第170話 絶対とは何%くらいなのか
『りりあん☆がーてん』。
ここは東堂と北条がバイトをしているコンセプトカフェだ。
年齢問わず淑女をもてなす社交場でもある。
あくまでも『カフェ形態』で営業している店であり、決して風俗ではないのでそこはお間違い無きよう。
極稀に金に物を言わせ店長を揺さぶる輩も現れるが、風営法の番人である店長が金に揺らぐことは絶対に無い。
そしてそれは本日、2月22日の『すーぱー☆にゃんにゃんデイ』でも同じだった。
「東堂。一応確認なんだが、今日の事は西宮には言ってないよな?」
「麗奈は今日来ないって言ってたよ」
「……言ってた? お前まさか西宮に言ったのか!?」
「うん? 言ったけど、『絶対に家を出ないわ』って言ってたよ?」
「いいか、東堂。この世の中に絶対は無い。絶対にな」
「どっちなの……言いたいだけで、しょ!」
開店前に更衣室で着替えながら話す2人。
本日は特別な日なので、普段は執事をやっている事が多い東堂も真逆のコンセプトであるネコミミメイドを提供する事に。
なので彼女は不慣れな服に悪戦苦闘していた。
ちなみに北条はこの1年、ほぼやさぐれネコミミメイドでやってきているので慣れたもんである。
「うわー……」
「……なに?」
「お前のメイド服似合わねぇ……」
「い、いちいち言わなくても分かってるよ! ネコミミで誤魔化すから!」
高身長のイケメン女子が着るロリ系フリフリドレスの違和感が凄かった。
仮に東堂がその恰好が好きなのであれば北条もわざわざ口には出さなかったが、本人は嫌々やっているのでハッキリと伝えてあげることにした。
『お前の普段のチョイス、間違ってねぇぞ』という意味合いで。
それでもネコミミの魔力とは凄いもので、イケメンネコという事で通せばなんとなく行けそうではあった。
「あとは挨拶だけど、お前はメイドのやつも行けるのか?」
「うん。北条が普段からやってるしね。問題なのは覚悟だけだったけど、麗奈も来ないなら一切の憂いは無いよ」
「そ、そうか。絶対に来ないもんな……?」
入念な確認を済ませた北条と東堂は開店前にひとつ咳払いをしてスイッチを切り替える。
そして、飛び切りの営業スマイルで最初の客を全身全霊で迎え入れた。
「おかえりにゃ! ご主人さ、」
「おかりにゃさい! お嬢さ、」
「あらあら?」
「「み"ゃ"ぁ"ー"ー"ー"ッ"!?」」
しっかり死亡フラグを立てたネコたちを西宮はしっかり保護した。
***
2人ならやっていける、そう覚悟を決めたはずだったが最初の来店者がまさかの西宮で心が折れそうになる2人。
「な、なんで麗奈がここに……? 約束は?」
「義侠の心に駆られた私は可愛いネコたちを保護しに来たの」
「そして約束は反故にしたと……?」
「誰がうまい事を言えと言った」
座席に案内された西宮は2匹を侍らせてメニュー表を眺める。
まだ納得の行っていない方の1匹は口を尖らせていた。
「……麗奈は絶対って言ったのに」
「東堂さん。絶対なんてこの世の中に絶対に無いわ」
「それ流行ってるの!?」
「それにしてもここのネコは流暢に喋るのね。店長に是非お話を伺いたいわ」
「は……流行ってるの、にゃ?」
「店長ー? ここにニセモノのネコが紛れてるわよ」
取って付けたかのような語尾と棒演技のキャストに不満を抱く西宮。
しかしそれは実際に取って付けてるだけなので仕方がない。
そして、店長こと二川は既に近くにスタンバイしていた。
事あるごとにやってきては風営法を侵犯してくる西宮を監視していたと言った方が正しいかもしれない。
「……店長の二川です。お嬢様、どうかなさいましたか?」
「今日はこのパチモンネコの気合が入るような服を用意して来たのだけど」
「こ、困ります! 勝手にキャストの服を着せ替えられては!」
「そう……今日はあなたのためにも素敵なものを持ってきたのだけど」
「お、お嬢様。いつも私がお金に踊っているとでも? 今日の私は絶対にお金では動きま……」
二川が断言する前に西宮はスッ、と大きめのサイズの封筒を机に滑らせた。
彼女は遅る遅る封筒の中身を半分だけ出してすぐにしまった。
「まったく、やれやれですね……」
「て、店長……! 風営法は僕を守ってくれるんですよね!?」
「安心して下さい、東堂さん。 ……西宮さんは良い人ですよ」
「店長ーーーッ!?」
こうして、東堂は西宮に更衣室へと連れて行かれた。
二川の後ろから一部始終を見守っていた北条には封筒の中身が見えてしまった。
……店の権利証の類だった。
「こ、これで念願の2号店が……!」
北条はしばらく『大人』と『絶対』を信じられなくなったらしい。
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