第193話 家族


「じゃーんっ!! 中身はママでした!!」


「!?!?」



プレゼントボックスから出て来た母親に目を白黒させる西宮。

彼女がここまで驚くことも珍しい。

ちなみに、四方に展開するギミックだったが一方の角だけ南雲が蹴りを入れた為、展開不良を起こしていた。


展開した箱からつかつかと歩いた理恵は優しく娘を抱きしめた。



「麗奈、誕生日おめでとう」


「お、お母様……」


「もぉ。いつも通りママって呼んでくれていいのよ……♡」



「「「 ママっ!? 」」」



「は、恥ずかしいわ……ま、ママ……」


「可愛いでしょう? こーれ、うちの娘です」



西宮のイメージからはなんとなく『ママ』が想像出来なかった為、たしかに少しギャップ萌えではあった。

そして、なんだかんだ母親が来てくれたのが嬉しいのか恥ずかしながらも離れない西宮。


そこかしこにギャップ萌えが点在していた。


ざわついているのは3人だけではなく、常務しか来ていなかったグループ企業は急遽代表を呼び出したり、そもそも参加していなかった企業が急遽参加しに来たりと大慌てである。



「どうかな? 僕たちのプレゼントは喜んで貰えた?」


「……ええ。とっても嬉しいわ」


「3人がどぉ~~~しても! ママに来て欲しいって言うから予定を空けたのよ」


「そうなの?」


「騙されんな。嘘だぞ。結果的に俺らはあんま関係なかったわ」



先日のやりとりを思い出してげんなりする2名。

それを見た理恵はおもむろに箱から何かを取り出した。



「えー? でも、はい。麗奈これあげるわ。私からのプレゼント。3人が私を呼び出す為に書いた嘆願書」



「「 ギャーーーッ!!!! 」」



「ま、まさかここまで全て計算して……」



娘の手に渡ったそれは3人が書いた『西宮麗奈の好きなとこ』の寄せ書きである。

理恵にとっては自分に要望が来ること、そしてこの時に至るまで全て計算が通りだった。


まじまじと見つめる西宮も流石に顔が赤くなっていく。



「あ、あなたたち。私の事好き過ぎよ……」



「「 ギャーーーッ!!!! 」」



「まだまだ麗奈の好きなところはたくさんあるよ!」


「そうよね! こんな色紙じゃ小さいと思ってたのよね!」



過剰な仕打ちに2名は痙攣を起こしていた。

しかし、残り2名はモジモジする西宮にテンション爆上がりだった。



***



「えー? みんな泊まっていけばいいのに。ママ、今日はみんなで一緒のベッドで寝たいな~」


「あー、この感じお袋と……実家のような安心感あるわ」


「ママはお酒を飲んでないわよ」


「あ。じゃあ素の状態でヤバい人なんだねー」



その後、賑やかなパーティーが終わり、3人は西宮邸に泊まっていくように勧められたがそれをやんわりと断った。



「織姫と彦星くらいの頻度でしか会えないんだもんね。麗奈、今日は親子でゆっくりしなよ」


「お前のその例えよ」


「うん……みんなありがとう。今日は楽しかったわ」


「ん」 「じゃあねー」 「また連絡するね」



そう言って3人は五味渕の案内で送迎車へと乗り込んだ。

しばらく車内でパーティーの余韻に浸った後、東堂がポツリと呟いた。



「……麗奈。すごく嬉しそうだったね」


「そうだな。あいつのあんな表情は初めて見たわ」


「まぁ、それはそーかも」



なんとなくしみじみとした空気が流れている。




「やっぱり、家族っていいね」


「そうだねー。じゃあ……ワタシたちも家族になろっか」



「うん。 うん……? いや、うん??」



そんな空気の中、いきなりノーブレーキで突っ込んできた南雲と事故を起こした東堂は混乱している。



「茉希ちゃんは?」


「え、ごめん。どゆこと? えーと、つまり……どゆこと?」



傍から見ていた北条も追突されていた。

そんな3人の事故現場を見ていた五味渕は何かに気が付いた。



「……ほう? なるほど。理恵様はこのタイミングでこれを……皆様、こちら理恵様から皆様への感謝の品です」


「え。プレゼント送った側がプレゼント貰うの? おかしくない? ……ていうかなんで五味渕さん居るの?」


「こちらはご家族へのお土産のようなものだと思って欲しい、と。尚、中身は私も知りません」


「知っとけよ。怖ぇよ」


「一応確認の為にここで開けても?」


「はい。それは問題ないと仰ってました」



理恵からのお土産は封筒サイズで非常に軽いものだった。

恐ろしい額の小切手とかが入ってそうで怖かったが、中から出てきたのは……



「何だこの書類? えーと、何々……『母の氏名:西宮理恵』」


「『妻になる人:西宮麗奈』って、これ……」



「こ、婚姻届だーーーッ!! い、印鑑まで押してあるよ!?」



とんでもない爆弾だった。

軽いと思っていた重量は急に重く感じた。

もしこのまま家族にこれを渡そうものなら大騒動になるところだっただろう。



「あーちゃん、ちょっとそれ貸して。燃やすから」


「その貸してって帰ってこないよね!?」


「え? でもいるの? そのゴミ」


「あ、あー! ゆーちゃん、僕分かったぞー(棒) これでみんな家族だ!!」


「ふーん。でもその家族、このままだとお嫁さんが不審死を遂げてみんな未亡人になるけどだいじょぶそ?」



結局、手土産(婚姻届)は全て南雲に回収され、彼女が責任を持って焼却処分を行った。



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