第194話 動き出す魔物たち


誕生日会の後、西宮は母親と一緒のベッドで寝たのだが朝起きる頃には居なくなっていた。

少し寂しさを感じながらも直接会う機会をくれた3人に再び感謝をする。


そんな西宮が気だるげにベッドから起きるとスマホに何件か通知が来ていた。



「明里かしら?」


1件は確かに東堂だった。

しかし、他の数件は、


『こきげんよう、お姉様。入学式から是非ご一緒に登校したいのですが、ダメでしょうか……?』

『お姉様の指定した場所へ向かいますので是非』

『なんでしたらお姉様の家まで……』

『もし、朝がお辛いなら私がお姉様を起こしましょうか?』



「…………」



西宮はそっとスマホを置いて顔を洗いに行った。

なんか、妹(自称)が一人で会話していた。



***


同日、東堂のアパートでは。



『東堂先輩、入学式から一緒に登校しても良いですか?』



東堂を先輩と慕う一ノ瀬紗弓が同様に誘っていた。



『だぶん大丈夫だと思うけど、すごく大所帯になるかもね』


『登校中、お邪魔になりそうだったらみほっちと話してます』

『茉希さんも一緒なんですよね?』


『うん。あぁそっか。美保ちゃんとの待ち合わせにもなるのか』

『じゃあこれからよろしくね』


『はい!』

『入学するのが楽しみです!』



元気で純粋な彼女の様子を見て微笑む東堂。

4人の中で唯一と言っていい程のまともな後輩を持つ彼女はでは恵まれていた。


しかし。


――ピンポーン



「はーい?」


東堂の住むアパートではオートロックなので、本来訪問者が直接部屋のインターホンを押すことはない。

という事はこれは住人か大家、或いは工事関係者だろうと東堂は推測した。


東堂が玄関先へと行くと既に喧噪が聞こえてくる。



『おい、茜。自分、なに勝手に明里の部屋あがろうとしてんねん!』


『碧こそ邪魔しないで。どいて! 私はお姉ちゃんだぞ!』


『何言うてんねん。わいかて姉やぞ』


『ネタ通じないのきっつ。ホント嫌いだわこいつ』



馴染み深い双子の姉のやりとりを聞いた東堂はすぐに扉を開けた。



「ふ、2人ともどうしたの!?」


「おう。まいど! 明里! 元気にしとったか?」


「どうも、この部屋の隣に引っ越して来た東堂茜と申すものです」


「えぇ!? かなり急だね……まさか、姉さんも?」


「せやでー。こいつとは反対側の隣や」



お互いにアポなしで妹の部屋へのサプライズ訪問が被るというのが双子らしかった。

ここに至るまでは当然お互い何の相談もなく、奇跡的に同じ日に東堂の両隣に引っ越して来た。



「でも、どうしてここに引っ越してきたの?」


「ふっふっふ。何を隠そう、わいは4月から丸女の教師になってん!」


「すごっ……いんだよね? 『丸女の』って言う修飾語がつくと急に不安になるけど……というか、んんん?」


「もしかして、無職の茜がここに居る理由か? わいも意味わからへんねん」



おそらくは茜も丸女の教師になったというのは聞かなくとも分かった。

しかし、学生の東堂には分からない純粋な疑問があった。



「2人とも4月から配属になったんだよね……? 今日、4月2日(木曜日)だけど、出勤しなくていいの?」


「大丈夫、大丈夫。私は有給休暇取ったから」


「出勤2日目で!? というか、よく取ろうと思ったね!?」


「まぁほら、そこは丸女だから。碧如きでも採用されるくらいだし」



東堂は『丸女』という魔法の言葉の汎用性に戦慄した。

流石に初日は出勤したと信じたい。



「ま、まぁ、せっかくの休みだし荷ほどきとか終わってなかったら手伝うよ!」


「くッ……!! 東堂家の血の呪いが片付けに拒否反応をッ!?」


「明里、せっかくの休みなんやから遊びに行かな損やろ」


「ダメだよ! 僕はちゃんと片付けしろって、この前友達に怒られたばっかりなんだから」



年末の大掃除に西宮に散らかってる部屋を見られた事が戒めとなっていた。

故に彼女の部屋は現在、



「え? でも明里の部屋、結構実家のような安心感あるけど?」


「せやな。普通の東堂家の部屋やで」


「あ、あるぇ??」



既に結構散らかっていた。

戒めがあるからと言ってそれを行動に活かしているとは限らない。

それの良い実例がここにはある。



「もうさ。諦めて楽になろ? 何が片付けだよ。馬鹿馬鹿しい」


「せやで。明里に格言を授けたる。『明日やろうや馬鹿野郎』」


「なんか違うような……でも、まぁそっか。せっかく2人が引っ越して来たんだし、今日は片付けとかいいか!」



こうして、悪い大人たちにそそのかされた東堂は姉たちと遊びに出掛けたのであった。



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