第174話 ドリームフォール side 西宮 麗奈
三月に入ってすぐに丸女では卒業式を行っていた。
私たちはあっという間の3年間を思い返す。
色々な事もあった。思い出もたくさん出来た。
――でも、それももう終わり。
結局、私たちは誰も結ばれることは無かった。
***
卒業後、私は西宮自動車の社員として働いていた。
社長の娘としてではなく、自らの努力によって認められたいという一心で日々を汗を流している。
そんな生活を続け30代が見えて来たある日、
私は数奇な運命のめぐり合わせに出会う事となる。
金曜の夜、残業が長引いて終電を逃した私は会社で仮眠を取り、始発で自宅へと帰ろうとしていた。
すると、地下鉄への入り口で倒れている派手な見た目の女性を見つけた。
季節は冬。何故誰も助けようとしないのだろう。
「……あの。あなた、こんな所で寝ていたら風邪を引くわよ」
「……あぁん? うっせぇ……放っておいてくれ……!!」
酒の匂いをさせながら少しだけ起き上がった彼女を見て合点がいく。
――彼女はものすごく目つきが悪かった。
***
その顔には面影があった。良く見知った顔の。
けれど、まさかこんな形で再開するだなんて思いもしなかった。
放っておくのなんだし、これも何かの縁と思った私は彼女を自宅のアパートまで連れて帰った。
自室で私のベッドを使って眠る彼女の姿を改めて見て思いに耽る。
不埒な行動の数々から東堂さんに見限られてしまった私。
東堂さんとの天秤に掛けられた結果、南雲さんにフラれてしまった北条さん。
その後、私たちの関係は修復される事なく険悪な関係のまま学園生活は終わってしまった。
私はなんとか仕事に打ち込み立ち直ることが出来たが、深い悲しみの底に沈んだ彼女に他の道はなかったのだろうか。
酒の匂い、きつい香水、濃い化粧。
あの時とは変わってしまった彼女の職業はなんとなく分かった。
「……ん。んぅ? ここは……?」
「おはよう。久しぶりね。言いたいことが無ければさっさと出て言って頂戴」
私は努めて冷たい言葉を選ぶ。
きっと、お互い話さない方が傷つかずに済む。
「西宮、か? お前……随分と雰囲気変わったな。しかもこんな質素なアパートに住んで」
「雰囲気どうこうはあなたに言われたくないわよ」
「それもそうだな」
暫し気まずい沈黙が私たちの間に流れる。
「……なぁ、西宮? せっかく再開したんだしヤるか?」
彼女は私の手を取り自分の胸を押し付ける。
「お前こういうの、んっ……好きだったろ?」
あぁ、そうか。
私は彼女がキャバ嬢になったのだと勝手に勘違いしていたが実際には違った。
「あなた、今は風俗嬢なのね」
「そうだよ。ヤッてる間だけは辛い事を忘れられるだろ?」
「そう……過去と向き合えなくて、こんなことを続けていたのね」
――グイッ
腕を引っ張られた私はベッドに倒れこむ。
いつの間にか組み伏せられた私を北条さんが見つめる。
「偉そうな事言ってんじゃねぇぞ! なんで、なんで……てめぇだけ立ち直ってんだよ……。俺は、こんなにッ……!」
悲しみ、悔しさ、憤り。複雑な色を混ぜた瞳からは涙が溢れていた。
再開してからもずっと情緒が不安定な彼女を見せつけられた私はつい魔が差してしまった。
いけないと分かっていても、目の前で泣いている彼女を放っておくことが出来なかった。
「まったく、あなたはいつもそんな風に辛そうな顔をして人を犯しているの? 仕方ないわね、辛いなら……いいわよ」
自然と私の腕は彼女を優しく抱きしめていた。
最初は話を聞くだけのつもりだった。
けれど、気づけば体を重ねていた。
私たちの体の相性は良かったらしく徐々に行為はエスカレートしていった。
最終的に激しく求めあった私たちは2人とも気を失ってしまった。
***
「西宮、起きろ」
先に起きたらしい彼女に優しく肩を揺らされた私は目を覚ます。
「あら……茉希。あなたの方が先に目覚めたのね。どうだった? 私とのエッチの感想は?」
「はぁっ!? お前何言ってんの!?(小声)」
焦る彼女はなんだか昔と変わらないような姿にも見える。可愛らしい。
そこで私はふと、自分の体勢が椅子に座っている状態である事に気付く。
「……あら? あなたが私を移動させたの?」
「寝ぼけてんのか!? ずっとここに座ってただろ!(小声)」
徐々に意識が覚醒した私が周りを見渡すと学生たちが立って何故か歌を歌っている。
「今、校歌斉唱中だから!! もうすぐ卒業式終わるぞ。もう先生にはバレてるとは思うけど、一応最後だけ起きとけ!(小声)」
「卒業式? それはもうとっくの昔に……あぁ…なるほどね。今、完全に覚醒したわ。SSR西宮麗奈よ」
「やかましいわ。いいから早く立て(小声)」
「ちなみにあなたって風俗で働いたことある?」
「ねぇーよ!!!!」
こうして卒業式の最中、盛大な夢オチをカマした私は北条さんと百合先生を巻き込んで学年主任にこっぴどく怒られた。
当然その後、私だけ北条さんと百合先生に更に怒られた。
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