第197話 題名『私とお姉様』 side 四方堂 ガブリエル 杏樹


熱狂の渦にあった会場に静寂が訪れる。

漆黒のドレスを纏ったお姉様は一人、優雅にランウェイ歩いた。

誰もがその美しさに息を吞む。


そして、お姉様がその目を開いた時、


――わたくしたちは再会を果たした。



***


私がお慕いする西宮麗奈様とは元々同じ学校に通っていた。

全寮制の学校で同室となった私たちは、いつからかお互いの間に姉妹のような絆を感じるようになった。

気付けば私は西宮様を『お姉様』と、お姉様は私に『ガブ』という愛称くれた。


引っ込み思案で消極的な性格な私にも、いつも凛として美しいお姉様はとても優しくしてくれました。

私を元気づけてくれるその優しい笑顔を見て、私はお姉様を一生支えたいと思っていた。



けれど、学校に通う以上別れは来るもので、一学年上のお姉様は半年前に一足先に卒業してしまった。

別れ際にお姉様は泣きじゃくる私に、


『顔を上げなさいガブ。私は丸女であなたを待っているわ』


そう言って優しく背中を撫でてくれた。

余計に涙が溢れて出てきてしまったけれど、私は必ずお姉様を迎えに行こうとこの時に決意した。



――しかし。



再会したお姉様の目は冷え切っていた。

優しかった面影はぼやけ、まるで別人の様に変貌している。


(一体、丸女でお姉様に何が……!?)


不安に駆られた私は『丸井コレクション』が終わった後にすぐにお姉様の元へと向かった。


考えなしに飛び出した結果、当然私は控室で門前払いにあってしまう。

それでも諦める訳にはいかない。



「お姉様に! お姉様にお会いさせて下さい!」


「いや、北条さんから絶対に人には合わせるな、と言われておりまして……」


「そこをなんとか……!」


「無理ですよ! そんなことしたら北条さんや東堂さんの標的にされてしまいます!」



これ以上はこの方にも迷惑が掛かると感じた私は一旦情報収集をする事にした。

私の召使の十河と共に学園でお姉様についての情報を聞き回る。

そして、十河との話を整理したところ、



「つまり、お姉様は女遊びの東堂さんと暴力女の北条さんに付き纏われていると」


「この件に関わり過ぎれば杏樹様にも被害が及ぶ可能性が……」


「そんな事は関係ありませんわ! 私がなんとしてもお姉様をお救いしなければならないの!」


「ふふっ。杏樹様ならそう言うと信じておりました。東堂さんと北条さんは私にお任せください」



私はその決断をした召使からの主従関係以上の何かを感じた。



「あなた……それ程までに私の事を……分かったわ。あなたの犠牲は無駄にしないわ」


「今までありがとうございました。それでは杏樹様。どうかお幸せに」



その後、十河は自らの身を犠牲にして東堂さんを誘惑して襲われる。

犯行現場の動画を警察に見せ、東堂さんは逮捕された。


そして十河はその後、北条さんを刺殺した。十河も逮捕された。



こうして脅威の去った丸女で私とお姉様は幸せに暮らしました。


めでたし、めでたし。



***


「どう?」


「どうじゃないけど。何これ。なんで私は杏樹の夢小説読まされたの? ていうか登場してるんだけど?」


「夢……ハッ!? 途中からおかしかったかしら!?」


「最初からおかしいよ」



私は友人の十河にお姉様との出会いを綴った自伝を読ませていた。

彼女は頭は良いが人間性が終わっているので、私は話半分に彼女の言い分を聞いてあげる事にした。



「まず9割は話盛ってるし、序盤から何故か西宮先輩に出会ってるし」


「あら……お姉様に会ったのは幼い頃の気もしてきたわ……」


「杏樹の中にはイマジナリーお姉様が湧いてるの? そもそも自己評価もおかしいよ。引っ込み思案で消極的て。丸コレの後、思いっきりカチコミに行ってるじゃん。杏樹の消極性どうなってんの?」


「杏樹にもきっと葛藤はあったんだと思いますわ……それでもお姉様の為にと勇気を振り絞って一歩踏み出しましたの」


「一歩目から踏み込みがエグくない?」


「文句しか出ないわね」



やはり彼女には繊細な文章理解出来るだけの教養は無いらしい。



「あと、終盤の展開が雑過ぎ。テンポ良く人が消えてったけど? 怪奇現象?」


「まぁ、不人気キャラにはさっさと退場して貰いましたわ」


「それ打ち切りエンドじゃん」


「いやいや、ここからも目が離せない姉妹生活編が……」



彼女はやれやれと言った風に私を見る。やれやれしたいのはこっちですわ。



「はぁ……もう本当に杏樹は……。 いい? 私が本物の感動エピソードってのを語ってあげる」


「結構ですわ」


「いいから聞け? こっちは夢小説読まされてるんだから」



そう言って彼女は求められても居ないのに独りでに語り出した。



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