第184話 雉の恩返し


バーベキューで何かを察した雉岡は西宮を例のヤリ部屋に呼び出している。

実は、南雲班がドタバタしている間にその裏でも一悶着が起きていた。



「西宮さん~。私にも準備がありますのでこの襖は絶対に開けないで下さい~」


「分かったわ」



そう言って襖の奥へ消えてをしに行った雉岡を西宮は寝室にて待つ。


(何故ここに私が呼ばれたのかは分からないけど)


雉岡は昨日、西宮からこの部屋の鍵を譲り受けて猿渡との事に至っているはずだ。

つまり、彼女はこの部屋の用途を理解した上で西宮と2人きりで居る。


(ということは……? そういう事なの? 意外と貞操観念は緩いタイプなのかしら?)


期待せざるを得ない状況に俄然テンションの上がった西宮は雉岡の要望通り静かに待った。



……しかし、遅い。



中々準備の終わらない雉岡は心の準備でもしているのか衣擦れすらも聞こえない。

と、いうか隣の部屋からは人の気配もしていない。


不安になった西宮が動こうとした時、何やら隣の部屋でドタドタと物音が聞こえた。


恐る恐る襖を開くと――



***


ここでヤリ部屋の構造を簡単に説明しよう。

部屋の間取りで言えば、浴室、居間、寝室と特に変わった点は無いのだが特筆すべきは扉の鍵だ。


外側からはもちろんのこと内側からも鍵がなければ開けられない仕組みになっている。

これはいい雰囲気になった後、逃げ出す輩の退路を塞ぐための対策である。


実際、猿渡はヘタレて逃げようとしたが雉岡に扉まで追い詰められて最終的には……という感じになった。


現在この部屋の鍵を持っている雉岡はある事を企んでいる。

それは、北条をこの部屋に西宮と2人きりで監禁しようという作戦だ。


彼女は西宮が居る部屋からこっそり抜け出して別の場所で北条を呼び出していた。

しかし、ここで早速思わぬ誤算が発生していた。



「ごめん、お待たせ。話って何?」


待ち合わせよりかなり遅れた北条が謝罪をする。


「もう~。女の子を待たせるなんて~」


「悪かったって。ちょっと部屋のヤツらの寝つきが悪くて……」



北条は班のメンバーを寝かしつける面倒まで見ていた。

もはや姉プレイどころの騒ぎではなく、それはもう母である。

北条班は北条が甘やかすのでどんどん幼児退行しつつあった。



「しょうがないですね~。じゃあ、早速私についてきて下さい~」


「ん? ここだとしにくい話ってこと? ……じゃあ最初から話しやすいとこに呼べば良くね?」


「…………。 黙ってついて来て下さい~」


「お、おう。 なんかごめん……」



のんびりとした口調なのに何故か圧を感じた北条は素直に失言を取り下げた。

雉岡について行く北条は人気のない静かな場所へと進んでいく。



「え……ここ何処だよ? てか、勝手にこんなに歩き回っていいのか?」


「つきました~。この部屋で一緒にお話しましょ~」


「いや、歩き回るならまだしも勝手に部屋に入るのはちょっと……」


「いいから黙って入って~」


「はい……」



いよいよ雉岡の敬語がなくなり圧も強くなってきたところで北条は扉に手を掛ける。


……そう、雉岡は北条に不審に思われない為に鍵は掛けていなかった。


このやらかしが後に大きな悲劇を呼ぶ――



***


時は少し遡り、東堂は同じ班のメンバーから寝込みを襲われそうになりに逃走していた。

しかし、東堂が本当に恐れているのは彼女たちが南雲から既に2度怒られているという事だ。


昼の一件で『仏のゆーちゃんは2度までだよ?(ニッコリ)』と釘を刺された。

なので東堂は彼女たちの身の安全も考えた上で逃走している。


場所まで辿り着いた東堂だったが、なんと追手はそこまで迫っていた。


(えええ!? ここまで追ってくるの!? 何処かの部屋をお借りしてやり過ごせないかな……)


ダメもとで手を掛けた部屋が開いたので東堂はそこへ飛び込んだ。



――それから十数分後、



その部屋の付近で東堂班の市川、町田、村野は北条と雉岡に出くわす。

さりげなく雉岡は扉が開かないように足で押さえ、扉に手を掛けた状態の北条はそのまま3人と会話した。



「あ。北条さんに雉岡さんじゃーん。どしたの? こんなところで?」


「は? お前らこそなんでここに?」


「いやぁ、恥ずかしながら東堂さんを襲おうとしたら逃げられちゃって……」


「マジで何してんの……」


「でもそろそろ部屋に帰ろうとしてたところ。もう20分くらい探してるし」


「そんなに!? アホだなー、お前ら」



思わぬ邪魔が入りそうだったが、どうやらもう撤収するそうなので事なきを得た雉岡は胸を撫で下ろす。


その時、



『はぅっ……!! ああッ……ん!!』



北条が入ろうとしていた部屋からどこか聞き覚えのある艶めかしい声が聞こえて来た。



「…………んんん??」


「え~……?」


「「「 むむっ? エロの匂い!! 」」」



気になった5人が少しだけ扉を開けて中を覗くと、



……どう見ても西宮と東堂が『ヤって』いた。



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