第156話 丸女面接編①


現在、丸女の妖怪屋敷と揶揄される1-Aには4強がいる。

それはご存じチャラ女、セクハラ女、メンヘラ女、ヤンキー女の4人だが、そんな彼女たちも来年度には2年生になり、妖怪屋敷から脱獄する。


そこで今回は面接から見る来年の妖怪候補生をご紹介していきたいと思う。

果たして、次代を担う妖怪たちは現れるのだろうか。


……まぁ、大体察しはついているとは思うけれども。



***


有望株その①:一ノ瀬 紗弓(スポーツ推薦)


「はい。では、入室して下さい」


「は、はいっ!!」


――コココココッ!



百合ひゃくあが入室を促すと、高速ノックの後に二足歩行ロボットのモノマネをする生徒が入ってきた。

椅子の横まで進むと今度は直立不動で天井を仰ぎ見る。

要するに生徒はガチガチに緊張をしていた。



「……あの。面接の前に一つ。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?」


「あ、ありがとうござ……かたじけないでござる!」


「なんで言い直したの!?」


「百合先生。とりあえず面接を進めましょうか」



1-Aの担任として過ごすうちにツッコミ癖がついてしまった百合を千堂がたしなめる。


現在、この表側の面接室に居るのは百合と千堂、そして受験生である一ノ瀬の3人。

隣接した裏側の面接室には校長と教頭が隠しマイクを使ってマジックミラー越しに面接を覗いている。


彼女たちは一ノ瀬に簡単な自己紹介をさせた後に早速本題へと移行した。

例のお題が出るモニターはまだ点灯していないので百合はそれっぽい話題から入る。



「あなたの長所を教えてください」


「あ、えっと、力が強いところです!」



このような質問の場合、だいたい短所とセットで聞かれる事が多い。

一ノ瀬はこの長所と短所に一貫性を持たせる為に精一杯考えた。



「……な、なるほど? では短所は?」


「力が強すぎるところです!」


(力のアピールが凄い!! だから何?って感じが凄いんだけど!?)



考えた甲斐もあって一ノ瀬は百合に対して力を誇示する事には成功した。

続いて千堂もそれっぽい話題を提供する。



「では、その長所を活かせるような特技等はお持ちですか?」


「はい! 準備してあります!」



一ノ瀬がポケットから出したのはまさかの『知恵の輪』。

全国を見渡しても入試の面接で知恵の輪を持ってくる生徒はそういないだろう。



「……君に出来るようには見えないんだが?」


「2秒で。ふッ……!!」



――パキィィィン!!



宣言通り一ノ瀬は2秒で知恵の輪を破壊した。

左右の手にひしゃげた輪を持ちドヤ顔をする。



「リングのタイプならだいたい2秒で解けます!」


「最早知恵の輪である必要がない」


「つまりは力の輪ってことでしょうか?」


「装備アイテムみたいに言うな」



何の面接をしているのかも分からなくなってきたその頃、ようやく校長たちからお題が提示される。


『生で瓦割りを見てみたい』


(小学生の感想!? え? もしかして瓦割ったら合格しちゃうの!?)


どう切り出せばいいのか百合が考えていると千堂は単刀直入に切り出した。



「一ノ瀬さん。瓦割ったら合格らしいぞ」


「え、本当ですか! 何枚くらいですか?」


「ちょ、千堂先生! 流石に瓦は用意出来ないですし……」


「すいません……ボクも瓦は持ってきてないです。不合格でしょうか……?」



さしもの一ノ瀬も瓦は持参してこなかった模様。

泣きそうな顔をする彼女を見た校長たちは妥協案を提示する。



『千堂先生、瓦の代役お願いします』



「死にますよ!! さっきの知恵の輪見たでしょう!?」


「……? どうしたんですか、急に?」


「い、いや。こっちの話だ。唐突に天からの無茶振りを受けてね……」



『じゃあ千堂先生のお尻にキックでいいです』



「いいです!? ……こ、コホン。ちなみに一ノ瀬さん。君はキックは得意な方かね?」


「正拳突きとかよりは苦手ですが……」


「そうかそうか! じゃあ私の尻にキックしてみてくれるかな」


「え……えぇ? わかりました。それで受かるなら」



これ以上の無茶振りは命の危険があると見た千堂は比較的安全そうな尻キックで我慢する事にした。

一ノ瀬がポジションに着いたところで百合は心配そうに千堂を見つめる。



「千堂先生、大丈夫ですか? 私、凄く嫌な予感が……」


「大丈夫、大丈夫。私も昔ボクシングをやっていてね」



「いきます」



「こう見えても痛みには慣れ…………コヒュッ!」



刹那、百合は怪奇現象を目の当たりにする。

笑顔で会話していた千堂が破裂音と共に1mほど真横にスライドした。

破裂音が過ぎ去った後、


「マ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ッッッ!!!!」


一拍置いて千堂の悲鳴が面接室にこだまする。



「千堂先生!? 大丈夫ですかっ!?」


「あっぁ、あ"ぁ"ぁ"ぁ"……わた、私の下半身は……!?」


「あ、安心してください!! ちゃんとついてます!!」


「ほ、本当ですか? 刈り取られた感触がしたんですけど!!」


「すぐに保健室の万里先生に連絡しますね!」



百合の連絡により千堂は担架で保健室に搬送された。

こうして面接室に残された2人。

一ノ瀬は不安そうな表情……ではなく笑顔で百合に問いかける。



「合格ですかっ!?」


「えぇ……」



千堂の尊い犠牲のお陰かモニターには『合格』の文字が映し出されていた。



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