第168話 グッドゲーム(ハンデ-100Pt)


バレンタインデーで貰えるプレゼント数を競うという西宮の自傷行為が幕を開ける。


早速下駄箱にて、東堂へのプレゼントは教師たちが用意した専用の台車に少なくとも50個は置いてあった。

この様子では間違いなく教室にもプレゼントが置いてあるはず。

仮に東堂のハンデが-100個だとしても、このままでは西宮たちの勝利は危うい。


一方、南雲の方も5個置いてあったのだが勝負のせいで素直に喜べない。

しかし、-50個を覆そうという勇気は貰った。



「みんなありがとう……ワタシ、西宮さんを倒すために頑張るね!」


「……何故私が最下位だと思っているのかしら? 見ておきなさい」



そう言いながら開けた西宮の下駄箱にプレゼントは入って


…………いた。


プレゼントは匿名で何やら手紙のようなものも添えてあるので西宮は目を通す。

要約すると、



『セクハラが無ければ好きです』


「そんなの好きが先かセクハラが先かという些細な問題じゃない。私の事が好きになればセクハラも気にならないわ」


「じゃあ結果的にはこの人は西宮さんの事は好きでは無いと。だからセクハラも嫌ですって事じゃないのー?」


「まぁ、西宮からセクハラ取ったら何も残らんからな。ノーカンだな」


「いいえ。1個は1個よ」



西宮は謎の意思表示が書かれたお便りを貰ったことにより単独1位に躍り出た。

現在2位以下は0個以下というカオスな状況で北条も下駄箱を開けると……



…………予想以上に入っていた。



「そんなバカな事が……! 買収……? あるいは脅迫……」


「するか、そんなこと。お前じゃないんだから。つか、マジか」


「いや、北条は隠れファン多いよ。なんで隠れてるかは言わなくても分かるよね……?」



計6個のプレゼントに本人が一番驚いている。

当然、ファンが隠れているのは目つきが悪いからである。


ちなみにお便りの内容は、


『アウトローなところがカッコいいです』

『ヤンキーなのに本当は優しいとこが好きです』

『不良なのに陰キャな私にも優しく話しかけてくれてありがとう』



「こいつらは何見てんだ? 北条さんは何よりも争いが嫌いでめちゃくちゃ真面目な一般人だぞ」


「僕が聞いた噂だと、その北条って人は毎日校舎裏で誰かシバいてるって聞いたけど」


「『毎日』の部分は誰か見に行けば嘘だって分かるだろ!!」


「ワタシが聞いた北条さんの噂は、毎日千堂先生を灰皿の代わりに使ってるって……」


「私も北条さんが毎日駅前でカツアゲしてるって聞いたことあるわ」



「北条さんの日課多すぎな? そりゃみんな怖がるわけだわ。俺だって怖いもん。そんな奴」



とりあえず北条の隠れファンの人たちはどちらかというと伝説のアウトロー『北条さん』のファンだった。

可哀そうではあるのでこれには西宮審判長も、北条=『北条さん』という事で同一人物として扱った。



***


そしてここから南雲の追い上げが始まる。

廊下を歩いて挨拶するだけ見る見るうちにプレゼントが溜まっていく。


圧倒的に友チョコが多く、南雲のマスコット的な人気が窺えた。

クラスメイトに限って言えば東堂にも負けず劣らずでプレゼントを貰っている。


……そう、クラスメイトに限って言えば。


東堂は東堂で更に数を伸ばし、

朝のHRが始まるまでに他クラス、上級生までもが引っ切り無しに東堂の元へと訪れ、専用台車にはプレゼントが入れ食い状態だった。

その時点で既に台車は2両編成である


北条に関して言えばまたも『北条さん』のファンが何人か、西宮も相変わらずお気持ちお便りが1つ届いていると言ったレベル。


放課後が来るまでには既に数えるまでもない差が出来ていた。



「ほな、東堂。西宮の罰ゲームよろ」


「……待ちなさい、勝負は校門を出るまでよ」


「西宮さん……」



1位、持ち切れず丸女から自宅に配送して貰っている東堂。

2位、なんだかんだで70個くらい貰った南雲。

3位、ちゃっかり10個貰っていた北条。

4位、2個。



丸女コレクション優勝の名声はいともたやすく失墜していた。

どうやら西宮は巷では『セクハラ美人』と呼ばれているらしい。

これぞまさに日頃の行いというやつだろう。


そしてそんな西宮がここから入れる保険は無かった。



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