第201話 もちろん、新入生代表はこの方
挨拶代わりの一悶着を終わらせた4人は不安な気持ちいっぱいで4人を1-Aに収監した。
見たところ、席順はバラバラだったのが不幸中の幸いだった。
2-Aに戻った4人が今度は自分の席順を確認すると、相変わらず東堂、南雲、西宮、北条の並びで綺麗に並んでいた。
「すごーい。奇跡?」
「いや、絶対誰かが面白がってやってるだろ」
もちろん犯人は校長である。
そして、入学式の式場に移動する際に今年からの担任との初顔合わせとなる。
「……あ、そういえば僕の姉が今年から丸女の教師になったって」
「何故、今その話をしたの? 嫌な予感がするのだけど」
東堂が唐突にフラグを立てたのと同時に教室の扉が開く。
「おはようございます。担任の
「「「「おぉ~!!(拍手)」」」」 (←4人)
百合の盛大なフラグ折りに思わず立って拍手をする4人。
何故か周りの生徒もつられてスタンディングオベーションとなる。
「な、なに? ……よく分かりませんが、自己紹介はまた後で行いますので皆さんは移動の準備を」
昨年に引き続き、4人の担任は百合が務める事になった。
2年目になれば少しは慣れているようで、百合の式場への誘導はスムーズだった。
***
入学式には保護者達も参加しているので、さしもの丸女とは言えここでウケを狙う訳にはいかない。
開式の辞、新入生入場、国歌斉唱と、淡々と式は進行していく。
「――続きまして、新入生代表宣誓。十河灯さん」
「はい」
「「「「…………」」」」
見目麗しく、歩き姿も堂々としている十河に思わず周りの人間も息を飲む。
しかし、4人は知っている。彼女は……
『見た目は美少女、中身は怪物。その名はクレイジーサイコレズ十河』
先ほどの争いを見ていない生徒たちは未だその真実を知らない。
宣誓も、まるで人前で喋るのに慣れているかのようにとても流暢で、極一部の生徒からはまるで
十河の宣誓が終わると再び式は淡々と進んだ。
そして終盤、教職員挨拶が始まり、呼ばれた教師は返事と共に起立をしていく。
「1-A担任、東堂碧」
「はい!」
「同じく、1-A担任、東堂茜」
「はい」
「「「うわぁ……」」」
劇物 on the 劇物の様相に思わず3人の口から声が漏れる。
東堂だけは姉たちの門出を祝福している。
2人には昨今話題の(?)『2人担任制』を試用して貰うらしい。
丁度、新任という事もあって都合がいいそうだ。
昨年の百合の時にもこの制度があればという思いが過り、全教職員が泣いた。
そんな感動の渦の中、閉式の辞が行われ保護者と一部の教職員を除いて式場から退場した。
***
2-Aの教室に帰る途中、南雲は素朴な疑問を問いかける。
「入試のテストって美保ちゃん調子悪かったの?」
「そうよね。たしか美保さんって、北条家の遺伝子を組み換えてるレベルで頭良かったわよね」
「この前お袋が、髪の毛1本を対価に人体錬成したって言ってたわ」
「家庭内での美保ちゃんの扱い……」
南雲としては何故、新入生代表があやつだったのかを問いただしたかった。
「美保曰く、入試テストは余裕で満点とは言ってたな」
「という事は?」
導き出される結論は一つ。
「素行不良」
「「「あー……」」」
この場合に北条が言っている素行不良というのは暴行や窃盗などの類ではなく、シンプルに授業態度の悪さや教師に対するリスペクトのなさが原因だった。
ちなみに、スポーツ面の実績では間違いなく一ノ瀬、寄付金では四方堂だったが、
彼女たちも同様に”一長”の部分より”一短”部分が目立った。
これらの原因から”一短”の部分が露見していない十河に白羽の矢が立ったらしい。
移動が終わった後、
昨年よりもあっさりと終わったそれを見て4人はしみじみと頷く。
百合はワシが育てたとでも言いたげである。
そこで西宮がスッと手を挙げた。
「いや、西宮さん……別に質問の時間とかではないのだけど?」
「今年はあの持ちネタはやらないのかしら?」
「あぁ! そーそー! ワタシも見たーい!!」
「確かに、あれが無いと一年始まった感じしないよな」
「……僕もちょっと見たいかも」
「持ちネタ……? 私にそんなものはありませんよ」
百合は4人が何を言いたいのか分からず首を傾げる。
自分にそんな縁起のいい持ちネタなどあったのだろうかと。
「仕方ないわね。私が振るわよ。
……それではご注目下さい。百合聡美で、一発芸『クソ滑りピエロ』」
「……ッ!! あ、あれは生涯一度の一発芸です!!」
こうして、教室に笑いが巻き起こり百合の受難は今年も続くのであった。
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