第179話 ラノベにたまに出てくる設定


辿り着いた旅館でそれぞれの部屋に向かう1-Aの生徒たち。

4人部屋は広々として清潔感があり、落ち着いた雰囲気がしている。


西宮の班の面々は部屋に荷物を置いてから見渡す。



「凄い高級感~。西宮さんは毎日こんなところで寝泊まりしているんですか~?」


「いえ。私も普段は自宅で寝ているわよ。それに寝室は洋室よ」


「そして毎日フォアグラを食べてるんスか!?」


「食べてないわよ。あなたたちは何故私に毎日フォアグラを食べさせようとするのかしら」



おっとりとしている方が雉岡、体育会系な方が猿渡。

2人の共通点は特に考えて喋らない事だ。

そして未だ西宮を警戒しているのが犬丸で、彼女たちはフットサル部のグループだった。



「……あの。西宮さんって一緒に居ると意外と手を出してこないんですね?」


「あら、犬丸さん? もしかして、私がセクハラするという噂を聞いて警戒してるのかしら? 実はあの噂は根拠のないただの噂よ」


「私、西宮さんに思いっきり胸を揉まれた経験ありますけど!?」


「えっ……!? それは本当に私だったの? まさか、双子の妹の仕業……?」


「白々しいです!! ち、近づかないで下さい!!」



西宮は1-Aのクラスメイトをセクハラコンプリートしているので常習犯どころの騒ぎではない。

犬丸がガルルと唸るのも当然の対応である。



「でも、西宮さんて、あの3人にはあんまりセクハラしませんよね? なんでッスか?」


「親しい関係だと気まずくなる時があるからかしら。妹の事は分からないわ」


「え~? でも~。親しく無かったら、普通に犯罪ですよ~?」


「まぁ、諸説あるわね」


「無いですよ!!」



警戒心MAXの犬丸と何も考えて無さそうな雉岡、猿渡とこれから行く場所は何を隠そう風呂である。


集合場所の丸女から出発したのが昼過ぎで、現地に到着したのが夕方頃。

その為、荷物を置いて少しだけのんびりしたらすぐに風呂の時間が来た。


準備をする犬丸の足取りは非常に重い。

それはこんな女と一緒に風呂に入りたい輩はそうは居ないだろう。



***


大浴場は4班ずつの交代で入る事に。

部屋にも浴室はあるので、そちらで済ませることも可能。

しかし、せっかくなので大浴場で、という生徒が多かった。


たしかに一見の価値はあるくらいの豪華で広々とした大浴場は露天風呂つき。

そしてもちろん、お湯は温泉である。


生徒たちはそれぞれの楽しみ方で日々の疲れを癒している。

そんな中、西宮たちはと言うと。



「い、いいですか、西宮さん!? 私の半径1m以内には近づかないで下さい!」


「私、拒絶されると燃えるタイプなのよね」


「ひぅ……」



犬丸が短い悲鳴を上げたのは西宮が近づいたからではなく……



「げ。西宮いんのかよ」


「あら? 誰かと思えば、その凶悪な目つき……茉希ね」


「や、やかましいわ! あのー……犬丸さん。その、そんなにビビらなくても平気というか……」


「あ、あの。すいません、私……! いまお金持ってないです……と、飛びますね?」


「あー、大丈夫、大丈夫。いま君ほぼ全裸だから。小銭の音とかしたら逆に怖いよな?」



北条の眼光にビビり散らかしている犬丸は、あんなに嫌がっていた西宮の背中に隠れている。

そんな犬丸を西宮はここぞとばかりに優しく抱きしめた。



「大丈夫よ、犬丸さん。私が居るわ。……北条さん、一旦その悪い目つきをしまって貰えるかしら?」


「取り外し式じゃねぇんだわ! 外せんなら俺もとっくに外してるよ!!」


「あうぅ……」


「大きい声出さないで。犬丸さんが怯えてるじゃない。ほーら、怖くない。怖くなーい」



余程安心感があるのか犬丸はすっかり西宮に身を委ねている。

対して北条は絶望感を感じていた。



「はあぁー。凹むわぁー……犬丸さん俺ってそんな怖いかな?」


「あなた……事あるごとに自分が怖いかどうか聞くのをやめなさい。怖いわよ」


「そ、そうか。怖かったか……」



割とガチ凹みの北条は去っていた。

弱った北条を見て、あとでフォローに行けばワンチャンヤれるのでは?という邪悪な発想が西宮の頭をよぎる。

西宮がそんな事を考えているなど露知らず、犬丸は純粋な目で西宮を見つめた。



「あ、あの。ありがとうございました……その、北条さんは怖い人ではないのは分かってるんですけど……対面するとやっぱり圧が」


「いいのよ。あの女はモテない方が都合は良いもの」


「……?」



犬丸は西宮に抱きしめられた状態で小首を傾げる。

その姿は警戒心が解けた子犬のようで大変可愛らしく、西宮はナデナデしようとした。


お尻を。



「でも、西宮さんって本当はいい人だったんですね! もしかして……セクハラしてたのって本当に双子の妹の仕業!?」


西宮の手が止まる。


「…………」


性欲か友情か。ギリギリのせめぎ合いの結果。



「…………そうよ」


「やっぱり! 今まで疑って申し訳ございませんでした! ……あれ? でも丸女に西宮さんの妹が居るなんて聞いたことが……」


「そ、そこはほら。別の学校に通っていて気分で入れ替わるというラノベとかにありがちなアレよ」


「なるほど? では、セクハラしている時は妹と……今度から注意して見てみます!」


「いや、あまり注目はしないほうが……彼女に犯されるわよ」


「ご安心を! 今度からは催涙スプレー掛けた後にスタンガンで意識を消し飛ばしますね! そしたら一応、縛った後に西宮さんに連絡します!」


「やめなさい! 彼女も人の子よ!」



こうして西宮は嘘で塗り固められた信頼の上、犬丸との友情を育んだ。

その関係は今日こんにち百合ひゃくあと万里の関係によく似ていた。



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