第183話 告白を台無しにする女
お泊りの夜、電気を消して床についた女子がすることと言えば……
「コイバナ、ですッ!!」
「わー!! パチパチパチー!!」
「そ、そんなに張り切る感じなら一回布団から出る?」
テンション高めの南雲と
それに巻き込まれる担任の
「とりっぴーは好きな人いるー?」
「お前に決まっとるやろがい!」
「「 キャーッ!! 」」
「…………」
彼女たちのテンションについていけない百合は、見た目は子供でも中身は大人になっている自身の老いを感じていた。
「なぐもっちはー?」
「いや、どう考えても東堂さんですよね……」
「うん! ……でも、実はもう一人気になってる人が居てー……」
「えっ! キャー! 誰々ー??」 (←百合聡美)
訂正。
この部屋に女子は3人居た。
***
無事、百合のテンションも上がったところで定番の恋バナの定番のアレをやる。
「なぐもっち、教えてよ~。私かな、それとも私かな?」
「えー。でもぉー。ちょっと恥ずかしいって言うかー……」
セオリー通りの『何故かちょっとチラつかせながら焦らすヤツ』である。
話したいけど簡単には教えたくない、でも話したいなー、教えたくないけど。
のアレである。
そしてさらに、この流れで定番なのは……
「じゃぁ……百合先生も好きな人教えて?」
「えっ!? 私? 今は居ないよー!」
「うそだー? 千堂先生とか万里先生とか居るじゃないですかー」
「いや、実はあの2人が好きな人は……」
「お互いなんです!!」
……という勘違いを力説して2人を引かせる。
((お、おバカなの……? この担任は……))
事情を知ってる南雲は当然の事、傍から見ているだけの飛鳥居ですらツッコまずにいられなかった。
これこそまさに、『お前に決まっとるやろがい』である。
「えー、じゃあ本人たちにも確認取ってみようよー」
「そ、それはちょっと迷惑じゃない? それに、どうやって確認するんですか?」
「そこは私たちに任せて下さいよ! ほらほら、スマホ出して!」
南雲と飛鳥居は本人に直接言っても効果がなさそう関係各位に言質を取ることにした。
3人は肩を寄せ合って百合のスマホを覗き込む。
***
(side 万里 愛衣)
三連休の中日の夜、生徒たちと打ち上げに行っているはずの聡美ちゃんからのメッセージ通知が来た。
『突然すいません。今って、お時間ありますか?』
『問題無いよ』
(どうしたんだろう急に……?)
そもそも聡美ちゃんは今どういう状況でこのメッセージを打っているのだろうか。
『答え辛かったら無視して貰ってもいいんですが……』
『うん』
『万里先生って今、好きな人居ますか?』
「ううんっ!?!?!?」
本当にどういう状況なんだろう。
宿泊施設に一人部屋で心細くなって連絡したとかだろうか?
聡美ちゃんは私が千堂と付き合っていると勘違いしているはずだ。
まさか。 ……ここ一ヶ月で考え直した、とか?
とりあえず私としては千堂とは何もない事をアピールしていこう。
『居るよ。でもそれは千堂陽子ではない』
すると、既読はついたがしばらく返信が来ない。
(うん? 何の確認だったんだろうか……?)
まったく分からない聡美ちゃんの真意を考えている間にようやく返信が来た。
『それって、私ですか?』
「……!!」
『あ! 違うならいいんです!』
『すいません、雰囲気で聞いちゃいました!』
『失礼致しました』
私が答える前から聡美ちゃんは次々とメッセージを追加していく。
やはりバレンタインデーの日の勘違いから約1ヶ月。
きっかけは分からないが、聡美ちゃんは考え直して気づいたのかもしれない。
そして自室ではない暗い部屋で一人きり、考えが巡り感傷的になってしまい連絡をくれたのか。
ならば、この好機は逃すまい。
返す言葉一つ。
『そうだよ。君が好きだ』
***
「「「 あわわあわわわ…… 」」」
百合のスマホを覗き込む3人は頬を赤くさせ頭から湯気を出していた。
まさかの情熱的な告白にタジタジである。
……しかも、これは万里だけに行ったやり取りではない。
同様のやりとりを千堂とも行い、
『それって、私ですか?』に対する回答は、
『はい。私はあなたの事を愛しています』
と、返ってきている。
「ど、どどどっどうしよう!? 私、この前のバレンタインデーの時に2人にはまったく恋愛感情は無いって言っちゃったよ!?」
「なっなんでそんな余計な事をするのー!?」
「お、おお落ち着こうみんな。ここは一旦答えを保留にしよう! クイックセーブだよ!」
「な、なるほど?」
百合は震える指で丁寧に返信を打つ。
『ごめんなさい。今は付き合えませ……』
「ちっがう、違う!! それお断りの言葉になってるから!?」
「そうそう!! 『ちょっと時間を下さい』とかでいいんだよ!!」
「す、すいません。慣れてなくて……」
急いで指示通りに文章を打ち直して百合が送信すると、2人からはすぐに了承の返信が帰ってきた。
問題を先延ばしにしただけだがとりあえずは一旦は落ち着く。
「ね、ねっ!? だから私たち言ったでしょ。百合先生の勘違いだって!」
「でもっ……まさかその相手が私だなんて思ってもみませんでしたよ!」
「いや、それは百合先生が鈍すぎ!」
「ど、どうしよう……」
スマホを置いて両手で顔を覆う百合。
その耳は真っ赤である。
「……百合先生は2人の事どう思ってるのー?」
「その……尊敬はしています。でも、今は本当に恋愛感情とかは……」
「ありゃま。これは千堂先生と万里先生も前途多難か?」
「それはまぁ前から一緒だし、結果的に進展ナシってことかなー」
「ちょ、ちょっともう一回相手を間違えてないか確認してみますねっ!」
「やめなさい」
「百合先生は鬼なの……?」
こうして、長い時間を掛けてようやく百合に想いを伝えた千堂と万里だが、まだまだ先は長そうである。
尚、本人含め南雲の話の内容は全員忘れた模様。
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