第175話 無駄に重厚な設定
卒業式の一件で2人がひとしきり怒られた後、一緒に下校するのを待っていた2人と教室で合流する。
「災難だったね。こんな日に」
「いや、自業自得じゃない?」
「こいつ、隣で目元をハンカチで押さえながら爆睡してたからな」
「おかげさまで不思議な夢は見れたわ」
たまに目覚めた後にも夢の内容を覚えているという経験はあると思うが、今回は西宮がまさにそのパターンだった。
なので西宮は今回の夢の感想が聞きたくて4人に夢のあらすじを語る。
①西宮が東堂にフラれる
②東堂が南雲と付き合う
③南雲が北条をフる
④北条がショックでヘラる
⑤西宮バリキャリ編スタート
⑥風俗嬢の北条と再開
⑦その後めちゃくちゃHした
というのが、大まかな流れだった。
「なるほどな。俺が風俗嬢にされたのも諸悪の根源は東堂と」
「違うよね!? ……そもそも、夢の中の僕はなんで麗奈をフッたの?」
「不埒の限りを尽くした結果、見限られたわ」
「入学してからずっと悪行三昧だからね。1年経ってあーちゃんもようやく気付いたんだね」
夢の内容的に、もしかしたら西宮の深層意識の中では日常生活に僅かな罪悪感はあったのかもしれない……し、無かったのかもしれない。
結局は夢の話なので今後改善しようとかは一切ないらしい。
「それでそれでー? 付き合い始めたワタシたちはどうなるのー?」
「東堂さんはすぐにうつ病を発症して不登校になるわ」
「ど、どゆこと!? あーちゃんに一体何が……誰があーちゃんをそんなに追い込んだの!!」
「元凶の生徒はその後、しばらく自宅謹慎の処分を受けたわ。けれど、なぐ……その人はストーカーを止められなくてついには警察が動いたの」
しかし、それすらも抵抗した南雲に限りなく似た生徒は丸女からも退学処分を受け、親と共に何処か遠くの空気の綺麗な町へと引っ越したらしい。
「それから東堂さんと南雲さんの居なくなった学園では……」
「えっ!? それワタシだったの!?」
「傷心状態の北条さんが不特定多数の生徒たちと不貞行為を働き、邪魔する人間は拳で黙らせるようになったわ」
「クズじゃねぇか!! しかもその後、風俗嬢になるとか。お前は俺に恨みでもあんのか!?」
ここから夢の中の卒業式に入ろうとしたのだが唐突に東堂が割って入る。
「ちょ、ちょっと待って! 僕の登場シーンもう終わり!? 麗奈フッてうつ病になっただけ!?」
「そうね……東堂さんはその後、お見舞いを装った北条さんに犯されそうになって人間不信になるの。タイミング悪く、その数日後に面会に行った私はあなたの姉たちに絶縁をお願いされたわ」
「重過ぎない!? なんでそんな無駄にリアルなの!?」
「いや、リアルでは無いだろ。お前ちょっと俺の扱い……おい」
「みんななんてマシじゃん。ワタシなんて直接登場もしてないのに裏で警察に捕まってるんだよ」
各々が最悪の状況の中、それを目の当たりにした西宮はついに改心するに至った。
卒業後の彼女は今までの生活を捨て、ボロアパートにて一人暮らしを始めて平社員として働き始めた。
「おい、ふざけんな。なんでてめぇだけまともな人生送ろうとしてんだよ」
「そうだよ!! ここが一番フィクションじゃん! 西宮さんがまともに働けるワケないじゃん!」
「みんなの分まで私が生きよう。私はそういう決意を胸に秘め覚醒したのよ」
「……え。僕たち別に死んでは無い、よね……?」
「そして、およそ10年の月日が流れ……」
「長尺過ぎない!? ちょっとした居眠りで見れる夢の内容じゃないよ!」
そして例の北条とのシーンに移る。
これが西宮が見た夢の全容である。無駄に濃厚な設定だった。
それは起きた瞬間にも寝ぼけるであろう大層な想像力である。
「えぇ……つまり結果的に麗奈は北条と結ばれたの?」
「そこまでは分からないけど、ヤることはヤッたわ。すごく気持ち良かったわよ」
「お前マジ、卒業式に何してんの? もっと怒られた方がいいんじゃね」
「そうだそうだー! 見るならもっとマシな夢見ろー!」
「いや、居眠りはダメだよ……」
西宮は今回見た夢が『良い』夢だとは思っていない。
何故なら、あれは彼女が目指すべき形では無いし、各々が幸せでは無いからだ。
それでは『良い』とは言えない。
故に彼女は決意した。
――次はもっと『良い』夢を見るわ。
1年生の残り約1ヶ月の授業、全身全霊をかけて居眠りする事にした。
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