第219話 今日の家庭科部(出張版)
皆様は家庭科部と言うとどのようなものを想像するだろうか。
そう……、
『流れる汗、ぶつかり合う思い』
今、皆様が想像した通り、彼女たちはゴールポストへ向かって駆け出していた。
と、言う事で今回はバスケットボールをしているみたいです。
***
本日はスポーツ推薦である一ノ瀬が初めて運動部の助っ人に参加するという事で、家庭科部総出で付き添いをする事に。
こういうアホな事をする時は、だいたい北条がバイトで不在の時と相場が決まっている。
尚、顧問の
一ノ瀬とセットでついて来た謎の6人に困惑するバスケットボール部。
それが今、巷で話題の家庭科部ともなれば身構えるのも仕方は無いだろう。
「あ、東堂さんじゃん! どしたの?」
「そ、その節は失礼しました! どう? その後、ヤり直しは出来た?」
「ちょっと、町田……! 南雲ちゃんも西宮さんも居るんだから……」
去年、一緒に旅行へ行ったバスケ部のおバカ3人衆の市川、町田、村野も居た。
一瞬不穏な雰囲気を感じた部長が慌てて謝罪する。
「ま、またお前たちは余計な事を……! すいません、紹介が遅れました。部長の都澤です。よろしくね」
「一ノ瀬紗弓です。よろしくお願いします!」
「東堂明里です。こちらこそご迷惑をお掛けしました……!」
「……ちなみに、一ノ瀬さん以外はどういったご用向きで……?」
部長は優しく言ってくれてはいるが、要するに
『文科系の得体の知れない部活がなんのようじゃい』
ということである。
なので、西宮も優しくかくかくじかじかして差し上げた。
「……ほう。つまり、胸を貸してやるから掛かってこい、と?」
「まぁそうも受け取れるかしら」
「麗奈!? どういう事!? どう説明したらそうなるの!?」
「い、いいでしょう。見せしめなんてしたくありませんが、こちらにも面子がありますので。全力で行かせて頂きます」
こうして、合流するはずの助っ人は何故か家庭科部からの刺客へと変貌を遂げた。
***
家庭科部は即席チームなのでそこまでポジションを気にしていない。
それでも東堂、一ノ瀬、十河だけはなんかそれっぽい話をしていた。
もう2人は最低限の運動神経を持つ四方堂と、ボールを扱えない事を除けば運動神経に秀でている南雲が選出された。
とりあえずは10分という事で試合が開始された。
ジャンプボールで当たり前のようにボールを弾いた東堂から一ノ瀬へとボールが渡る。
一ノ瀬は辺りを一瞬見渡した後にドリブルで突破していく。
「うっそッ!? はやッ!」
一応、ちゃんとレギュラーだった市川は一ノ瀬の瞬発力に目を見開く。
あっさりと抜き去った後に一ノ瀬は東堂へとパスを出す――
「……甘いッ!!」
ところが、部長の意地かそのパスコースは塞がれていた。
……と、言うのを見越していた一ノ瀬のパスはフェイクで反転させた手はノールックで十河の方を向いていた。
「あ、それは無理ー」
一ノ瀬の前でディフェンスしようとしていた町田もお手上げ状態である。
そして素早く綺麗なフォームで3ポイントシュートを放った十河のボールはゴールへと吸い込まれた。
「ほんで入ると。すごー。家庭科部」
その様子を村野は唖然とした表情で見つめていた。
「やるじゃん、十河さん。一応、口だけではなかったんだね」
「そっちこそ。先輩にいいとこ見せたいからもっとパス出してね? どうでしたか~、先輩♡ カッコよかったですか!」
「うんうん。すごい、すごい。もう50点くらいよろー(棒」
「あの十河さんという子もかなり出来るな。一ノ瀬さんもとんでもない逸材だ! まさか、東堂さんを囮に使うとは……これはアツい勝負が出来そうだ!」
白熱の戦いは続いたが、結局家庭科部がダブルスコア以上の差をつけて勝利した。
***
「いやぁ……完敗だよ。家庭科部がここまで強いだなんて」
「いえいえ。うちも全国目指すにはまだまだよ」
「え、西宮さんはどういう立ち位置なの? 試合出てから言ってくれる?」
「お前らー、ちゃんとクールダウンもしとけよー。ケガするぞー」
名監督のような空気を醸し出している西宮は部長と握手をする。
美保もトレーナーっぽく振舞って自分も家庭科部ですよアピールをしていた。
但し、本来は家庭科部に監督もトレーナーも必要はない。
「もしよかったら、試合の時にあの3人を助っ人として貸してくれませんか?」
西宮監督が言うには、どうやら3人とも空いてるときなら大丈夫らしい。
「それは心強い! じゃあ…………市川、町田、村野。お前らベンチな」
「ですよねー。まぁ妥当っしょ」
「異論なーし。でも、出場選手5人中3人が助っ人でどうなん?」
「もうこれ、実質家庭科部だよね」
「お前ら…………、
そこは悔しいから頑張りますだろうがッ!! もっと真面目に練習しろッ!!」
家庭科部にも問題が多く存在するように、バスケ部もバスケ部で問題を抱えてそうだった。
今日もやりきった感を出した家庭科部だが誰に褒められるでもなく、いつものように怒られるのはまた翌日の話である。
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