第222話 百合格付けチェック
先日、めでたく活動内容が決まり家庭科部はようやく真っ当な活動を行う運びとなった。
初回はとりあえず簡単な調理から始めて行こうと思っていたのだが、西宮さんはそれについて何か物申したい模様。
「果たして、
「……西宮さんは私に喧嘩売ってるのかな? 私の教科担当知ってる?」
「仮に家庭科の教師だったとして、本当に料理が出来る保証はあるのかしら?」
「仮じゃありません!! あなたは去年、私から何を学んだんですか!?」
どう考えても喧嘩売ってるようにしか聞こえない西宮は更にこう付け加えた。
「もし、本当に実力があるなら、調理した姿を見せなくても百合先生が作ったかどうかが分かるはずよ」
「ちょっと言ってる意味が分かりません」
「要するに私は、
『顧問を名乗りたいならまず部長の俺を倒してからだろ!』って、言われたのよ」
「言ってねぇよ!!」
「どちらかと言うと私も別に名乗りたい訳では……」
有無を言わさぬ西宮が考えた料理バトルのルールによると、
①勝負は明日、場所は家庭科室
②メニューは自由
③制限時間は90分
④作ったのがどちらか分からないようにする
⑤票が多く集まった方の勝ち
という、単純なルール。審査員は部員がやるらしい。
どちらが作ったものかは分からないので不正はないだろうとの事。
百合としてはオリエンテーションとして皆に手料理を振舞うのはやぶさかではない為、これを了承した。
結果、対抗馬として選出されたのは家庭科部でもっとも家庭的な女こと北条に決まった。
***
翌日、どうやって押さえたのか分からない別室にて9人は待機している。
当たり前のように五味渕がカートに料理を乗せて運んできた。
一応、言っておくが彼女は学校関係者ではない。
それぞれの机に小鉢に入った料理が2つずつ配膳されていく。
一方にはロールキャベツ、もう一方にはクリームシチューが入っている。
「西宮さん、彼女は誰……いや、もうこの際それはいいや、これは何?」
急遽呼ばれた養護教諭の万里は未だ状況を把握していない。
「君の事だから、どちらか一方がクソマズいとかそういう企画とかだろ」
それは同じように呼ばれた千堂も一緒だった。
「いえ。多分どっちも美味しいわよ。素直に美味しい方を選んで頂戴」
「そこはかとなく怪しいな」
「まぁ、この場にいる全員食べるならヤバいものは入ってないか」
そう言って2人はロールキャベツを箸で摘まんで同時に口に入れる。
「あ、言い忘れたけど。一方は百合先生が作った料理よ」
「「 ごっふぁッッッ!! 」」
間一髪の所で2人はロールキャベツを吹き出しそうになったお口に手で蓋をした。
「……ごっほ、ごほ。に、西宮さん! どう考えても確信犯だろ!!」
「ちょ、ちょっともう1個ロールキャベツ貰えるか?」
「まったく汚いわね。次は大事に食べなさいよ」
「「 お前が言うな!! 」」
食べ比べた2人の手先が震えている。
そう、今彼女たちが迷っているのはどちらが美味しいか?……ではない。
『どちらが百合聡美が作った料理か』を悩んでいるのだ。
と言うか、どちらも美味しいせいで正直全く分からなかった。
万が一外せば
「ほ、北条妹。君はお姉さんが作ったのはどっちだと思う?」
「うわ、せこー。自信無いのバレバレじゃん。百合先生かわいそー」
2人はもう一方の料理がここに居ない北条姉のものだと推測した。
頼られた美保も美保で得意げに胸を張る。
「ったく。しゃーねぇな。ホントの姉貴愛ってのを見せてやるか」
2つの料理を食べ比べた美保の顔から笑顔が消え、スプーンを手にしてカタカタと震えだす。
「……みほっち? ウソだよね?」
「お、おおおお、おちつけ一ノ瀬? 毎日食ってんだぞ? 流石にな?」
こっちもこっちで『どちらが北条茉希が作った料理か』どうかで悩み始めた。
一方、他のメンバーは純粋な気持ちで美味しい料理に舌鼓を打つ。
「うーん。このレベルだともう個人の好みだよね」
「ふーん。北条さんってちゃんと料理出来ましたのね」
「先輩どっちが好みですー? 今度私が作ってあげます♡」
そして、運命の結果発表が始まる――
***
A.ロールキャベツ
(千堂、万里、美保、西宮、四方堂)
B.クリームシチュー
(東堂、一ノ瀬、南雲、十河)
投票が終わり、司会の五味渕は勝利インタビューの為にシェフを部屋に招き入れる。
ロールキャベツは作ったのは……
「わ、私でーす。……って、千堂先生と万里先生っ!?」
百合は2人の存在に驚いた。
そして、その2人は天を仰いでガッツポーズをしている。
「お、お2人がいらっしゃるならもっと手の凝ったものにしたのに……」
「い、いや! 美味しかったよ。すっごく美味しかった! キャベツが受肉してた!」
「はい! なんかもう、あれです! えーと……そう!! めっちゃ良い出汁出てました!」
「そ、そうなんですね! メーカーさんが頑張って作ってくれてますからね……!」
そりゃそうである。制限時間的にも使った味付けは市販のコンソメ顆粒である。
「あなたたち、碌な食レポ出来ないなら無駄な事言わない方が良いわよ」
一方、無表情で崩れ落ちてポロポロと涙を流す美保は姉に慰められていた。
「ま、まぁ、簡単な料理だから、な? ほら、元気出せ!」
「ごめん姉貴……もうこんなバカみてーな舌いらないよな? 切るね?」
「おい、バカッ!? ヘラるな!!」
「そ、そうだよ、みほっち! これからたくさん茉希さんの料理食べて勉強してこ!?」
「うん……ひっく、一生食べりゅ……」
こうして、1名が心に深い傷を負ったものの、百合聡美は無事家庭科部の顧問として認められた。
まぁ、認めるとか認めないとか関係なく彼女が顧問なんですけども。
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