第169話 無意味な延長戦


結局、下校までプレゼントは貰えず最下位のままの西宮。

そんなピンチの最中、なんと可愛い後輩たちが駆け付けてくれていた。



「お姉様! お久しぶりですわ!」


「ガブ……! このタイミングで来てくれたという事はまさか……」


「そのまさかですわ! こちらを受け取ってください」



冬の寒空の中、校門前で待ち続けた重い女こと四方堂。

手渡されたプレゼントの包装は紙ではなくまさかの絹素材。重い。

中身はともかくとして彼女のタイミングは完璧だった。



「でかしたわ。見なさい北条さん。これが起死回生の一手よ」


「校門出てるけどな。しかもそれ貰ってもお前最下位だし」



自ら校門を出るまでと発言したのにも関わらず、校門の外で+1個する西宮。

しかも、四方堂の助けを加味しても順位は変わらなかった。



「せーんぱい♡」


「どの先輩? 西宮さんか。ほら、十河さんも呼んでるみたいだよ。良かったね」


「"南雲"先輩のことです! チョコ、受け取ってください! 愛情込めて作りました♡」


「あ、ごめん。ワタシちょっと愛情にはアレルギーがあって医者から止められてるの……返すね?」



四方堂とのセットには当然のごとく十河もついていた。

南雲は全力の抵抗でシラを切ってみたが、その努力はまるで意味を成さない。

受け取ったプレゼント丁寧に包装されているものの禍々しいオーラを放っている。



「一応、聞いておくけど……爪とか髪の毛とか入ってないよね?」


「そんな物は入れません!」


「本当に何も……いや? まさか、血……!?」


「ちょ、ちょっと手を切っちゃった時に入っちゃったかもしれませんねっ!」


「両手開いて見せて」



南雲は咄嗟に十河の手を見るが切った形跡が無い。

つまり考えられるのは、


・ちょっと手首を切っちゃったパターン

・別の器具で血を抜いちゃってるパターン

・彼女が人外で再生力が異常なパターン


いずれにせよ危険なシロモノである事は間違いないので、貰うだけ貰って後で適切な対応廃棄処分をする事にした。


その一連のやり取りを横目で見ていた西宮も背筋に寒気を感じる。



「……ガブ。あなたは変なものを入れないわよね?」


「私を十河と一緒にしないで下さい。仮に行うとしても爪や髪の毛は粉末状にしますわ」


「入れて、ないのよね……?」



とにかく奇行が目立つ2人なので西宮も念には念を置いて適切な対応をする事にした。



「それはそれとして先輩? なんで今日は肩からゴミ袋下げてるんですか?」


「こっちはゴミじゃないから。君からのやつは限りなくゴミに近いけど」



十河は虚ろな目で南雲が貰ったチョコたちを眺める。

それとは対照的に四方堂はキラキラとした目で西宮を見つめる。



「お姉様は手持ちしてませんが、もうご自宅に送ったのでしょうか?」


「「「…………」」」


「お姉様ほどのお方ならきっとさぞ多く貰ったんですわよね?」


「…………ええ。もちろんよ」



「西宮!?」

「西宮さん!?」

「麗奈!?」



「まぁ、やっぱり!! 流石はお姉様ですわ!!」



ギリギリのところで西宮の尊厳は守られたが、メンタルには深刻な被害を受けた。

こうしてバレンタインデー行われた戦いは色んな意味で西宮の敗北で終わった。



***


帰宅して立ち直ってから西宮は今回の罰ゲームについてチャットで東堂に話を伺う。


『何でも言いなさい』

『どうせ酷い事をするんでしょう。薄い本みたいに』


『酷い事? それに薄い本って……?』


『冗談よ。さっさと決めなさい』


『本当はデートにしたかったんだけど、今回はお願いでいいかな?』


『逆?』


『……2月22日はお店に来ないで欲しい』



返答の前に西宮はネットで『2月22日 何の日』を検索してみた。

検索結果では『忍者の日、猫の日、ひざイキイキの日』が出た。


忍者は西宮家に潜伏しているヤツ以外は関係無いとすれば……



『膝の調子が悪いの?』


『ひ、ひざ? 別に問題ないけど?』

『え、これ何の質問? 診断?』


『いえ、あなたの膝が元気かどうかを確かめたかっただけよ』



結果的に東堂の膝はイキイキしているらしいので、おそらく2月22日に膝は関係無いだろう。

残される可能性は『猫の日』。


コンセプトカフェ+『猫』 = ???


西宮はこの問題の答えを瞬時に導き出した。



『なるほど了解よ。2月22日は絶対に家を出ないわ』


『ありがとう、麗奈。よろしくね』



やりとりを終えた西宮は2月22日の予定表に○を書いた。



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