第189話 今まで本当にありがとう
朝からバタバタしていたが、本日は打ち上げ会の最終日。
旅館とは言え、ここは西宮家の私物なのでチェックアウトの時間などは無いので生徒たちはのんびりと帰り支度をしている。
本当は裏ではオリエンテーションで盛り上がったり、他の生徒たちの数々の物語もあった。
しかし、だいたいは例の4人が話題を独占するという、まさに1-Aの一年を象徴するにふさわしい旅行だった。
旅館から出る際には記念撮影を行って、行きと同じく帰りも班ごとの送迎車に分かれた。
***
(東堂班)
「東堂さん、本当にごめんなさい!!」
「うん、もう大丈夫。部屋でも謝ってくれてたし」
「東堂さん……やさしい、しゅき。じゃあ、もうみんなにバラしていい?」
「いいわけないよね?」
バスケ部3人はしっかりと(?)反省して例の件を東堂に謝罪していた。
一応、緘口令も敷いたのでこれ以上広まることは無いだろう。
と、言うかこの件が広まったらこの3人は真っ先に疑われて南雲に消される可能性が高い。
「と、ところで。これも絶対に内緒にして欲しいんだけど……約束できる?」
突然、東堂はモジモジと恥ずかしそうに話題を切り出す。
「えー! するする! 丸女じゃあ、固いのは私たちの口か、それともあず○バーかって言われてるんだから!」
「えぇ……時間経ったら解けたりしないよね……?」
東堂は自身の口の堅さを氷菓子で表現するバスケ部に不安を覚えつつも相談する事にした。
「じ、実は僕、ああいうの未経験で……みんなはあの後、麗奈が何をしようとしてか分かる?」
「えっ……まぁ、それは諸説あるんじゃない?」
「そうそう。あの後とかじゃなくて、あの状況で既に目的は果たしてる可能性もあるし」
「ぼ、僕のに指を入れるのが目的だったの……?」
「うーん、と。もうちょっと具体的に説明するとー……」
その後、何故か異様に詳しいバスケ部の3人は割と親身になって女の子のH事情について東堂に講義をしてくれたのであった。
もしかしたら、軽薄に見えた彼女たちも実はいい人、
「うん。じゃあ、東堂さん1回下脱いで? ここからは実演した方が」
……なのかもしれない。
***
(西宮班)
「上手に恩を返せず申し訳ありませんでした~」
「いえ。いいのよ。寧ろ、あなたには感謝しているわ」
「ん? 2人ともなんかあったんスか?」
雉岡は北条を西宮への供物として捧げようとして失敗した昨夜の出来事をこっそりと猿渡に説明した。
そこへ犬丸も混じろうとして無防備な後姿を西宮の前で晒す。
(思えば初日からずっとお預けを食らい続け、東堂さんとも中途半端に終わってるのよね……)
言うなれば丸2日間お預け状態の西宮は限界に達していた。
気付けば無意識のうちに犬丸の尻尾を幻視して尾てい骨のあたりをサワサワしてと撫でていた。
「ひゃっ……!? ぐッ……、がうッ!」
しかし、その後の犬丸の行動は早く、一瞬で西宮は取り押さえられていた。
「ま、待ちなさい。ちょっと触っただけじゃない!」
「出たな! 西宮さんの愚妹め! いつの間に入れ替わったのかは知らないけど、神妙にお縄につけ!」
車内で取り押さえられた西宮(妹)は犬丸によって謎の関節技をキメられている。
「あっ! ちょっと、痛っ!? あれは嘘で実は……」
「うるさいぞ、妹! こんな事を知ったら西宮さんが悲しむぞ!」
「ちょっ!? いまその西宮さんの腕が変な方向に! やめなさい!!」
「あぁ~……」
これぞまさに自業自得である。
その後、雉岡が西宮(妹)を救出した後に責任を持って彼女の身柄を預かり、学園にて姉に引き合わせる事を約束した。
***
それぞれの過ごし方で時間を潰しているとあっという間に学園に到着。
いよいよ解散というところで学級委員の2人は粋なプレゼントを用意していた。
西宮は
これを百合からみんなへのプレゼントとした。
そして、西宮含む30人の生徒の旅行参加費を百合へのプレゼントとして返礼をする事に。
まずは、生徒たちとお揃いの写真立て、そして謎のギフトボックスを南雲が渡す。
「ありがとう! ……中身は聞いていい?」
「百合先生超健康ボックスだよ!!」
「ふむふむ……で、中身は?」
そのボックスの中には頭痛薬、睡眠薬、胃薬と言った働く百合の必須アイテムが敷き詰められている。
「わ、わーい。出来ればそうなる前の配慮が欲しいかな……」
これはあくまで対症療法のすゝめであって、逆に言えば彼女たちの日頃の行いは絶対に改善しませんという意思表示でもあった。
そして、最後はみんなからの寄せ書きと花束を西宮が渡す。
『本当にお疲れさまでした』
『お仕事ご苦労様でした』
『今まで本当にありがとうございました』
色んな事があって上の空だった百合も、
温かい言葉がたくさん書かれている寄せ書きを見て涙が浮かんだ。
「みんな…………」
花束抱いて顔を上げる。
「…………別に私、来年も学園にいるけどね?」
どう考えても別離のような雰囲気だったが、なんだったら担任ではなくても来月もおそらく家庭科の授業では顔を合わすことになるだろう。
百合は勝手に亡き者にされそうだった事に涙を流していた。
こうして、最後はみんなで記念撮影をして1-Aの旅行、あるいは1-Aとしての1年は終わった。
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