第158話 丸女面接編③
推薦入試から約2週間後、今度は一般入試の面接が始まった。
1週間に渡って歩行困難になっていた千堂も復帰し、今日はまた
「百合先生、今日はまたよろしくお願いします」
「こちらこそ。 ……お尻はもう大丈夫ですか?」
「おかげ様で。ご心配をお掛けしました」
気恥ずかしい千堂は話題を変えるために本日の面接の資料に目を移す。
一番最初に面接する生徒はどうやら筆記テストで満点を取っているらしい。
「ほう。最初の生徒は筆記満点ですか。凄いですね」
「はい。でも……」
ここで補足をすると、丸女の筆記テストは鉛筆を握ることが出来れば合格できるというのは有名な話だが、実はテストの難易度自体は非常に高い。
なんなら公立の入試問題よりもレベルの高い問題が出てくる。
ただし、例えば総合点を100点が満点とするならば1点でも取れば合格と言うあまりにも低い及第点のおかげでだいたい合格出来る。
逆に言えば、このテストで100点を取れるような才女は全国有数の公立校に入学出来るレベルを持っているということだ。
そして、そんな人間が丸女に入学を希望するという事、
――それ即ち変人である。
***
有望株その③:十河 灯(一般入試)
「では、入室して下さい」
「はい」
コン、コン、コンと子気味良いノックが面接室に響く。
「どうぞ」
「失礼致します」
ドアを開けた後に丁寧な所作で挨拶をした生徒は完璧な段取りで着席まで済ませた。
その行動一つ一つがあまりにも自然で、逆にその完璧さが不自然ですらあった。
自己紹介をする彼女はとても大人びて見え、就職面接と言っても違和感がない程である。
そこで百合は彼女にどうしても聞きたい事があった。
「本学は第一志望ですか?」
「はい。間違いありません」
「本学で学びたいことを教えてください」
「特にありません」
「「…………」」
第一志望でまさかの学びたいことゼロ宣言に絶句する2人。
ここまでが完璧だったが故にその衝撃は計り知れない。
「じゃ、じゃあ学園生活に期待していることがあるのかなー?」
「尊敬する先輩と付き合いたいです。もしくはセフレでも構いません」
「セフ……えっ!?」
入試の面接でまず聞く事はないであろうワードに困惑する百合。
逆に裏の面接室に居る校長と教頭はテンションが上がっていた。
早速、生徒の死角にあるモニターには要望が表示される。
『えー! 誰々!? 先輩の名前聞いて!』
「女子高生ですかっ!!」
「?」
「し、失礼。尊敬する先輩の名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「1-Aの南雲優先輩です」
「……尊、敬?」
その生徒は百合からすればよく見知った自らの教え子。
しかし、思い返してみても授業中寝ているか東堂のストーカーをしている印象しかない。
何故、完璧にほど近い彼女が南雲を尊敬しているのかを聞きたい気持ちもあるが非常に嫌な予感がする。
この深淵は覗いてはならないタイプの深淵であると察知した百合は全力で話題を変えた。
「と、特技! 特技とかはございますか?」
「何でも出来る事が特技でしょうか」
「……何でも? そんな事あります?」
『じゃあ、ジャグリングしながら歌って、フラッシュ暗算しながら千堂先生のお尻蹴ってみて』
「え!? 最後の要ります!? どんな絵面!?」
「さ、流石にジャグリングしながら歌って、フラッシュ暗算しつつキックすることは出来ないですよねー?」
「出来ますよ」
「「!?」」
雑技団もびっくりのとんでもない要求を平然と承諾した十河は立ち上がって軽く体を伸ばす。
隣の部屋から送られてきたジャグリング用のお手玉を受け取った千堂の額には青筋が浮かんでいた。
「それじゃあ、あのモニターに一瞬数字が写されるから注目して。で、歌いながら私のお尻を蹴って下さい……」
「はい」
「大丈夫ですか? 私が代わりましょうか?」
「いえいえ! 百合先生が蹴られる必要はありません!」
「いや千堂先生が蹴られる必要も無いと思うんですけど……」
女の決意を見届けた百合は千堂を送り出す。
やがてアカペラで歌い始めた彼女は超絶歌唱力だった。
尚、何故かジャグリングしている模様。
「見て下さい。こんなに歌が上手な子のキックが強い訳……コヒュッ!」
刹那、千堂は百合に2週間ぶりの空間跳躍を披露する。
百合が最後に見た千堂の表情は笑顔だった。
「マ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ッッッ!!!!」
着地は叶わず千堂は床に転がる。
「千堂先生!? す、すぐに万里先生を呼びます!!」
流石に心配だったのか十河が千堂の元へ来る。
「あの……答えは『65324』ですか?」
「知らんがな!!!! もっと言う事あるでしょ、君は!!」
「テコンドーの全国大会優勝経験があることとかですか?」
「……それは先に言え!!」
駆け付けた先生たちにまたしても担架に担ぎ込まれた千堂。
武闘派たちの合否は彼女の尻に懸かっていると言っても過言ではない。
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