意味は分かっていない。
「なあ、姉貴。南雲あんなんなってるけどキモくないの? キモいよね?」
「いや、だいたいいつもあんな感じだぞ。 それに、まぁ……普通に可愛いと思うけど?」
「イライライラ……!! 姉貴はもう妹ネコ飼ってるじゃん! だからちゃんとアタシの面倒を見る事!」
「お前の面倒は毎日見とるわ」
先ほどと同じ机にもう一匹の猫が転がる。
最早、先ほどまで何をしていたのかすら分からないこの状況に物申すのはこの女、
「絶対に先輩はタチですよ!! そして、私がネコです! どうぞ♡」
力強い宣言と共にまた机に猫が増える。
机の上には猫がぎゅうぎゅう……というか、
「そっかー、じゃあ君とワタシはネコ同士。合わないみたいだから別の人探そっか?」
「そ、そんなぁ! 北条先輩はどう思いますか!? タチの先輩いいですよね!?」
「なんで俺に振った!? 南雲のタチぃ……?」
猫南雲で十分な満足感を得ていた北条は既にお腹一杯だったが、一応言われたとおりに想像をしてみる事に……
「……いいかも」
「ですよね!! ……ん? なんか顔が赤い……ガチ恋なら普通に殺しますけど??」
「ちょッ、さっきの包丁!? 自称ネコが太刀持ち出すなって!!」
自分から話を振ったのに太刀を握りしめ殺害予告をする十河。
――これが本当のタチが悪い……ってね。なんちゃって。
一週間ほど休載します。
***
そんな冗談はさておき、一ノ瀬が総括をしてくれた。
「な、なんかみんな解釈が違うみたいですねー」
「そうね。この人たちは自分の性癖を相手に押し付けているだけよ」
「お前が言うな!!」
「ところで一ノ瀬さんはネコの手? それともタチの手?」
「あ、まだその『手』とかいう設定あったんですね……ボクはまぁどっちでも、リバの手って事でいいです」
「……!! あなた……先輩と違ってそういう話が分かるのね。明里にも今度教えてあげなさい」
全員の現在地が分かったところで西宮が百合に視線を移すと彼女は過剰なストレスにより卒倒していた。
なんだいつもの事か、と家庭科部は百合を放置して冷静に洗い物をしてから彼女を保健室へと連れて行った。
***
担架に乗せた百合を8人で保健室に搬送し、養護教諭の万里に預ける。
ふと気になった西宮は万里に尋ねた。
「あなたはネコの手? それともタチの手?」
「大太刀の手だよ。そんじょそこらの小太刀どもとは一緒にしないで欲しいね」
「なるほど。この女は危険ね。……みんな、百合先生が起きるまで見守ってあげましょうか」
「さんせー! 百合先生の安全はワタシたちが守るッ!!」
「まぁ、一番危害を加えてるの君たちだけどね」
ぐうの音も出ないほどの正論を吐き捨てられた8人はちょっぴり悲しい気持ちになった。
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