2年生 -1学期編-
第200話 修羅場の季節
4月初旬。
今年の春は暖かく、朝の通勤・通学でもそこまで寒さを感じる事は少ない。
気持ちよく晴れた本日、丸女では入学式と始業式が行われる。
去年はそれぞれ別日に設けられていたが、今年からは同日に行われる事となった。
「おはよう、みんな。結局みんなタイミング一緒になっちゃったね」
「そうね。なんとなくいつもの時間に合わせてしまったわ」
そんな中、バラバラに通学した4組は校門付近で合流していた。
爆弾を抱えている後輩たちを近づけない為に別々に通学したのだが到着時間は重なってしまった。
「今年もみんな一緒のクラスになれるといいねー!」
「だな。けど、4人一緒は流石に厳しいか?」
とは言え、ここからはクラス表があるので先輩組と後輩組は別れる事になる。
ニコニコと笑顔を浮かべる後輩たちは今のところは問題を起こす気配は無い。
「じゃあ、紗弓ちゃんもまた後でね。 ……喧嘩とかはしちゃダメだよ?」
「はい! 東堂先輩!」
――紺髪、アシンメトリーショートのイケメン長身少女は快く敬礼する。
「ガブ。そっちの4人で仲良くしなさい」
「お任せ下さい、お姉様!」
――ブロンド、カールの掛かったロングヘアーの優雅なお嬢様は胸を張る。
「君に言いたいことは一つ。問題を起こすな」
「もちろんです! 先輩♡」
――黒髪、おかっぱでモデル体型の美少女は可愛く返事をする。
「美保。お前、喧嘩したら今日の飯抜きだからな」
「おう、安心してくれ。姉貴!」
――金髪、ショートヘアーで目つきが鋭い小柄な少女は力強く頷く。
それぞれが誓約を交わし先輩組を見送る。
ニコニコと笑顔のまま美保が口だけ動かす。
「……十河、てめぇ後からツラ貸せ」
「任せて、みほっち。十河さんはボクが沈めるから」
「えー。こわーい。でも、正当防衛なら問題じゃないからいっか」
「ふふふ。みんな仲が良いですわね。お姉様も喜びますわ」
後輩組はすっかり打ち解けていた。
***
後輩たちの様子を見て安心した先輩組はクラス表を確認する。
「おー。また4人一緒じゃん」
「ねー! ……席順まで一緒だね」
「何かの陰謀を感じないでもないわね」
実際に4人はそれなりの奇行は目立つものの、入学当初ほどの悪評はない。
1年という長い時間を掛けてようやく『1-Aの特級呪物』という汚名をそそぐ事が出来そうだった。
文字通り、憑き物が落ちた4人は下駄箱に靴を入れて2-Aの教室へ向かう。
「よーし! 今年こそは2-Aの仲良し4人組って言われるようにがんば……」
ふと、階段付近で3年生の生徒達の会話が耳に入る。
「ねーねー! なんか今年もまた入学式から修羅場らしいよ!」
「あー、今年もまた1年生の4人組だっけ?」
「「「「…………」」」」
4人は自然な所作で踵を返して下駄箱へ向かった。
***
レスキュー隊が現場に到着すると、人だかりの奥からは何故だか聞き覚えのある声が聞こえる。
「みほっち、離して!! ここであの女を始末しないとッ!!」
「お、おい。これ以上騒ぎを大きくして姉貴が来たら……」
「あーんじゅ♡ 離して? 正当防衛だから殺しても大丈夫」
「やめなさい! 私はお姉様と約束を……」
レスキュー隊としては、まぁやっぱりコイツらかという気持ちしか勝たなかった。
「わりぃ。ちょっと道開けて?」
元祖金髪ヤンキーの一声で現場への道は簡単に確保出来た。
そして東堂が一ノ瀬の前へ、南雲が十河の前へと立つ。
「君らさぁ……さっき別れたばっかじゃん。数分も約束守れないの?」
「さ、紗弓ちゃんもらしくないね……約束したよね?」
「「……ごめんなさい」」
素直に謝る戦闘狂の2人。
実際は数分どころか先輩組の背中が消えて2秒で殴り合いは開始していた。
「美保、お前にしてはよく止めてくれたな。偉いぞ」
「えへへ。任せろやい!」
「ガブも偉いわよ。よしよし」
「はわわ。ありがとうございます、お姉様! でも、実際は喧嘩を売ったのは北条さんですわよ」
「おい」
「チッ……あのお嬢、余計な事を……」
事件の全容が見えて来たところで先輩たちは後輩たちをそれぞれを隔離する。
もう入学式まで時間も無いので、叱るのは後にしてクラス表を付き添って確認をする事に。
「「「「うわぁ……」」」」 (←先輩たち)
……後輩たちは全員、1-Aだった。
***
こうして、妖怪屋敷は従業員が入れ替わり、本日リニューアルオープンする事が決まった。
それに伴って、『特級呪物』の称号は後輩たちへと受け継がれた。
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