第176話 ゆるキャラは怒りがち
卒業式も終わり、テストも無いとなれば3学期の残り期間は特にやる事はない。
ギリギリだったが南雲と西宮も『仮』がつかない進級が確定し、追認考査は免れた。
そんなある日の昼休み。
「茉希……あ、間違えたわ。北条さん」
「お前さぁ……なんか最近、俺の呼び名安定してないよな。急に下の名前で呼ばれるとドキッとするわ」
「ドキドキする?」
「ドキドキはしない」
例の夢の一件から西宮はたまに北条の呼び名を間違える事があるらしい。
何せ約10年を夢の中で過ごしたのだから仕方がない。
「そ、そうだー。いっそみんなで名前呼びを固定してみようかー(棒読み)」
「面白そうね。優はどうかしら?」
「名前って言うかあだ名とかでいいんじゃない? ワタシ下の名前が英語みたいになっちゃうの嫌なんだよね」
「あー。今の西宮とか『YOUはどう?』みたいに聞こえて腹立つのか」
「そーそー。そんな感じ。無性に腹が立つの」
おそらくそれは私怨込みでの感想だが、
ともかく南雲は西宮からの名前呼びには拒否反応を示した。
斯くして、いつもの唐突な流れで呼び名検討会が始まった。
***
①東堂明里
・東堂 ⇒ あかりん
・西宮 ⇒ アッカーリン
・南雲 ⇒ あーちゃん
・北条 ⇒ 明里
「あーちゃんはあーちゃん一択だよ! でも、ワタシ以外呼んじゃダメ!」
「そう。でも、アッカーリンの方が強そうよ」
「れ、麗奈! あーちゃん枠は埋まってても、あかりん枠ならまだ空いてるよ」
何故か強さで呼び名を決めようとする西宮は人類最強の戦士の名を彷彿とさせた。
ちなみに、一応あかりん枠にも先着が1人居る模様。
「てか、自分であかりん推すのはエグいよな。もはや一人称をあかりんにしたらどうだ?」
「流石にあかりんは恥ずかしいよ!」
「え……今、自分の事あかりんって……」
「ぶりっ子きっつ」
「そういう意味で言った訳じゃないから!!」
②西宮麗奈
・東堂 ⇒ 麗奈
・西宮 ⇒ 麗奈
・南雲 ⇒ セクやん
・北条 ⇒ セク宮
「悪口が混ざっているのだけど。南雲さんに関してはどうやったらそうなるの? 原型がないわよ」
「セクハラにしみやさん」
「おおー。語感いいじゃん。よろしくな、セクやん」
「やめなさい。ちょっとしたイジメよ」
異常に語感が良いゆるキャラのような名称だがその由来は終わっていた。
当然却下されるとして、問題の名前呼びについての議論が始まる。
「麗奈は名前で呼ばれたいの?」
「そうね。麗奈さんとか、麗奈ちゃんとかでもいいわよ」
「えー、麗奈ってなんか女の子っぽいー。イメージと違うー」
「なー。お嬢様みたいでなんか嫌だよな。名前詐欺だわ」
「美少女でお嬢様なのだけど? なにか問題でも?」
③南雲優
・東堂 ⇒ ゆーちゃん
・西宮 ⇒ ストもん
・南雲 ⇒ なんでもいいよ
・北条 ⇒ 優 (願望)
「西宮さん。一応聞いとくけど、それは何ー?」
「ストーカーのなぐもさん。或いはストーカーモンスターの略称よ」
「おっけー。ゆるキャラ対決(物理)しよっかー」
検討会の趣旨が変わって西宮が反撃に出た事により、ゆるキャラコンビが結成された。
一方、己の願望をごり押ししようとしている女は、
「やっぱり、優は嫌か……?」
「うーん……でも、茉希ちゃんが言ってくれたら慣れるかも?」
「じゃ、じゃあ!! ゆ、優……」
「……うん。なんか恥ずかしいね!!」
「(ピピー)何故だか無性に腹が立ったので却下よ」
「さ、流石は北条……! 見習わなきゃ!」
相変わらず北条はちゃっかりしていた。
④北条茉希
・東堂 ⇒ マキ
・西宮 ⇒ 茉希
・南雲 ⇒ 茉希ちゃん
・北条 ⇒ なんでもいい
「おー。じゃあ北条改めマキはこれからみんなで名前呼びだね」
「まぁなんでもいいわ。ただ、なんか西宮の呼び方だけお袋みたいでビビるんだよな」
「隠し切れない私の母性が申し訳ないわね。 お詫びに私の事はママって呼んでいいわよ。おっぱい吸う?」
「掃除機で吸ってやろうか?」
結局、唐突に始まった呼び名検討会で変わったのは主に北条に関するものだけだった。
あとは副産物として『セクやん』と『ストもん』という2体のゆるキャラが誕生したくらいだった。
***
その日の放課後、下駄箱にて。
「いいよね、マキはちゃっかりが通って」
「まぁ……大変嬉しくはある。お前はもうちゃっかりがダメならゴリ押ししてみれば?」
先に靴を履き替えた2人に続いて東堂と北条が小声で話す。
割と投げやりなアドバイスをした北条はさっさと靴を履き替えて行ってしまった。
考えながらモタモタ靴を履き替える東堂を見て西宮が振り返る。
「一体どうすれば……」
「何をしているの? 早くしなさい明里」
「えっ!? 麗奈、今……!! もう一回聞いても良いかな!?」
「(ピピー)ふつーに腹が立ったので却下でーす。はーい、離れてー」
こうして少しずつ、4人の仲は良くなっていく……のかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます