第202話 終わりの始まり


自己紹介をスムーズに終わらせてしまった百合は昨年とは変わってしまった。

しかし、昨年とは変わらないものもある。


それは、1-Aの雰囲気である。


1-Aの教室では昨年同様、地獄のような空気が漂っていた。

今年はそんな空気の発生源たちが点在している為、クラスメイトたちは小声で会話すら出来ず静まり返っている。


そんな教室の扉を元気よく開けた担任は、



「まいど~! なんや葬式みたいな空気やな! もっと元気に行こや!」


「碧。縁起悪い。普通に空気悪いねって言えばいい」



これまた終わっていた。



***


教壇の上に立つ2人の担任は何故か離れて黒板の端へとそれぞれの名前を書く。



「私は東堂茜です。自己紹介の前にこの険悪な感じは良くない。この空気に心当たりがある人は手を挙げて」


「はい。朝、一ノ瀬さんが難癖をつけて私に殴り掛かってきました」


「そ、そっちだって二つ返事で喧嘩を勝ったじゃん!」


「なるほど。まずは十河さんと一ノ瀬さんと」



しれっと茜は生徒名簿を見ずに名前を当てて見せた。



「わいは東堂碧やで。他にないか?」


「はい。妖怪ポイント稼ぎの四方堂が姉貴にアタシの事をチクリました」


「あなたも嘘ついてポイント稼いでましたよね!?」


「ほな、四方堂と北条な」



原因の特定が終わり、茜と碧は意思の疎通を行わなくとも同じ策を思いついていた。



「席替えやろか」

「席替えをしよう」



「「「「いきなり!?」」」」



「やっぱり危険物は一緒のとこにまとめておくと管理が楽だから」


「せやな。その方が他のクラスメイトも安心できるやろ」



意外と気配りが出来る担任に4人以外のクラスメイトは全力で頷く。

せっかくなら全員やっちゃえ、という事で4人の位置は固定でクラス全員が始業1日目で席替えをした。


30人居る生徒たちは一列5人で計6列の座席が用意されている。

4人の定位置は教壇の目の前の2列。その結果、



「よろしくね??? 一ノ瀬さん????」


十河は右隣に座る一ノ瀬に声を掛けた。


「わー、みほっちと近くの席でよかったなぁー」


一ノ瀬は十河をガン無視して後ろの席の北条に声を掛ける。


「チッ。なんでアタシまでこんな妖怪ポイント稼ぎと一緒に……」


北条は左隣に座る四方堂を見て舌打ちをする。


わたくしだって、こんな問題児たちと同列で扱われるのは不服ですわ」



これから1年間、この席で固定される4人のこの陣形は後に『無法四角地帯』と呼ばれるようになった。

既に、この地帯の左右と後ろは若干空間が広めになってるような気もしない。

とは言え、この施策は正しかったようで無法四角地帯から一番離れた生徒たちの顔には安堵の色が取り戻される。



「……ふぅ。これで学級崩壊のリスクは抑えられたかな」


「よし! ほな、これでみんなの自己紹介も出来るな!」



「じゃあ私から。改めまして私は……」

「わいからいくで。もっかい言うけどわいは……」


「こっちからって言ってるじゃん! しゃべんなカス!!」

「わいから言うとるやろ! しゃしゃんなボケ!!」



「お前らの仲が崩壊してんじゃねぇか!!」


「先生たちも席替えした方がいいんじゃない?」



一応、彼女たちも黒板の両端をシェアする程度には気遣いできるようには成長していた。

しかし、依然として関係は悪く、安堵の表情だった生徒たちの表情が再び曇る。



「はい、はーい。こっちの根暗教師よりわいの自己紹介を先に聞きたい人は挙手!」


「挙手厨キッッッショ! という感じで私の自己紹介から聞きたい人は挙手」


「結局手は挙げさせるんだ……誰も挙げてないけど」


「小学生ですの? ……と、言うかあなたたち双子でそんなに仲が悪いのかしら?」



四方堂が投げかけた質問に対して2人はキョトンと顔を見合わせる。



「違うけど?」

「ちゃうで」



「えっ。まさかの赤の他人!?」


「ウソだろ!? 苗字が一緒なだけかよ!?」


「たしかに、顔とかはあんまり似てないけど……」


「まぁそれなら、仲が悪いのも多少は……」



「まぁ嘘だけど」

「うーせやん♡」



「「「「…………(ビキビキ)」」」」



この時、バラバラだった4人の心は遂に一つになった。

意図せず4人の心を通わせるという、これぞ双子教師東堂の手腕である。



(嗚呼、学園生活終わった……) ←4人以外のクラスメイト



こうして、生徒達はヤベー学園丸女のヤベー奴らから洗礼を受けるのであった。


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