第191話 最高のつまらないもの


本日、4月1日は4人の中でもっとも生まれるのが遅かった西宮の誕生日である。

どうやら彼女のお誕生日会が西宮邸で開かれるらしく3人はそれに参加したのだが……



「お誕生日会ってレベルじゃねぇぞ……」


「ど、何処かの偉人の生誕を記念してるのかな……」


「金持ちやばー」



――それはお誕生日会と言うにはあまりにも規模が大きすぎた。



パーティーの参加者は基本的には西宮が普段住んでいるお屋敷で働いている方々が多い。

従業員全員で主を祝おうぞ、という意味である。


なので、今回の生誕祭の運営は西宮財閥から厳選された幹部たちが行っている。


そんな、THE・内輪のお誕生日会に誘われた3人の場違い感は凄い。

祭りの主と関わり深い人物として同じ机を囲むのだが、『……あいつら誰?』という視線が突き刺さる。



「今日はよく来てくれたわね」


「麗奈、誕生日おめでとう!」



ドレス姿の西宮が3人を迎えると東堂が代表して祝いの言葉を贈る。

一応、3人もフォーマルなファッションで来ていた。


……ただの誕生日会ごときに。


そして会場の全員が着席した後、西宮の一言ともにパーティーが始まった。



***


西宮生誕祭のここがスゴイ①

『西宮麗奈の画廊』


「……そういえば、ここに来る途中の廊下に大層な額縁に入れられた落書きが入ってたけど。あれはお前の絵か?」


「そうよ」



それは西宮が幼少期に描いたラクガキや学校の課題である。

丁寧に品質管理されて高級な額縁に収められたそれは、美術館宛らの展示がされていた。



「そうか。 ……なんというか、ドンマイ」


「気持ちが分かっているなら一々慰めないで頂戴」



別に特別な才能があるわけでもないのにみんな顎をさわさわしながら、


『ほう……これがあの麗奈お嬢様の……』


みたいな感じで賛辞が送られるので本人からしたら堪ったものではない。

尚、西宮邸で働く人間が幹部になる為には西宮の美術品の知識は必修科目らしい。



西宮生誕祭のここがスゴイ②

『やたらと人が来る』


「そういえば西宮さんって……」


「南雲様。失礼致します。お嬢様、西宮銀行の代表取締役が……」


「ごめんなさい。後にしてもらえるかしら」


「かしこまりました」



財閥トップの娘に一目お目通し頂こうとこれまた業界トップの人間が来る。

隣に座る一介の学生は冷や汗を流す。



「やっぱり西宮さんってお嬢……」


「南雲様。失礼致します。お嬢様、西宮通信産業NTSのCEOが……」


「ごめんなさい。今南雲さんと会話を……」


「い、いいよ! 先に挨拶終わらせてあげて! 社長さんたちも可哀そうだよ!」



このように生誕祭は業界でも注目される一大イベントである。



西宮生誕祭のここがスゴイ③

『無駄に凝ったスライドショー』


生誕祭の途中にはスクリーンに『西宮麗奈の軌跡』という西宮のこれまでの人生が脚色されて映し出されていた。



「偉人か?」


「大した偉業なんて成していないのにねー」


「大人たちの全力のヨイショに付き合う私の気持ちも考えなさい」



解説の合間には子役を使って当時の再現VTRまで差し込んである。

おそらく西宮の人生が映画化されるのは時間の問題だろう。



「うぅ……! 麗奈はこんな苦労して……っ!」


「おい。一人、真に受けてるやついるぞ」


「あーちゃん。あれはフィクションだから。実在の人物・団体とは一切関係ないよ」


「人物は関係あるわよ!?」



幹部の方々を除けば、会場では東堂だけ感動していた。

尚、西宮の発言で大変ややこしい事になっているが、この物語はフィクションなので実在の人物・団体とは一切関係ありません。



***


賑やかにパーティーが進んで行く中、南雲はふと周りを見渡す。



「……西宮さんの母親、来てないんだね」


「そうね。今日は来れられないみたい」


「毎年来れないのか?」


「お母様は忙しいから仕方ないわよ。それでも来てくれる時もあるし、ビデオ通話で祝ってくれるから」



人様の家庭環境の話なのでなんとも言えないが、3人は少し寂しそうな表情を浮かべる西宮を見て励まそうと思った。



「今年は……僕たちが居るから。だから、一緒に楽しもう!」


東堂は西宮の手をゆっくりと握った。


「……ありがとう」


「はーい、あーちゃん。どさくさに紛れて口説かない」



しかし、その手はすぐに南雲のチョップによって解かれた。


気付けばパーティーではプレゼントのお披露目が開始されており、偉い人たちが様々な貢物を持ってきていた。

ドレスやら、アクセサリー、果てには絵画まで。


そんな中、何故か3人のプレゼントは大トリに回されていた。



「……おい。これの後にやる人たちの気持ち考えろよ」


「1000、3000、5000……これプレゼントの総額……」


「あーちゃん、見ちゃダメ! ただでさえワタシたちのプレゼントなんて大したもんじゃないんだから!」



そして、3人が一旦席を外すと何やら台車のようなものでそこそこ大きい箱を持ってきた。

手作り感のある派手な柄の箱には可愛らしい大きなリボンが巻いてある。


……ただ、デカすぎて積み込む際に南雲がうっかり蹴りを入れてしまったらしく、角が一部凹んでいた。



「ず、ずいぶんと大きいわね……」


「まぁ、中身は大したもんじゃないけどな。調達に苦労したくらいか」


「つまらないものですが、どうぞ! ……期待しないで開けてみて!」


「うわー。めっちゃ注目されてるじゃん。プレゼントスベったらやばそー」



一同が大注目する中、西宮がシュルシュルとリボンを解く。


照れ臭そうに視線を外す北条。

なんだかんだ反応を期待する東堂。

普段通り西宮にはそっけない南雲。


みんなの言葉とは裏腹にちょっぴり期待している西宮が蓋を開けると……



「じゃーんっ!! 中身はママでした!!」


「!?!?」



……中からはなんとママ宮こと、西宮理恵が出て来た。

そう、一芝居打っていた3人がおもむろに母親の話をしたのはこのプレゼントの為の伏線だった。



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