第195話 可愛い後輩、或いはゴキ○リ


双子の姉にそそのかされた東堂が遊びに出掛けた頃、北条家では姉妹共同で洗濯物を干していた。

妹が洗濯層から出した服を受け取りながら姉はふと気付く。



「そういや美保、お前さ。入学したら誰と登校すんの?」


「え。姉貴とだけど? それ以外のパターンあんの?」


「なんでだよ。一ノ瀬さんとか居るだろ」


「まぁ、姉貴が居るならあいつはどうでもいいかな」


「……友達なんだよな?」



美保にとっての唯一の友人である一ノ瀬紗弓は相変わらずぞんざいな扱いを受けていた。

しかし、東堂と待ち合わせすればどうせ美保とは会えるだろうという事で当の一ノ瀬も連絡はしていない。


これが2人の交友関係の実態だった。



「しっかしまぁ。各々の後輩を連れて8人で登校すんのは流石にやべぇよな。ちょっとした部活動くらいはあるぞ」


「じゃあ、南雲切ればよくね? そしたら6人じゃん!」


「南雲”さん”な? あるいは先輩。入学後はちゃんと敬称つけろよ」



おせっかいかもしれないが、妹を心配する姉としては少しでも広く交友関係を持って欲しいと思っている。

彼女の場合、学業面ではまったくもって心配はいらないので、学園生活では現状皆無のコミュニケーション能力を培うべきだろう。


(寂しい気持ちはあるけど、美保もいつかは姉離れしないとな)


なので北条は先輩を慕う似た者同士でなんとか友達になれないものかと思案する。



「お前って十河さんと四方堂さんと面識あるって聞いたんだけど……その人たちと一緒に登校してみたら?」


「はぁ!? 正気か姉貴!? 四方堂はともかく十河はクレイジーサイコメンヘラ女だぞ!?」


「うーん? 俺が見た時はそんな一面は無いんだけど……実際ヤベー奴だった?」


「ヤベーなんてもんじゃねぇよ! あいつぁバケモンだぞ!」


「いやぁ、もしかしたら何かのキチガ……間違えた。手違いかもしれないし、話してみたら意外と気が……」


「合わねぇよ!! しかも何かいま言いかけただろ!!」



一方、美保がバケモンと称した十河は――


***


前日の誕生会から帰宅後に深夜配信を行った南雲は昼まで寝ていた。

眠りが浅くなってきた頃、ベッドで寝がえり打った際に違和感を感じてうっすらと目を開ける。



「あっ……せんぱい、おはようございます♡」


「ひッ!?」


――バシンッ!!


咄嗟に眠気は霧散し、飛び起きた南雲は近くにあったノートを丸めて十河の顔面を強打した。


「あん♡ もー。可愛い後輩をなんだと思ってるんですかぁー」


「ゴキ○リかと思った……てか、なんで居るの!?」



見てくれだけは美人である彼女は美保にはバケモンと形容され、南雲にはゴ○ブリと間違えられていた。

それこそが十河灯という女である。


起き上がった十河はベッドの横に置いてあった手提げカバンから蕎麦を出す。



「この部屋のに引っ越して来た十河灯です。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします♡」


「その挨拶は扉の向こうでやるやつだから。どっちかって言うと不届き者だね。君は」



南雲は、十河がなんで部屋の鍵を持っているのかは敢えては聞かない。

自身が東堂の部屋の鍵を持っているのと同様の理由だろう。

今後は身の安全も考えて毎日しっかりと内鍵も掛ける事にした。



「うん。じゃあもう特に用事がないなら帰って」


「えー! せっかくなら今日は一緒に過ごしましょうよー」


「はぁ……もうしょうがないなぁ、じゃあ一緒にゲームしよっか」


「せんぱぁい……♡」



目をうるうるさせて頬を赤らめる十河。

ここだけ切り取れば恋する美少女である。



「じゃあまず十河さんは部屋に帰ってPC起動して貰って……」


「まさかのネトゲですか!? てっきり私はこの部屋でゲームするものかと……」


「ほ、ほら。次の大会で一緒にやるかもしれないし、練習は必要でしょ?」


「たしかに! じゃあ、個通しながら一緒にやりましょうね!」


「うん、やるやる。早く出て行って」



パタパタと準備した十河が扉を開けて振り返る。



「あ。そうだ先輩。これから毎日一緒に登校しましょうね♡」


「普通に却下」



南雲は十河を叩き出して扉を閉める。今度は内鍵までしっかり掛けた。

そして当然、十河とゲームなどする訳もなくベッドに戻りスマホを弄るのであった。



***


その後、4人は話し合いの結果、入学式がある初日はそれぞれ別々に後輩と一緒に登校し一旦様子を見ることにした。


尚、南雲のみ一人で登校すると言っていた模様。



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