第212話 修羅場に気付く後輩


デートやら気まずい飲み会やらがあった週末が明けて月曜日。

本日は遂に家庭科部の活動内容が決まる。


と、言うのは嘘で東堂も北条もバイトなので本日の家庭科部は休みとなった。


昼までには顧問の百合ひゃくあの許可も貰っているので、その時点で部員には連絡が回っている。

本来なら南雲と西宮と一緒に下校するのだが、後輩4人にはやる事があるそうで2人には先に帰ってもらった。


教室に集まった4人は東堂&南雲のお土産と西宮&北条のお土産を囲む。



「5万でいかがかしら?」


「いや、そういう制度じゃねぇから。姉貴のお土産でもあるんだぞ」


「じゃあ、先輩のお土産要らないんだったら私が全部貰ってくね?」


「ふーん。十河さんはそんなに東堂先輩のお土産が大事なんだね」



お土産を巡って醜い争いが繰り広げられていた。



***


まず、東堂と南雲のお土産は『苺のジャムクッキー』。

西宮と北条のお土産は『ちんすこう』。


『みんなで仲良く食べてね』


と、東堂に言われたのだが……



「東堂……あの女はまたも先輩に……油断も隙もない!」


「要らないんだったら十河さんの分は無しね」


「東堂からの部分だけ除外して」


「じゃあ、ジャムは全処理だけどいい?」


「え、そこ!? 苺要素が東堂の部分なの!?」



流石に一ノ瀬も苺ジャムをこそぎ取るのだるいのでクッキーを半分に割って渡し、半分は南雲からのお土産という事で十河は満足気に食べた。

もはやこの行為に意味は無く、これは十河の精神衛生を考慮した儀式のようなものである。



「いや、箱の半分が東堂先輩からのプレゼントってやればいいじゃん。なんで袋から開けたクッキーをわざわざ半分こにしてんだよ」


「あなたたち本当は仲が良いんじゃありませんの?」



なんと、東堂が予想だにしない程に仲良く食べていた。



「ほんでもさ、なんで南雲は東堂先輩とイチャコラしてんのに人の姉貴に色目使ってくんだよ」


「はぁ? 妄想きつ。どうせあなたの姉が勝手に惚れてるだけでしょ」


「てめぇこれ見て同じこと言えんのかよ」



美保はスマホから、北条が南雲と出会って間もない頃に撮った『チュープリ』を見せる。

顔面蒼白となった十河はわなわなと震え始めた。



「ま、まさか先輩……唇に頬を擦り付けられて……」


「偏見がやべぇ!! こいつマジでヤベー奴だな」


「そうですわよ。わたくしが保証致しますわ」


「これ、どう見てもアングル的に南雲先輩から行ってるよね……」



しかし、怒り心頭の美保が言いたいのは南雲の事だけではない。



「しかもよ、なんで今回は西宮さんが姉貴とイチャコラしてんだよ」


「はぁ? 妄想きつ。どうせあなたの姉が脅したのでしょう?」


「てめぇもこれ見て同じこと言えんのかよ」



姉が昨日のデートから帰って来た後に、美保は西宮と姉がチャットしているのを覗き見た。

その時、偶然『姉におんぶされてる西宮』の自撮り画像を目撃してしまう。


咄嗟に後ろから激写した際の写真を四方堂に提出すると、顔面蒼白となった彼女はわなわなと震え始めた。



「お、お姉様……まさか誘拐されて……」


「誘拐されてんのに自撮りする訳ねぇだろ。こいつもヤベー奴じゃねぇか」


「そうだよ。私が保証してあげる」


「に、西宮さんてこんな風に笑うんだ……」



この場で一人冷静な一ノ瀬だけは4人の先輩の複雑そうな関係に気が付いた。

情報を整理する為に3人に今一度関係性を聞いてみる。



「先輩は私が好きで~♡」


「お姉様は私の事が大事で~」


「姉貴はアタシが好き!」



「ダメだ。ヤバい人しかいない」



一ノ瀬は誰も当てにならない状況で、先輩組の現状のベクトルが、


東堂⇒西宮⇒北条⇒南雲⇒東堂


という、仮説を立てた。

これは限りなく正解に近いのだが、実際には矢印の数が倍に増えるなど予想もしないだろう。


ただ、複雑であるには変わりはない。


(修羅場とかにならないのかなぁ……?)


先輩たちの笑顔の裏にはそんな事情があったのだと、漠然と考えながらちんすこうに手を伸ばすと、



「……で、先輩はその時~」


「……で、そこでお姉様は~」


「……で、姉貴はなんと~」



「え? この人たち誰と喋ってるの……?」



誰も聞いてない身内自慢を語る人たちを見て、一ノ瀬は狂気を感じながらもちんすこうを食べるのであった。



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