第190話 みんなの相談窓口
旅行が終わって一週間が経ち、春休みがやって来る。
正直、旅行が終わった時点で3学期は終わっていたようなものだった。
そんな春休み初日から、バイト先の更衣室で珍しく東堂が北条をご飯に誘っていた。
「今日のバイトの後、マキって暇?」
「帰って家で晩飯作るから暇ではない」
「あぁ、そっか。一緒にご飯に行きたかったんだけど」
「……なんで俺? 西宮誘えよ」
「マキにしか出来ない相談があるんだ」
いつになく真剣な東堂の表情を見て、
(しょーもなさそー……)
この一年の付き合いから絶対禄でもない相談である事は察知していた。
「……まぁいいわ。ちょっとお袋に連絡してみるからそれ次第でもいいか?」
「全然いいよ。急にごめんね。わざわざありがとう」
「うい」
軽くウィンクする東堂を軽くいなす北条。
他の女子ならドキっとする仕草も彼女たちはお互いにまったく恋愛感情はないのでその受け答えは極めて自然であった。
***
「と、言う事で僕にHを伝授して欲しいんだ」
「ぶふーーーッ!!!!」
……なのでこう言う事にもなってしまうのだ。
母親からの許可が下りた北条はファミレスへ移動して一口目のジュースを噴き出していた。
「ごっほ! ごほッ! お前バカなの? は? 相談ってまさかそれ!?」
「そうだよ。あ、大丈夫。北条が好きになったとか、全然そういうのでは無いから。安心して?」
「大丈夫じゃねぇよ。安心ってなんやねん」
案の定、碌な相談ではなく1年の経験則は無駄にはならなかった。
まぁ現在進行形で時間は無駄にしているが。
「やっぱりさ、前回は何の知識もなしに麗奈との事に臨んだのが問題だと思うんだよね。だから今回は練習してから行きたいんだ」
「ほんで、あと腐れなさそうな俺を誘ったと」
「そうそう。いけそう?」
「いけるかボケ」
ツッコミどころ満載の東堂の爆弾発言を一蹴した北条だが、実はこれは1回目では無かった。
「お前らマジさぁ……もうちょっと節度ってもんがあるだろ」
「お前ら? も、もしかして麗奈にも言われたとか!?」
「……優だよ。お前をメロメロにしたいから教えてってさ」
「ゆーちゃんが!? そんな……マキの事をなんだと思って……」
「お前が言うな!!」
それは旅行が終わった次の日の出来事。
~~~北条の回想(side 北条 茉希)~~~
優から『茉希ちゃんにしか出来ない相談が……』と言われ、放課後に彼女の自室へと誘われた。
この時点で既に心臓は高鳴っていたが、
「と、言う事でワタシにHを伝授して!」
「ズコーーー!!」
ムードもへったくれもないお誘いに漫画みたいな擬音が口から出て来た。
たしかに現状の俺は優にとっての浮気相手みたいな感じなので、この状況は活かすべきなんだろうけど……。
(いやぁ……高望みしすぎなのか? 関係だけでも作って、あとはなし崩し的に……?)
色々考えた結果、
「い、いや、優。初めての体験ってのは大事だろ? 上手さとかよりも東堂の為にしっかりとっておけ」
「茉希ちゃん……そこまでワタシの事を考えて……!!」
感動している優に俺は内心で陳謝する。
(や、やっぱり優との初めてはもっとムードとか欲しいぃッ!!)
自分自身でもこんな乙女な面があるとは思ってもみなかった。
~~~以上、回想終了~~~
「……て、言うかさ。次の予定があんの?」
「そ、その……備えは必要だよね?」
「ねぇのかよ!!」
一通り回想が終わった北条は真剣な表情で仕切り直すことにした。
そして、本日の核心に触れる。
「でも、ほら! またそういう事はあるかもしれないよね!?」
「はぁ……? まだ付き合ってもないのに?」
「!!」
「いや、俺もさ。そりゃ優とゴニョニョ……したい気持ちはある。だけど、それだけじゃただの
「た、たしかに!!」
※1.現状、彼女も南雲とはキスフレです。
「だからさ。大切なのは肉体関係より、まずは
「さ、流石はマキ……!!」
※2.実質、彼女も肉体関係で南雲と繋がってます。
偉そうな事を言っている北条だが、発言と現状の立ち位置は完全に矛盾していた。
東堂は感銘を受けているようだが、北条自身は矛盾に気づいているようで、
(な、何言ってんの俺ーーー!? これぞ、まごう事なき『お前が言うな』だろ!?)
「ありがとう。僕は大事な事を忘れていたよ。やっぱり、まずは麗奈としっかりとしたお付き合い出来るように頑張るよ」
「お、おう……わかればよろしい」
『しっかりとしたお付き合い』
その言葉が北条の胸に深く突き刺さる。
今日はお互いの問題点を顕在化出来た。そんな有意義な1日となった。
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