第204話 記念すべき活動初日


本日は8人の関係を改善するために急遽発足された家庭科部の初めての活動だった。

8人+百合ひゃくあで家庭科室を借りて今後の方針について語ろうとしている。



「それではまず、部長からの挨拶があるわ。どうぞ」



「「「「「「「え?」」」」」」」 (←西宮と百合以外全員)



部を設立したのが西宮なら、申請書を持って行ったのも西宮である。

誰もがてっきり西宮が部長をやるものだと思っていた。


逆に部長を知っている百合はこの状況を見て困惑していた。



「……麗奈が部長じゃないの?」


「そんなに私が家庭的に見える?」


「まぁ見えないよね。じゃあ茉希ちゃんか」


「おい、コラてめぇ西宮。また小賢しい事をしやがったな?」


「え? え? 北条さんが部長じゃないの? 私、最終的には北条さんなら任せられると思って……」



百合が顧問としてサインを書いた申請書には既に部長は『北条茉希』と書いてあった。

仮にもし西宮が部長だったら百合も小一時間は悩んだだろうが、そこは流石の信頼と安心の北条ブランドである。


しかし、こうなってくると黙っていないのはこの女。



「異議ありですわ!」


「ほら、お前のせいでまた変な奴に絡まれるじゃん……」


「この先に禍根を残さないようにしっかり話し合いましょう。ガブリエル検事、発言をどうぞ」


「この女がそんなに家庭的には見えませんわ!!」


「おいおいおいおい、人の姉に向かってなんだとコラ? 異議ありじゃボケ」


「ほら、また変な奴も絡み出したって……」



北条の取り締まりに厳しい四方堂検事は未だ北条の能力に半信半疑だった。

彼女は厄介な宗教を信仰しているので、全知全能の神である西宮を部長に置くべきだと主張した。



「ちょ、ちょっと待って下さい! じゃあ、私も先輩を推薦します!」


「いや、そういうの求めてないから。なんで君らは事ある毎に争おうとするの?」


「だったらボクは東堂先輩を……」



こうして、立候補0の状態で各推薦人の応援演説が始まった。



***


①北条茉希 (推薦人:北条美保)


「まず、姉貴は可愛い! そして美人!」


「そこはいらんからはよ本題入れ」


「姉貴の家事は一級品だぞ! なんてったって北条家の家事全般は姉貴がやってるからな!」


「いや……みほっちも手伝おうよ……」


自分の功績のように姉を自慢していく美保。

逆に言えばそれは姉に全てをやらせている自らへの罪状でもあった。

掃除、炊事、洗濯、家計の管理に至るまで、全てを担っている北条への同情票は多く獲得される見込み。



②西宮麗奈 (推薦人:四方堂ガブリエル杏樹)


「まず、家事の能力ではお姉様の右に出るものは居ませんわ!」


「ほう? 私にそんな潜在能力が?」


「ええ。自ら動かなくとも部屋は綺麗になりますし、何もしなくても料理が出てきますわ」


「ただの財力じゃねぇーか!! むしろ本人の家事能力は0だろ!!」


彼女曰く、家事と言うものは生活上で必要な時にその都度行うものらしい。

なので、家事をしなくても生活していける状況こそが家事の理想形だという。


つまり、西宮に家事は出来ない。証明完了。


尚、ヤジを飛ばしている美保も大差無い模様。



③東堂明里 (推薦人:一ノ瀬紗弓)


「昔、東堂先輩は言いました。『何でも出来る体質』だとつまり家事全般が出来ます!」


「え」 (←東堂)


「たぶん部屋もキレイですし、」


「え」 (←西宮)


「片付けや掃除も毎日してますし、」


「え」 (←南雲)


「整理整頓も出来るので無駄なものも一切ありません!」


「え」 (←北条)



「……え? 東堂先輩、まさか……」


推薦人が深淵を覗きかけたので応援演説は中止となった。

ちなみに、年末に4人で東堂の部屋を掃除した際に賞味期限切れだったスナック菓子は、まだ部屋の何処かに眠っているらしい。



④南雲優 (推薦人:十河灯)


「そもそも家庭科と家事は違います」


「ほう。君にしては中々まともな入りだね」


「ありがとうございます♡ いい? みんな想像してみて。


私たちが作った料理を美味しそうに食べてくれて、

私たちが手洗いした下着をつけて、

私たちが干したお布団で気持ちよさそうに寝る先輩を」


「「「!!」」」


その時、後輩たちに電流が走った。

それぞれが先輩たちとの生活に想いを馳せる。


「そう。だから大切なのは一緒に家庭を築きたい人ランキング1位の人がここの部長になるべきです!」


「ん? でも、十河。それで仮にわたくしが南雲さんに票を入れたらあなたどうしますの?」


「ここにある包丁で刺す」


「推薦人!? あなた票を入れたいのか減らしたいのかどっちなんですの!?」


なんかそれっぽい事を言ってる感じがしたが普通に気のせいだった。

端的に表すなら、誰と結婚したいかという話題になっただけである。



***


結局揉める後輩たちを遠い目で見る先輩たち。



「まぁ、いいわ。申請を通す為に茉希の名前を借りただけだし、私が部長をやるわ」


「いやぁ……、西宮さんがやるくらいならワタシがやるよ」


「2人が嫌だったら俺がやるぞ」


「じゃあ、僕も……」



「「「どうぞ、どうぞ」」」



「あ!! そういう!?」



往年のネタで部長を擦り付けられた東堂に百合が申し訳なさそうに声を掛けた。



「あのー……一応、もう北条さんの名前で申請通ってるから……この話し合いに意味は無いというか……」


「しかもそういうオチなんですか!?」



結局、部長は北条、副部長は東堂という形で終結した。

記念すべき第一回目の活動内容は『部長決め』だけで終わった。



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