第178話 包丁要らずの簡単調理


1-Aの慰労会と言う名目の旅行。

それは春分の日を含む3連休に行われる事になった。


この旅行でいつもの4人は珍しく別々のグループで行動している。

4人だけで集まるなら春休みでも可能だろうという事で、今回はクラスメイトとの思い出作りを優先した。


1班は4人で南雲の班だけ百合ひゃくあを含んで3人という構成。

移動や部屋割りはこの班ごとで行われる。


なので、現在は移動中なのだがリムジンが計8台ならぶという異常な光景が広がっていた。

ちなみにリムジンの並びの前後にも西宮家関係者の車が控えているらしい。

しかも、安全と監視の為に上空にはヘリも飛んでいる模様。


最初こそその光景に気後れしていたクラスメイトたちも、一度乗ってしまえばまったく気にならなくなっていた。


そんな車内の様子は……



***


(東堂の班)


「あー。 私の負けかー! じゃあ……脱ぐね?」


「え!? 脱ぐとかそんなルールあったっけ!?」



東堂は普通の大富豪かと思ってやっていたが完全に嵌められていた。

つまり現在、車内では脱衣トランプが開催されている。


東堂以外の班のメンバーは、市川、町田、村野の3人。

彼女たちバスケ部仲良し3人組の中に東堂はお邪魔させてもらっていた。


当のバスケ部3人は東堂とイチャつけるという事でテンション爆上がり。

通常、座席の配置的には机を挟んで2×2で座るのだが、


理想:

    _

東堂 | | 町田

   |机|

市川 |_| 村野



現実:

    _

市川 | | 

東堂 |机| 村野

町田 |_| 



このような座席配置になっていた。

さきほど服を脱いだのは対面にいる村野で、まだ負けもないのにブラウスのボタンを一つ開けて東堂に胸元をお見せしていた。

左右の2人もしっかり密着して東堂成分を補給している。



「……あ、あのー。そんなに密着すると見えちゃうというか……」


「えー! 東堂さんが見たいなら……いいよ?」



今度は町田が襟元に指を掛けて胸元を見せる。



「ち、違うよ! 手札の話!」


「もうー。町田も村野もただの痴女じゃんー。東堂さんと一緒だからって浮かれすぎー」


「……市川さん。いま僕の服の中に入ってる手って市川さんのだよね……?」



市川の手は東堂の服の裾から侵入して、何故かお腹をやさしく撫でていた。



「はッ!? と、東堂さんいつの間に私の手を自身のお腹へといざなったの!?」


「市川とかふつーに西宮さんじゃん。あ。間違えた。セクハラじゃん」


「麗奈をセクハラの代名詞みたいに使わないで! それに麗奈はそんな事しないよ!」



「「「え? 結構されてるけど??」」」



「えぇー…………」



これぞ1-A。4人以外にも濃いメンツはたくさん在籍していた。

尚、旅館に到着する頃には3人とも下着姿で東堂の体をまさぐっていた。


大富豪とは一体。



***


旅館に到着した東堂に待ち受けていたのは、



「あ、あーちゃん! 大丈夫!? 西宮さんされてない?」


「大丈夫だよ、ゆーちゃん。割といつも通りというか……麗奈はそんな事しないというか……」



東堂は車から降りてからもまた体を弄られる。

入念なボディチェックをする南雲は最終確認の為、東堂をぎゅっと抱きしめて息を吸い込んだ。



「……他の女の匂いがする。しかも複数。あーちゃん?」


「こ、これは、その……リムジンが結構揺れてて、偶然3人と密着しちゃって……!」



東堂は浮気した旦那の苦しい言い訳のお手本を披露した。

見かねたバスケ部3人組も命の危険を感じたので加勢する。



「そ、そーそー! うちのリムジンだけ峠を攻めててー、わりと後輪を滑らせてたと言うかー」


「ね、ねー? もう、だいぶ掟破りだったというか、地元の走り方だったよねー!」


「うんうん! だから私たちは必死に東堂さんにしがみ付くしかなくて……!」



「ふーん……?」



いくら何でもリムジンで峠をドリフト出来る訳がないので、南雲は半分超えて無信全疑である。

怖いくらいの無表情の南雲は何故か旅カバンから紙皿を出す。

そして、おやつに持ってきた(?)リンゴを手に持った。



「今回は見逃すけど、次に手を出したらみんなのおっぱいは……こう!」



――ミシィ!!



南雲の握力で割れたリンゴが嫌な音を立てる。

その音は4人の脳裏に深く刻まれた。



「わかった?」



3人はコクコクと高速で頷き、東堂は冷や汗を流す。

それを見て笑顔になった南雲は紙皿にリンゴを乗せて何処かへ去っていく。



「鳥っぴー! 百合せんせー!  一緒にリンゴ食べるー?」


「食べる食べるー! というかなぐもっち、なんでリンゴ?」


「……え? これ……包丁もないのにどうやって一口サイズに?」



朗らかな表情で自分の班のメンバーに握力で粉砕したリンゴを提供する南雲を見てバスケ部3人は小声で話す。



「……でも、最近ほら! 南雲ちゃん丸くなったし!」


「そうそう! 普段は結構優しいし?」


「だから、ワンチャンもう一回くらい手を出しても……」



「や、やめておいた方が……」



この旅行から帰る頃には合計6つの山がもぎ取られている可能性はある。



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