第166話 実はあの2人付き合ってるらしい
今年の2月14日は土曜なので丸女ではその前日、2月13日にプレゼントを渡す生徒が多いだろう。
そしてさらにその2月13日の2日前は『建国記念の日』で祝日なので、お菓子を作るのにうってつけの日だった。
例に漏れず南雲、西宮、
百合の熱心な指導の甲斐あってか、本番ではそこまで順調にお菓子作りは進んでいる。
「そういえばさっきお菓子作り部の人とあったんだけど、目が血走ってて怖かったよ」
祝日でも開放している丸女では部活動に勤しむ生徒たちも複数いる。
その中でもとりわけ、お菓子作り部は大会のような熱意で忙しそうに活動していた。
「まぁバレンタインデーほどお菓子の腕前をひけらかすチャンスは無いものね。それで言うと、百合先生はいいのかしら?」
「ん? 私? なんで?」
初心者2人の横で同じものを作る百合はキョトンとする。
「そうだよ! ワタシは師匠が作る超絶技巧の激ムズお菓子見てみたかったー!」
「つ、作らないよ、そんなの! それにそこまで難しいやつなんて技術を見せびらかしているみたいでちょっと……」
「流石は私たちの師匠。弟子としてお菓子作り部に喝を入れてくるわ」
「やめなさい!」
余計な争いを生み出そうとする弟子を制止した百合はゆっくりと2人を諭す。
「……いい? こういうのは気持ちが籠ってればどんなお菓子だっていいの。簡単なものでもいいし、失敗しちゃってもいい」
「「ふーん」」
2人へのフォローも含んだ百合のありがたいお言葉は『お菓子の難易度=強さ』だと思い込んでいる2人にはあんまり刺さってなかった。
要するに技術を見せびらかしたいのは2人の方で、『うちの師匠ドヤァ』がしたいだけである。
それはそれとして、
「百合先生は本チョコとかあるのかしら?」
「な、ないよ!」
「えー! 千堂先生とか万里先生はー?」
「お2人にはいつも面倒を見て貰ってるだけですよ」
「逆じゃないかしら……?」
普段、千堂と万里からの恋愛相談に巻き込まれるが百合側がどう思っているのかは2人とも興味があった。
「じゃあ、千堂先生と万里先生から本チョコ貰ったらどうするー?」
「ふふっ。それは無いと思いますよ。だって、その……」
「――たぶん、お2人は付き合ってるんじゃないでしょうか?」
「「…………なるほど?」」
知りたかった百合側の意見は秒で聞くことが出来た。
2人は一応、ここまでの千堂と万里が紡いだ物語を思い返す。
①百合の誕生会でチームプレイで百合を泣かせる。
②百合を巻き込んで飲み会で暴れた2人は同じホテルに泊まる。
③何故か百合の家に泊まりに来た2人はその後、仲良く救急搬送。
①に関しては西宮しか知らないが、改めて見ると碌なものがない。
しかし、やらかす時の特徴として確かにいつも2人はセットだった。
これは名探偵百合聡美が勘ぐるのも頷ける。
「で、でも! 千堂先生は百合先生の為に禁煙したよ?」
「万里先生も謎のセク禁してたわね」
「それは心を入れ替えただけじゃないかな?」
「「たしかに」」
結局、百合側に現状恋愛感情はなかった。
それ以降も雑談をしながら3人は休日に楽しみながらお菓子を作った。
***
――翌日。
「『たしかに』じゃないんだよ」
「何故事情を知ってる側が論破されたみたいになってるいんだい?」
南雲と西宮は千堂と万里に昨日の話をしていた。
「百合先生が言うとなんかそんな気もしてきて……」
「で? あなたたちは付き合ってるの?」
「そんな訳ないだろ!」
「むしろ恋敵だね」
こちらの交際疑惑も一瞬で晴れたところで西宮は念のため、こう言い残す。
『衝撃に備えておきなさい』
***
――さらに翌日。2月13日の朝。
まだ生徒たちがほとんど来ていない時間の丸女の職員室で、百合は千堂の元へトコトコと歩いて来た。
「千堂先生、これプレゼントです。あと……」
百合は千堂に屈むように促して耳打ちする。
「万里先生にも渡しますが、私はお2人に恋愛感情とか一切ないので安心して下さいね!(小声」
「ごふぁッ……!!」
プレゼントを受け取った千堂は、なんとか気絶だけは避けたが気合のみで足を支えている状態である。
そして、次は万里の元へとトコトコ歩く百合。
その姿に万里は戦慄すら覚えた。
椅子の肘置きをしっかり握って衝撃に備える。
「万里先生もこれ、プレゼントです」
そして百合は座っている万里に耳打ちする。
「お2人に渡しているのはみんなに渡したものとまったく同じ義理チョコなので恋愛感情とかはないのでご安心を!(小声」
「ごっふッ……!!」
こちらも衝撃で背もたれに押し付けられているがなんとか意識は保った。
しかし、結果的に衝撃に備えられていなかった2人はその日一日中うわ言を吐いていて使い物にならなかったらしい。
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