第211話 麗奈ちゃんバックドロップ
「た、大変だ、お袋!! 姉貴が居ねぇ!! スマホにも出ねぇ!!」
「あぁ、茉希なら……」
「畜生!! 警察の野郎、アタシじゃ話しにならんからお袋出せって……!!」
「はぁ!? アンタ、いま警察に電話してんの!? バカなの!?」
美保からスマホを奪い取った母親の瑠美は努めて低姿勢に謝罪した。
「……あ、はいぃ、本当に申しわけ……あ、はいいぃ! もう、本当にぶん殴っておきますので……はい。あのぅー……あ、はい。ご迷惑をお掛けしました~……美保、てめぇゴラ」
「どうだった、お袋? 解決しそうなのか!?」
「茉希は朝から友達と遊びに行くって聞いてんだよ!」
「い、妹に無断で!? 日本の司法終わって……」
「なんでお前への報告の義務があんだよ。司法は正常だよ」
瑠美は前日の時点で長女が朝早くから遊びに行くことを聞いていた。
友人と朝早くから遊びに行くなど、丸女に入る前の状態では想像もつかなかった。
普段から家事はやってくれるし、性格も文句なしの可愛い可愛い長女が報われて母としては胸が熱くなる思いだった。
……ところが、妹の方はご覧の有り様である。
これには母親も今度は目頭の方が熱くなった。
瑠美はこっそりと連絡先の交換をした一ノ瀬へ涙ながらにチャットを打つ。
『どうか、うちの美保を見捨てないであげて下さい』
『……善処します』
「で? 姉貴はどこ行ってんだ!? 迎えに行かないと!」
『ちなみに私は見捨てました』
北条家では妹が匙を投げられていた。
***
一方、泳ぎの練習をしていたはずの2人は何故か乱闘に発展していた。
ひとしきりイチャついた2人は呼吸を整える為に肩で息をする。
「はぁ、はぁ……無駄に疲れたわ。いい時間だし、お昼ご飯にしましょうか」
プールから上がろうと手すりに近づいた西宮。
「ふぅ……そうか。結局、何してたんだか分かん……」
――バシャ!!
油断した北条の顔面に最後の一撃を食らわせた西宮は颯爽と逃げる。
「はい。プールから上がったら反撃はなし、いいいぃ!?」
「てめぇ、コラ! セコいやり逃げカマしてんじゃねえぞ!」
手すりを持って階段を上ろうとしていた西宮を、北条は後ろから抱き着く形で引き止める。
北条自身も階段に足を掛け、西宮が手すりを離そうものならバックドロップも辞さない構えである。
「OK。一回、顔面に水掛けさせて? それでチャラにしてやるから」
「絶対にイヤよ」
「うぉらーーー!! 観念せい!」
「んーーーっ!! 話しなさい!」
こうして、プールから上がるのにも数分掛けて無駄に体力を使った。
***
その後、プールから上がりのんびりとシャワーを浴びた2人。
その時点で既に雨は止んでいたので昼食は屋外の席で食べた。
東堂たちに送った写真はこの時のものである。
食べ終わった2人はせっかくなので、当初の予定通り少し海を見て散歩をする事になった。
ぐずついていた天気はどうやら通り雨のだったようで、今は空も晴れ渡っている。
海辺に到着した送迎車から2人は一緒に降りた。
「おー! おー……ん? 意外と寒いな上着取ってくる」
沖縄とは言え、雨上がりの海風で予想以上の寒さを感じた北条は車内に戻ろうとした。
――ぴとっ。
そんな彼女の腕を抱いて体を密着させた西宮。
「……どう? これで暖かいわよね?」
少し上目遣いで北条の反応を伺う。
「いや、普通に寒い。腕離して」
「んーーーっ!!」
「もうええて」
そんな局所的に暖かくなったとしても寒いものは寒いので、車内へと上着を取りに入ろうとする北条。
「上着を着た後は自由にしていいから」
「あら、そう」
「……って!? おぉい!!」
いきなり手を離されてギャグのように車内に吹っ飛んだ北条は若干ピキつきはしたものの、その後は西宮の自由にさせた。
気を取り直して今度こそ海辺の道を歩く2人。
この後、お土産を買ったら帰路に着かなければならないので少しの間だけ。
「まさか本当に海に来るとはな……」
「あんな小癪な返信をするからよ。これに懲りたら次のデートからはちゃんと考えて返信しなさい」
「はいはい……てか、今日のお前やたらと駄々っ子しくてるな」
「あなたが小癪な真似ばかりするからよ。……嫌なの?」
「俺はどんだけ小癪なんだよ」
それとなく目線を外して海を眺める北条は少し照れ臭そうな素振りを見せた。
「……まぁ、別に……嫌ではねぇけど」」
その時、西宮に電流が走る。
(まさか、この女……)
瞬時に回った西宮の思考は北条が大事にする人間をリストアップしてみた。
・南雲優
・北条美保
・北条瑠美
この3人の共通点から導き出される結論は、
(甘えられたりするのが好きなのでは……!?)
「ねぇ、茉希。おんぶしなさい」
「やだよ。疲れたなら車呼べよ」
「違うわ。疲れた訳ではないの。ただ……あなたにおんぶをしてみて欲しいだけなの」
西宮はちょっと悲しそうに、それでいて甘えるように上目遣いしてみた。
もちろん、演技である。
「ダメかしら……?」
「…………ったく、しゃーねぇな。そんな長い距離は歩かねぇからな」
(あ、当たってるーーー!?)
海辺でおんぶされたのは一瞬だったが、西宮は大きな収穫を得た。
その後、約3時間かけて帰宅するのだが日帰りデートに往復6時間かけた価値は大いにあったらしい。
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