第221話 姉と姉、呼び出したのも、姉と姉
ある日の昼休み。
突然だが、西宮と北条は生徒指導室に呼び出しされていた。
「座りたまえ」
赤髪の教師に着席を促された2人は訝しみながらも席に座る。
「まぁ、わいらもほんまはこんな事したかあらへんけど、なんで自分らが呼ばれたのか分かってるやろ?」
青髪の教師は2人を諭すようにカツ丼を差し出す。
ひとしきり考えた後に2人は顔を見合わせて頷く。
「分かりません」
「分からないわ」
「そう……あくまでも自白するつもりは無いと……なら、
スッっと立ち上がった碧が2人を見下ろし、両手を振り上げる――
――ダンッ!!
衝撃音にビクッとなった2人は両手を机について頭を下げる碧を見て更に困惑する。
「頼むわ!! 妹との交流を深める方法を教えて欲しいねん!!」
「お頼み申す」
「「えぇ…………」」
そう、この場に居るのは全員――『姉』。
今から行われるのは姉たちによる、姉たちの為の、姉たちの会議である。
わざわざ生徒指導室に呼ばれて茶番まで見せられた2人は緊急『姉』会議なるものに巻き込まれていた。
***
つまるところ、東堂家の姉たちは東堂(妹)と毎日顔を合わせるようになったのだが、思うように交流出来ないという事らしい。
それを東堂と仲が良く、しかも同じく『姉』である2人に相談しようという趣旨だ。
「なんや自分、妹と毎日キスしとるらしいな? 美保が言うとったで」
「……あのバカ。クラスで言いふらしてんのか? 今日の晩飯は抜きだな」
よくよく考えて見れば碧と茜は美保や四方堂の担任なので、それらの事情に詳しい事には納得がいった。
まぁ、要するに今ここで呼び出しを食らっているのも『妹』たちのせいである。
「ま、毎日……? あなた妹とそんな爛れた生活をしているの?」
「……毎日じゃねぇし、駄々捏ねた時におでことかにしてやるくらいだぞ!」
「ふーん?」
西宮は自分自身が駄々を捏ねた場合にこの女はどういう対応をしてくれるのかが気になった。
前回のデートの際に北条が甘えられるのに弱いのはリサーチ済みだ。
「私も妹と爛れた生活がしたい。それくらいの志は持っている」
「ただの性欲じゃねぇか! 志なんて崇高なもんじゃねぇよ!」
「よくこの姉たちに囲まれてあの女は今日まで
「そんなん、わいらが大事に大事に囲って来たからやで」
「ほんで、いまそんな農家の姉のたちに収穫されそうになっていると。あいつも苦労してんだな……」
北条自身が感じているように姉には姉の苦労があり、妹には妹の苦労があるんだという事をしみじみと感じる。
……おそらくこの姉たちの苦労の方向性は間違っているが。
色んな女たちに狙われている東堂にはこれからも強く生きて欲しい。
北条はそう願った。完全に他人事である。
「せやけど四方堂の場合、姉に対して性欲とか下心は一切ないって言うとったな」
「お姉様とは精神で繋がってるみたいな意味不明な事を言ってた」
「あぁ……そいつはスピリチュアルシスターだから。別名:他人な」
「でも、ガブからキスを強要された事はあったわよ」
「嘘ばっかだなおい!? この界隈の妹は参考にならねぇだろ!?」
過去に西宮は南雲の自室で四方堂にキスをせがまれ、
北条が言う通り2人の妹は珍獣の類なのでまったく参考になっていなかった。
「そもそも、あなたたちは明里と今どれくれらいの仲なの?」
「毎日夕飯一緒に食べて、私か碧のどっちかと一緒にお風呂入って、」
「ほんで、夜は毎日一緒に話しして、姉妹全員で一緒に寝とる」
「めちゃくちゃ交流あるじゃねぇか!? この会議いるか!?」
一応、彼女たちは同じアパートで3部屋借りているのだが、それなら最早シェアハウスすれば良いのでは?という話である。
予想以上に交流していた東堂姉妹だが、彼女たちは更にその先へ進みたいらしい。
「ふむ……これは私の勝手なイメージなのだけれど、あなたたちがキスして欲しいと言ったら明里は頬にキスするくらいはしてくれそうだけど?」
「「 !? 」」
妹とのキスを想像した2人は顔を赤らめる。
「そ、そんなっ……突然するのには心の準備が……! 絶対無理っ!」
「わ、わいも流石に照れてまう……! 気絶するわ!」
「……お前らの方の問題かーーーいッ!!!!」
この日、北条から一番のツッコミが炸裂する。
西宮は何故東堂があそこまで性知識が無いのかを完全に理解した。
諸悪の根源はこいつらだった。
どうやら東堂の姉たちは妹に対してだけめちゃくちゃ
茜は口では爛れた生活どうこう言っていたが、それはあくまでも志の話。
それはこんな姉たちに大事に囲われたら、ああもなる。
***
斯くして、問題点は見つかった第一次姉会議だが解決には至らず。
西宮と北条はまたいつかしょーもない呼び出し食らう心構えだけはしていた。
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