第210話 季節は春。場所は海。
昨日のデートが終わった南雲は家でゆっくりと過ごしていた。
夜から配信をつけようとだらだらしていると、4人のグループチャットに通知が入る。
『海ならデートを断れると思った女の顔』
謎の一文と共に、海の近くでお食事をする西宮と北条の写真が送られてきた。
「どゆこと?」
よく見ると2人ともそこまで厚着をしているとか言う訳でもなく、寒さを我慢している感じでもない。
そんな南雲の疑問は東堂が質問してくれた。
『どういう状態? もしかして、そこって………』
――『沖縄よ』
「どゆこと!?」
場所が分かっても意味は分からなかった。
***
数時間前。
「うわぁー……海がキレイだなぁ、おい………」
「喜びなさい。あなたご所望の海よ」
早朝から家を出て空港まで例のリムジンで連れて行かれた北条は現在沖縄に居た。
西宮家の保有しているプライベートジェットでここまで来たのだが、北条は機内で『プライベートジェット 値段』と検索してスマホをそっと閉じた。
しかしながら中々にグロい金額だったので、念のため何度か確認した一般庶民の北条であった。
「で……何すんの?」
「あなたが海が良いと言ったのよ。当然、エスコートくらい出来るんでしょうね?」
「さーせん。調子乗りました。愚かな私めを導いてください」
「まったく、仕方ないわね。それとなく予定は組んであるわ。行くわよ」
「ん」
しっかりとサブプランを用意していた西宮は、いつも通りの無表情だがデートにはノリ気らしい。
北条が差し出された手を繋ぎ、こうして2人のデートが始まる。
***
あいにくの天気で雨が降り出しそうな空模様の中、西宮は雨天のスケジュールも考えていた。
内心ではノリノリでウキウキなのである。
そんな彼女が北条を連れて行ったのはシーサイドの温水プール。
4月の海は
ちなみに、当然西宮家の私物である。
「ごめん。俺、水着持ってな……」
「用意してあるわ」
「だろうな」
北条はもはやツッコミすら入れずに水着を受け取った。
そもそもツッコミどころはそこではない。
「お前は泳げんのかって話なんだよな」
「ふふっ……なんの為に浮き輪が2つもついていると思っているの?」
早速着替え、プールにて。
西宮の現在の状態を簡単に図で表すとこうなっていた。
胸胸
~水面~~~~~~~~
顔面
「まぁ。そうなるな」
まぁ大体そうなるだろうな、という北条の予想は見事に的中した。
北条はエビ反り状態で胸から呼吸をしようとしている西宮の頭と背中を優しく支えて、一旦プールに足を着かせる。
「はぁ……はぁ……ど、どう?」
「死ぬかと思ったわ。お前が」
「本当に、ふぅ……泳いだのなんて何年ぶりかしら?」
「……泳いでたか?」
一応、丸女には水泳部が使うプールはあるが、水泳の授業は選択式になっている。
元々西宮が通っていたお嬢様学校でも水泳の授業などあるはずないので、彼女が泳いだ(?)のは10年ぶりくらいなのかもしれない。
「そういうあなたは泳げるのかしら?」
「まぁ、人並みには?」
その場から北条はクロールでプールの端まで辿り着き、ターンして平泳ぎで帰って来た。
「ふぅ……どう?」
「私と同じくらいのレベルかしら」
「んな分けねぇだろ。これでも、美保を連れてプールに行ったりするんだわ。せっかくだしお前にも泳ぎを教えてやろうか?」
「言い方は癪だけど面白そうね。一応言っておくけど、変なとこは触って頂戴」
「触らないで頂戴、な?」
北条は本人が得意そうな背泳ぎから教えてみる。
泳ぎが苦手なタイプで多いのは水への恐怖心から体の動きが硬くなったりするのだが、西宮は意外とそんな事はなかった。
「へぇー。お前、水が怖くないんだな」
「いちいち水に恐怖なんて抱いていたら水泳なんて出来ないわよ」
「一人前に泳いでから言えな? あと、お前絶対1人ではプールに入るな」
泳げない割には恐怖心が無い分、一番危険なタイプだった。
背面でバタ足しようにも中々足が上がってこない西宮を見て北条はふと考える。
「お前さ……」
妹に教えている感覚で北条は何気なく横腹をつまんだ。
「ひゃあぁ?!」
「わ、悪い……なんか今、萌えキャラみたいな声しなかったか……?」
急いでプールの底に足を着けた西宮が自身の体を抱きながら水中に肩まで浸かる。
そして、ちょっと怒った表情で北条を仰ぐ。
「泳ぎを教えるのに、なぜ横腹をつまむ必要があるの!?」
「いや、全然筋肉ないのかなって」
「み、見れば分かるでしょう? セクハラよ!」
「す、すまん。妹触る感覚でやってたわ……お前に言われるならよっぽどだな」
「……まったく、そういうのがやりたいなら、その……今からホテル行く?」
「大丈夫。今度から気をつけるわ」
更に怒った西宮は飛びついて北条の横腹を揉み揉みした。
その後、水かけ合戦と文字通りのもみ合いになった。
イチャついているようにしか見えない2人を眺めるメイドたちはテンションが上がっていたが、
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