第163話 推しの棒


調理実習があった日の放課後。

4人で西宮が持ってきた『たけのこ』を食べ終わって少し経った後の話である。



「おっけー、戦争ってことでいいね」


「かー、センスねぇわ。お前らは」


「いやいやいや、自分が正しいって思ってない?」


「じゃあ誰が正しいのか白黒つけましょうか」



これは古くから伝わる、『きのこ』と『たけのこ』の争い、



――では、無い。



***


時は、西宮が教室で『たけ○この里』と『パイ○実』を広げてをプチパーティーをし始めた時点まで遡る。



「西宮さんってさ、そういう庶民的なお菓子も食べるんだね?」


「ここ最近のマイブームなの」


「ふーん。それでなんかまた一人で難癖つけてんのか」


「そうよ。『パイ○実』も『柿○種』も、植えたのにどれも芽が出てこない、とカスタマーサポートに電話するの」


「めちゃくちゃ迷惑だね……」



それは流石に嘘だが、最近西宮が駄菓子等にハマっているのは本当だった。

直近の風紀委員の検査でう○い棒というワードが西宮の口から出てきたのもこれが原因である。


尚、実際に鞄から出てきたのは卑猥な棒だった模様。



「じゃあ俺も、ほい。『アル○ォート』」


「僕も鞄に『ポッ○ー』が入ってたはず……」


「ワタシは朝コンビニで買った『う○い棒』!」



各々が伏字祭りのお菓子を出してパーティーを彩っていく。

とりとめもない話をしながら『たけのこ』に舌鼓を打った後、それぞれがう○い棒に手を伸ばす。



「んで、甘いもんの後にしょっぱいもんと」


「お菓子パーティの醍醐味ね」


「わー、いいね。ゆーちゃん色んな味買ってきてくれたんだ」


「ふっふっふー。でも、やっぱり最初に食べるのは王道の……」



「めんたい味だよな!」

「コーンポタージュね」

「サラダ味かな」

「チーズだよね!」



「「「「…………」」」」



そして、冒頭に至る。



***


「出た出た……一番無難なコーンポタージュ選ぶ奴」


「無難さで言ったらめんたい味もそう変わらなくないかしら?」


「まったく、やれやれだよ……コンポタかめんたいがトップ争いしてるみたいな風潮だけど、それチーズ派閥にちゃんと許可取ったの?」


「……でも、人気はともかく一番おいしいのはサラダだよね?」



「「「それはない」」」



それぞれが己が正義の拳を振りかざす。

しかし、総選挙でランク外だったサラダ派閥への風当たりは強いらしい。



「でもさ! コーンの生地なんだからサラダのドレッシング味って一番合うはずだよね!?」


「それで言ったらコーンポタージュは最強よ。なんと言っても名前に『コーン』を冠しているのだから」


「コーンとかとうもろこしとかどうでも良いんだよ! この生地に一番合うのがチーズなの! はい、勝ちー!!」


「コーン生地がちょっと甘いからまろやか系の味よりパンチが効いてるほうがいいに決まってんだろ」



話が平行線の4人は教室に残っている生徒に声を掛けてアンケートを取った。


(結果)

めんたい味:3票

コーンポタージュ味:0票

チーズ味:2票

サラダ味:1票



「や、やったー! 下剋上だ! コンポタ討ち取ったり!」


「やっぱお前らは異端なんだよ。はい、めんたい最強ッ!」


「不正な票の流れを感じたわ。誠に遺憾よ」


「そ、そうだよ! ワタシのチーズはまだ負けてない!」



実際、投票数が少なすぎるので本当にただの偶然である。

ただ、教室にめんたい派閥が多かっただけの話である。



「百合先生に聞きに行きましょう。彼女は100票の価値を持っているわ」


「千堂先生なら1,000票って事……?」


「じゃあ、万里先生に聞けばいいんじゃね」


「よし! 保健室で決着をつけよー!!」



なんと万里が選んだ味には10,000票が入るというバラエティ番組のノリが発動した。

こうして4人は万里を訪ねにう○い棒を持って保健室にカチコミに行った。



***


「君たちさ。別に好きな味が別々なら取り合いにならないんだから喧嘩する必要ないんじゃないの?」


「「「「 たしかに 」」」」



万里の正論パンチによって一瞬で鎮圧された暴徒たちは仲良くう○い棒を食べ始めた。



「……うん。食べカスめっちゃ落ちてるから。保健室ここで食べるのやめようか?」



結局、仲良くなっても暴徒は暴徒だった。

あと、安全の為に一応付け加えておくと……


※この物語はフィクションです。実在のお菓子などとは一切関係ありません。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る