第167話 2秒で負け戦と分かるパターン


バレンタインデー当日の朝、いつもの通学路で4人はプレゼントの交換を行っていた。



「はい! あーちゃん、茉希ちゃん。これプレゼント!」


「ありがとう。すごい……これ手作りしたの?」


「ホントだ。よく出来てるけど、誰かに教わったのか?」


「百合先生だよー」



2人は透明な袋にラッピングされたチョコとクッキーを見て素直に賞賛を送った。



「南雲さん。私には無いの?」


「え。ワタシたちって交換する意味ある? 中身一緒だけど」


「まさか西宮も百合先生に教わって手作りしたのか!?」


「れ、麗奈の手作り!? ほ、欲しい!」


「まったく。欲しがりさんね。はい、これ。むせび泣きながら噛みしめて味わいなさい」



西宮は南雲とも交換して、他2名にもプレゼントを渡す。

外装は百合が用意しているのでほぼ一緒だが、中身は両者不揃いなため完全に同じものという訳ではない。



「はえー。あの西宮が……すげぇな。百合先生」


「褒めるなら私を褒めなさい。あなたはツンデレなの?」


「デレた事ないだろ」


「はむっ。(もぐもぐ)うん、味もしっかりしてる! 美味しいよ!」


「やはり店を出した方がいいかしら? ふふ、この傑作を前にあなたたちがどんなお菓子を出してくるかが楽しみね……」


「あ、そうだね! はい、これ僕から」



東堂が3人渡したのは外装からかなり気合が見て取れる『オランジェット』。

北条が食べた試作品の物とは違い、チョコレート部分に別の色のチョコレートで模様が描かれているものや、ドライフルーツやナッツで彩られたものもある。



「あーちゃん、すごい! なにこれ! みかん焼いてチョコレート塗ったの?」


「み、みかんではないかな。焼くっていうのもなんか違うし……まぁ食べたらわかるよ!」


「また小洒落たものを用意してきたわね。それで? これは私のお菓子よりも強いのかしら?」


「強いっていうのはよく分らんけど、こいつこのお菓子に合計4日掛けてるぞ」


「え、あなた……4日間もオレンジの面倒見てたの? もう彼女じゃない」



西宮が言う事もあながち間違いではなく、東堂は試作を含めたこの一週間はオレンジと同居していたと言っても過言ではない。

そんな東堂のお菓子の品評会が終わったタイミングを見計らって北条も3人に『マカロン』を渡した。



「で、出たわね。 超絶技巧お菓子、マカロン……! あなたは技術を見せびらかすタイプなのね?」


「なんでだよ。別に何作ってもいいだろ」


「すごーい! マカロンに動物の顔書いてある! かわいいー!」


「本当にこの女……大概にしなさい」



北条が作ったマカロンの表面にはクマやネコ、アザラシやヒヨコなどがカラフルなチョコペンで1つ1つ丁寧に描いてある。

それは彼女の見た目とは真逆の大変ファンシーな仕上がりを見せていた。



「本当に可愛らしいね。これを真剣に描いてる北条の顔を想像すると……くくっ……」


「な、なにわろてんねん」



自分自身でも想像して北条は顔を赤らめていた。


こうして4人のお菓子交換は終わり、バレンタインデーという一大イベントは終わった。



***


……と見せかけて、これはまだ朝の話である。

学校に辿り着く前に西宮はある企画をひらめいた。



「貰ったプレゼントの数を競いましょう」


「却下」


「ワタシはいいけど、あーちゃんに勝てると思う?」


「東堂さんは-100個からスタートよ」


「え!? それ僕、最終結果でマイナスとかにならない!?」



東堂の意見は完全にスルーして西宮は優勝賞品を考える。



「1位の人が4位の人に命令出来るという事でどうかしら?」


「いや、お前さぁ……俺とお前はどう考えたって1位にはなれねぇだろ……」


「じゃあ南雲さんも-50個スタートで。はい、勝負開始」


「ワタシも!? 横暴過ぎない!? それまた最後に10,000個のボーナスとかあるの!?」



そんな東堂と南雲の不安をよそに丸女に着くと、やはり本日は全体的にふわふわした雰囲気になっていた。

東堂が自分の下駄箱に着くと何か張り紙が貼ってあった。


『プレゼントは下駄箱横の台車へお願いします』


朝から溢れんばかりのチョコが入っていた東堂の下駄箱を見た教師が別途台車を用意してくれた模様。



「おいおい……西宮。これは-100でも負けれるぞ……」


「何気に挨拶がてら南雲さんもたくさん貰ってるし……」



-50とか-100とかは確かに勝負にはなるかもしれない。

しかし、それ以前にもの凄く惨めになる2人だった。



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