第160話 打ち切りエンド


面接試験が終わって数日経った放課後。

北条は屋上に呼び出されていた。



「北条、お前にしか出来ない頼みがある」


「なんすか。つか、クソ寒いんですけど」



沈痛な面持ちで頼み込む千堂は真冬の屋上で冷や汗を搔いていた。



「一本で良いから……一本だけタバコを分けてくれ……!」


「持ってねぇよ!! 持ってたとしても教師には渡す訳ねぇだろ!!」


「なに!? 金髪ヤンキーなのに!?」



千堂は禁煙をしていた。



***


早々に帰ろうとした北条を全力で引き止めた千堂は求められていないにも関わらず急に語り始めた。


時は東堂をパシって百合ひゃくあの内偵調査を依頼した頃。

そこで彼女は思い人がタバコ嫌いという衝撃の事実を知ってからずっと己の中では禁煙するする詐欺が横行していた。


そんな彼女にきっかけをくれたのは暴力受験生の2名。

流石に2度目保健室は堪えたらしく痛みに悶えていた彼女は1日タバコを吸う余裕すらなかった。


そこで彼女は思った。

『――あれ? 禁煙とか楽勝じゃね?』



「……それが地獄の始まりだった」


「今何日目なんですか?」


「3日目」


「みじか……いんだよな? 知らねぇけど」



一応、禁煙で一番キツイのは3日~7日くらいらしいので千堂が今現在震えているのは仕方がない事である。



「い、今一本吸ったら次は5日ガマンするから……頼む! 北条1本分けてくれ!!」


「絶妙なラインで甘えようとすんな。つか、しつこい」


「じゃあ分かった、北条!! 私を毎日気絶するまで殴ってくれ!!」


「嫌だよ!! どんだけ依存症怖ぇんだよ……」



虚ろな目で暴行を要求してくる千堂に恐怖を感じた北条は百合の協力を打診する。



「今日から一週間、百合先生に匂いのチェックして貰おうぜ。そうすれば吸う気もなくなるだろ」


「は? そんな事されたら全裸で吸うが?」


「ガキか!! いや、ガキは吸わねぇか……いや、どうでもいいけど、多分それでも嫌いな人にはバレるぞ」


「じゃあ、今まで私がコソコソ吸ってたのバレているという事か!?」


「百合先生はもちろんのこと、たぶん全校生徒知ってるぞ」


「と、いう事はもう堂々と吸っても良いという事か……?」


「シバくぞ」



いちいち脱法しようとしてくる理系のやり口に思わず手が出そうになる北条。

そうなる前に彼女は千堂を連れて保健室へと向かった。

禁煙ヘリクツをこねくり散らかす千堂を万里に預け、自身は職員室から百合を連れて来る。



「……かくかくじかじかで。先生2人の協力もお願いします」


「大丈夫だけど……千堂先生、そんなに辛いんですか?」


「いやぁ(↑)? 禁煙とか大したことないですよ?」


「だ、そうだ。聡美ちゃん。私たちの協力は不要らしい」



あくまでも見栄を張る千堂を北条と万里はジト目で見た。

耐えかねた千堂は正直に白状する事に。



「……ホントはすごく辛いです。今も耳元でタバコの妖精がずっと囁いてます」


「病気だよ」


「そんなにも……私は何をすればいいのでしょうか?」


「百合先生には毎日千堂先生の衣服からタバコの匂いがしないかチェックして貰いたいんですが、お願い出来ますか?」


「禁断症状がなくなる日まで千堂先生の匂いを嗅げば良いって事だね。任せてください!」


「は? 禁煙最高か?」



百合は自身の胸をトンと叩いて快諾した。

しかし、これに異を唱えたのは万里。



「それはズル……いや、だったら聡美ちゃんは毎日私の匂いも確認して欲しい」


「……どゆこと? え? 万里先生もタバコ吸ってんの?」


「吸ってない。私の場合は……そうだ、他の女の匂いがしないか確認してくれ」


「ば、万里先生? ちょっと意味がよくわからないというか……そもそも他の女性もなにも、私は万里先生の匂いを知らないんですけど……」



万里の場合はタバコは吸っていないが、頻度そこそこにソレ目的で保健室に来る生徒の乳は吸っている。


百合が面倒を見てくれる機会に万里も禁欲を開始しようと言うのだ。

尚、動機は性欲にまみれている模様。



「よし。千堂先生、今日から百合先生の協力のもと真人間に更生しよう」


「そうですね。曲がりなりにも我々は聖職者。本来あるべき姿に戻るだけです」



こうしてビンビンに負けフラグを立てた2人を虚ろな目で見届けた北条は一応3人に報告した。


『千堂先生と万里先生、禁欲するってさ』

『何日持つか賭けましょう』

『3日くらいじゃないかな』

『割とどうでもいいかも』

『それな』



――千堂と万里の戦いはまだまだこれからだ!!

(応援ありがとうございました。次回の禁欲にご期待ください。)



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