第217話 負けられない戦い


キャッキャッとコスプレをして盛り上がったら記念撮影で、はい終了。

これではただコスプレを楽しんだだけである。


いや、楽しむだけで良いのだが……



「罰ゲームをしましょう」


「なんでだよ!?」



普通に終わるのも味気ないという事で西宮が余計な一言を放った。



***


勝負の前に罰ゲームの内容を説明すると、

現在の衣装のまま職員室で本心状態であろう百合ひゃくあに、本日の活動報告書(記念写真)を持っていくという内容。

当然、今まで活動報告書など作った事はない。


放課後とは言え、それなりに生徒も居るので目撃される可能性はあるだろう。

梅雨町や丸井、北条のコスプレしているメンツは比較的軽傷だが、一部激ヤバコスの方々には死活問題だった。



「ムリですよッ!! ボクたちまだ入学して1週間ですよ!? 初めての職員室にドラちゃんでデビューするのはマズいですって!!」


「そんな事言ったら僕なんて園児服だよ!? 即生徒指導室行きだよ!!」


「じゃあ、勝負に勝つしかないわね」



勝負の内容は単純。


――モノマネ対決である。



「よし。それで行こう。いやー出来るかなー……梅雨町さんのモノマネ」


「私は丸井さんのモノマネ得意です♡」


「待て待て待てッ! 明らかに有利な奴らいるって!」


「俺は北条茉希。異論はねぇ」


「マジで黙れ。誰だよこいつ。そんないちいち名乗ったことねぇよ! 東堂と一ノ瀬さんはいいのか!?」



北条が話題を振った2人は決意の炎を目に宿している。

(※着ぐるみを着ている一ノ瀬の表情は予想です。)



「ここで恥を掻いて死ぬか、外で孤独死するか……。マキ、僕はやるよ」


「ま、マジか……」


「茉希さん、ボクもやります。

だって…………、茉希さんには勝てそうな気がしますので!」


「てめぇらそれが理由か!! そりゃそうだよなぁ!? 俺、このキャラ知らねぇもんなぁ!?」



仲間だと思っていたメンツからも人柱にされた北条はもはやツッコミに回るしか道は無かった。

マスターを問う事しか出来ない四方堂のモノマネや、ヤケクソになった西宮の必殺技のモノマネなどにツッコミ倒した。

中でも『ふぇぇ……』しか引き出しのない東堂の幼女モノマネや、イチえもんの秘密道具は涙なしには語れない。


こうして、自らの尊厳を犠牲にした仲間たちはやり切った表情で北条を職員室へと送り出した。



***


コツコツと静かな廊下を歩いて職員室へと向かう北条。

眼帯をしながらヒールの高い靴を履いているので転ばないように慎重に歩いている。

悪ノリしていた人たちにどぎついレオタードで徘徊させられそうになったがスカートだけはなんとか死守した。


現在、家庭科室では五味渕が学園各所に設置した監視カメラを経て、北条の動向を全員で観察している。

一応、北条に隠しマイクも装備しているので音声付きである。


今のところは遠目で見た生徒が2度見した後に写真を撮っているくらいでそこまでの問題は起きていない。



(よしッ……! これならバレずに行ける!)



と、その時――



「えっ、すご! クオリティ高ッ!?」


「めちゃめちゃスタイルもいいんだけど!」



職員室へ鍵を返しに来ていたコンピューター部のオタクどもが扉から出て来た。

彼女たちは旅行で北条と同室にもなったことのある、松上、竹中、梅下の3人である。



「あ、あのー? コスプレイヤーの方ですか?」



現状は中身がバレてないので、バレたくない北条は言葉を出さずに短く頷いた。



「…………(コクリ)」


『いや、違うでしょ』


『なんでちっさい嘘ついたんだ、姉貴?』



家庭科室のメンツは総ツッコミである。

パシャパシャと勝手に写真を撮り始める3人は北条の近くに寄った瞬間にふと気付く。



「(パシャパシャ)……ん? すんすん。あれ? この香水の匂い……」


それは旅行の際、同室した松上が北条からいかがわしいサービスをされていた時に嗅いだ匂いと一致した。


「え……(パシャパシャ) この人ってまさか……」


アホみたいにローアングルで撮っていた竹中もなんとなく『お姉ちゃんプレイ』の記憶が蘇る。


「北じょ……ぅむむむ!(パシャパシャ)」



その名前を出そうとした瞬間、北条は自身の口に左の人差し指を立てながら右の人差し指で梅下の唇を軽く押さえる。

色っぽいお姉さんのような仕草に3人は生唾を飲む。



『あの女は相変わらず謎のサービス精神を……五味渕。あの3人を消しなさい』


『かしこまりました』


『ついでにむしゃくしゃしたから、あの女のスカートも剥いで来なさい』


『かしこまりました』



刹那、北条の背後に現れた五味渕はスカートを剥ぎ取り、その光景に目を見開いていた3人に手刀を入れて去っていった。

残されたのは際どいレオタードの女と床に伸びる3人。



「…………。(な、何しに来たんだよ……あの、ゴミ忍者!!)」



しかし、ここで家庭科室に戻ってもう一周などは絶対に避けたい北条は引き続き他人のフリで職員室に入る決意をした。

さしもの丸女の職員室とは言え、目隠しレオタードというアブノーマルな恰好で入って来た女は前代未聞である。


周りは騒然とする中、彼女は何も言わず放心状態の百合の目の前に報告書だけ置いて去っていった。



***


「ひゃ、百合先生……! 百合先生!」


「は、はい! 百合です!」


「そりゃそうでしょうよ……。じゃ、なくて! さっき変わった生徒が報告書を置いて行ったみたいですよ! 新体操部始めたんですっけ?」


「し、新体操?? 家庭科部なんですけど」


「家庭科部!? 変わった服を着て活動してるんですね……」


「そんなこと無いと思いますけど……」



百合は否定したが、家庭科部はエグめのレオタードで怪しい活動をしているらしいと教師の間でしばらく話題になった。



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