第182話 いかがわしいサービス?


ヤンキー(誤解)にビビるオタクたちと仲良くなるため、

縋る思いでアドバイスを受けた北条は見かたよっては痴女にも見えた。

尚、南雲を信頼している北条は気づいていない模様。


そんな彼女は現在、部屋でコンピューター部の3人とゲームをしている。


(えーと、南雲アドバイスは……っと)



①汝、隣人を妹と思うべし


アドバイスを思い出した北条は隣にいる松上に肩を寄せ体を密着させた。



「ッ!?」


ふわりと舞った香水の匂いと腕の感触に戸惑う松上。


「ん? どうした?」


「ほ、北条さん。う、腕が……」


「これくらい普通じゃね? うちの妹なんて股の間に座ってこようとするぞ」


「いや、私は北条さんの妹ではないので……そういうのはちょっと……」



そりゃそうである。

唐突にお姉ちゃん風を吹かされても困るだけだ。

反応は芳しくないが北条が絶大な信頼を置く南雲さんの言う事が間違っているはずがないので、ここは更に押しの一手を選んでみた。



「ふーん。じゃあ……試しに座ってみる?」


「え!?」


北条は股を開いて松上を自身の正面へと座るように誘う。


「じゃ…………じゃあ、失礼します……」



なんだかんだ言いながらもむっつりな松上は北条の股の間に腰を下ろしていた。

北条はいつも妹にするように後ろから抱きしめながらコントローラーを持つ。


最初は戸惑ったものの、しばらくその状態でゲームをする事で松上は途方もない安心感と包容力に飲み込まれていった。


一人っ子であるはずの松上の記憶は書き換えられ、偽りの記憶がフラッシュバックする。


姉とお風呂に入った夜、

姉と手を繋いで行く入学式、

一度は姉と別れて泣いた卒業式。


北条の腕の中で感極まった松上は自然と言葉を漏らす。



「ふえぇ……お姉ちゃん……」


「いや、俺はお前の姉ではない」



そりゃそうである。

竹中と梅下は変貌した松上に戦慄していた。



***


②汝、隣人の背中を流すべし


今日の北条班の風呂は部屋の浴室を使う事に。

北条は特に希望は無かったのでどちらでも良かったが、3人は大浴場では気を遣うので嫌だったらしい。


松上は姉(妄想)と風呂に入りたがったが今回北条は竹中と一緒に入る事になった。



「あ、あの部屋のお風呂で一緒に入る必要は……」


「あー……まぁいいじゃん? せっかく広いんだし」



2人は脱衣所で服を脱いで浴室に入る。

北条に強気に来られたら『NO』とは言えない竹中はビクビクしながらもお背中を流す覚悟を決める。

まさか、自分がお背中を流されるとも知らずに。



「ほんじゃ、座って」


「え……この冷たい床にですか? ご、拷問……?」


「なんでだよ!? 普通に風呂椅子に座ればいいだろ」


「ええ!? まさか北条さんに洗って貰うんですか!? そんな畏れ多い……」



グタグタ言っている竹中を風呂椅子に座らせて北条は彼女の髪から洗い始めた。

その驚くべき手腕に思わず竹中口からはだらしない声が出る。



「ほ、ほあ"あ"あ"~」


「痒いとこありませんかー? なんつって」


「……あ、あの。側頭部のあたりを、んっ……もっと……」


「おっけー。こうか?」



この時、一人っ子の竹中は考えていた。

何故、他人に頭を洗って貰うのはこんなに気持ちが良いのだろうか。


否。彼女は他人ではなく姉だからでは?


お互いの体を洗い終える頃にはすっかり妹になっていた竹中。

浴槽に入る際は当然のように北条の股の間に座る。



「え? そこに来んの?」


「ふえぇ……お姉ちゃん~……」


「いや、だからちげぇって」



この時点で北条は思い始めていた。


(……これは友達と言うよりそういうプレイなのでは?)



***


夕方頃、全員風呂に入った後に夕食へと向かう。

今回の夕食は旅館の庭先でのバーベキューである。



③汝、隣人に飯を食わせるべし


『鉄板でなんか焼く』くらい適当なノリで焼いていこうとする3人を北条が制した。



「おーい、おいおい! そんなに乗っけても上の食材には火が通らねぇよ!? 食う分だけ乗せろ」


「す、すいません……調子乗りました。もう二度とトングは持ちません……」


シュンとなった梅下がトングを机に置いた。


「い、いやそこまでは言ってねぇけど……3人とも普段あんまり料理とかはしない感じ?」



一同がコクリと頷くのを見て、北条は腕まくりして髪を縛る。



「おっけー。じゃあ俺が焼くから、それとなく食いたいものだけオーダーして」


「失礼ながらお伺いしたいのですが……北条さんは料理が出来るのでしょうか? 根性ぐらいしか焼けないかと思ってました……」


「マジで失礼だな!? 根性焼きは料理じゃねぇし! まぁ、お前たちよりは出来ると思うわ」



その後、手際よく次々と食材を焼いては3人の皿に乗せ、軽く味付けしては3人の皿に乗せを繰り返している間に梅下の胃袋はガッチリと掴まれていた。



「う、旨すぎるッ! これが北条さんの味……?」


「いや、ほぼ焼いてるだけだわ。食材の味だぞ。てか、お前口元……」


幼稚園児のように口一杯にモグモグしながら口元を汚している梅下の口を北条がティッシュで拭った。


「そんなに腹減ってたのか? 熱いやつ食う時に火傷には気をつけろよ? よく冷ましてからしてから食え」



そんな、美味しいご飯を用意してくれて優しいギャルに対して梅下の一言。



「ふえぇ……お姉ちゃんフーフーしてえぇ……」


「…………」



若干引きながらも北条はフーフーしたらしい。

こうして無事、北条の妹が3人増えた。



***


ちなみに、そんな噂は西宮班にも届いたらしく、


「なんか北条さんがお姉ちゃんプレイして班員と嫌らしい事してるらしいッスよ」


「茉希と? ……汚らわしい(←コンピューター部の3人が)」


「そうですよね。北条さんはやっぱり許せませんよね! そういう不埒な真似は!」



「あ~……もしかしてそういう~?」



その西宮の様子を見た雉岡だけが何かを察していた。



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