第159話 丸女面接編④
一般入試でも負傷した千堂の代わりに再び養護教諭の万里が面接官をすることに。
「なぜ千堂先生は面接で毎回負傷するんだい?」
「こ、校長たちの無茶振りが……(小声」
「なるほどね。まぁ、聡美ちゃんにいいとこ見せようとして断らない千堂先生にも非がありそうだけど」
こうして万里は
お気づきかとは思うが、千堂よりも万里の方がよっぽど面接官をしている。
***
面接は順調に進み遂に最後の受験生の番が来た。
しかし、資料に目を通した万里は険しい顔をしている。
「筆記満点……? 嫌な予感がするね」
「また満点の生徒…… うっ、頭が……」
「なるほど、『また』という事は千堂先生を粉砕したのも満点の変人だったのか。用心はしよう」
「で、でも! 今度は頭が良いだけの普通の生徒かもしれませんよ!」
丸女という変な学校に来る変な人たちによって百合の精神も摩耗していた。
無意識のうちに発言した内容から百合は実質的に十河を変人認定している。
そして、そんな百合が立てた不吉なフラグにお応えするのはこの女――
有望株その④:北条 美保(一般入試)
「では、入室して下さい」
「うーっす」
実家に帰省したくらいのノリで扉を開けて入ってきたのは金髪の生徒。
当然の如くノックはしない。
実家のソファにくつろぐくらい深く椅子に腰を掛けた彼女は面接を促した。
「あ、どうぞ」
「……面接官に面接を促したのは君が初めてだよ。というか、ここ君の実家じゃないから」
堂々とした態度という点では四方堂に通ずるものがあったが、どちらかというとこちらはシンプルに舐めているという感じである。
しかし、校長からの指示も無いのでとりあえず実家スタイルのまま面接は進んだ。
「本学は第一志望ですか?」
「うん」
「本学を志望した理由は?」
「政治家になるため」
「……政治家になるなら別のとこ行った方が良いと思けど?」
「別に何処でも一緒だろ」
「え、じゃあうちじゃなくても良くない?」
「何? 入学して欲しくないの?」
百合も万里も答えはもちろん『YES』。
一連のやりとりから美保の志望動機はあってないようなものだと判明した。
今のところ入室から態度、内容に至るまですべて0点である。
しかし、これでも面接を落とされないのが丸女式。
要はここから校長と教頭のお題をクリアすれば合格となるのだ。
『面接官と知恵比べしよう。大学レベルの数学の問題を用意した』
「いやいや、流石に……」
「そうですね……私たちも一応教師ですし……」
「どしたん? なんの話?」
――約十分後
「なんか解けたわ」
「……参りました」
「……あ、あれー? 大学の問題ってこんなに難しかったっけ?」
大人になるというのは悲しい事で、学生の間に身に着けた知識でも日常生活に不要な知識というのは簡単に忘れてしまう。
それに比べ美保の方は、丸女に入るまでの約半年間を掛けて大学レベルの知識を身に着けていた為あっさり解くことが出来た。
少なくとも数学に関しては目の前の教師よりも格上であることが証明されてしまった。
「ほ、保健! 保健で勝負しましょう!」
「私も家庭科なら……!」
ついには醜い大人たちが自尊心を守る為に自分のフィールドで戦おうとし始めた。
『ならばここはなぞなぞで決着をつけよう』
「なぞなぞ好きなんですね……普段お孫さんに出しているんでしょうか……」
「まぁ、いいや。保健寄りのなぞなぞでお願いします」
美保にもモニターを見てもらい、決着はなぞなぞバトルでつけることに。
もうこの部屋のだれもが誰もが面接である事を忘れている。
『甘くて飲みやすい「す」ってどんな「す」?』
(万里)「黒酢!」
(百合)「りんご酢!」
(美保)「……ジュースじゃねぇの?」
「「…………」」
大人の健康志向が垣間見えてしまった瞬間であった。
『トイレに咲いている花はなんの花?』
(万里)「菊の花」
(百合)「ラベンダー?」
(美保)「……水仙とか?」
「ば、万里先生? それはどういう……?」
「いや、聞かなかった事にしてくれ」
この問題に関しては、水洗じゃないトイレだったらどうなんだとゴネられた。
それでも正解は菊の花にはなり得なかった。
『授業中に喋っていても怒られないのはだーれだ?』
(万里)「多額の寄付金を納めている生徒」
(百合)「丸女の生徒全般!」
(美保)「いや、お前らだろ」
尚、正解は百合と万里の職業である。
2人の解答を見る限り、丸女の治安は終わっていた。
***
こうして白熱のなぞなぞバトルの結果、
『百合先生、万里先生、合格!!』
「よし! 勝ったぞ! ……あれ?」
「やったー! ……あれ?」
『美保さんもギリギリ合格ですが入学後は2人からしっかりと学ぶように』
「うーす。おもろかったわ」
こうして3人の合格が決まった事で今年の丸女の面接は終わった。
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