1年生 -3学期編-
第154話 反体制派
あっという間に冬休みが終わり、3学期の登校初日である本日。
一緒に登校した4人は校門を抜けた先で渋滞に巻き込まれていた。
「おいおい。なんでこんな並んでんだよ」
「なんか初詣の時みたいだね」
「冬休み中に下駄箱に賽銭箱でも作ったのかなー?」
「まったくご利益なさそうね。あのお守りみたいに」
例の呪われた(?)お守りは西宮が快復した後、4人で神社へと返納しに行った。
偶然が重なっただけかもしれないが、念には念を入れた形だ。
それはそれとして、本日下駄箱が混んでいるのはもちろん神仏の関係ではない。
下駄箱が近づいて来るとようやく何を行っているのかが見えてくる。
「……抜き打ちの風紀検査か。すげーな風紀委員。1限目を使う許可貰ってんのか」
「風紀委員というか生徒会長だろうね。実績残そうとして頑張ってるのかな」
自由な校風な丸女の生徒会長には、これまたある程度の自由な政策をすることが認められている。
去年の11月に就任したばかりの生徒会長もなんとか爪痕を残そうと必死なのだろう。
「ふぁー。お偉いさんは寒空の下で待たされてる平民の気持ちなんて理解してないんだろうねー」
「本当にいいご身分ね。クーデターを起こそうかしら」
「――ジジッ。用意注意人物4名を発見。
『――ジジッ。危険人物、了解。オーバー』
「「「「…………」」」」
4人は無線連絡をまるで隠す気がない風紀委員をジト目で見た。
風紀委員は4人と目が合うと、急に空の様子が気になったのか天を仰ぎ口笛を吹く。
「あー、見てよあーちゃん。風紀委員が口笛吹いてる。あれもう風紀終わってない? 風紀委員に問い詰めた方が良くない?」
「や、やめようよ……いちゃもん付けたらまた目を付けられちゃうよ……」
これ以上反社的な行動はマズいと東堂は南雲を抑えたが時すでに遅し。
4人が検査場にたどり着く頃には厳戒態勢の中で風紀委員長が直々に検査を行う事態に。
「おはようございます。風紀委員長の六波羅です。何故私が直々にあなたたちを検査するのかはおわかりですね?」
「独断と偏見だよね?」
「ゆ、ゆーちゃん……!(小声」
東堂は六波羅の額に青筋が走ったのを見逃さなかった。
こうして始まった風紀検査。
検査は危険度順に行われる運びとなった。
***
①東堂明里
「ふむふむ。バッグの中身は異常なし。服装も問題なさそうね」
「ありがとうございます。それにしても、六波羅って珍しい苗字ですね。お名前を伺っても?」
「舞菜香です」
六波羅は自らの生徒手帳を東堂に見せる。
「六波羅舞菜香……画数が多くて名前を書くのが大変そうですね……」
「そうなんですよ! 委員長ともなると名前を書く機会も多くて……ハッ!?」
六波羅は検査から脱線した上に、現生徒会長への批判とも取れるような発言を自らがした事に驚愕する。
「……どうかしました?」
顔を近づけて小首を傾げる東堂にグッときつつも堪える六波羅。
「色仕掛けで私を仲間に引き込もうとは笑止千万! 素行不良です!」
「い、色仕掛け!? そんなつもりは……」
「あなたはもうちょっと節度を守るように!! 反省文です!!」
まずは東堂、反省文1枚である。
②南雲優
「ふむふむ。服装は良いとして、バッグの中身は異常しかないと……」
「じゃあ、プラスマイナス0だからおっけーってこと?」
「そんな訳ないでしょう!! 勉強道具が一切入ってないじゃないですか!!」
南雲のバッグの中にはタブレット端末とゲーム機と化粧ポーチしか入っておらず、教科書はおろか筆箱すら入っていない状態だった。
もはや普通のおでかけバッグである。
「一体何をしに来てるんですか!?」
「敢えて言うなら……アオハル、かな?」
「やかましいです。反省文を書いて下さい」
次に南雲、反省文2枚である。
③西宮麗奈
「ふむふ……ッ!?」
「あら? おかしなものでも入っていたかしら」
南雲とは違い学業に必要な物はしっかり持っているのだが、不要なものは南雲の比ではないほど危険なシロモノだった。
「……この振動する棒はなんですか?」
「う〇い棒よ」
「絶対に違います!! 箱にバ〇ブって書いてあるじゃないですか!!」
「知ってるなら聞かないで頂戴、鬱陶しい」
「なんで私が怒られてるんですか……反省文です!!」
そして西宮、反省文3枚である。
④北条茉希
「……あのさ。なんで俺が最後なワケ?」
「な、何ですかその反抗的な目つきは。暴力に私は屈しませんよ!」
「目つきは生まれつきだわ!! 気にしてるんだからあんま言うな!!」
「ひッ……! やっぱり暴力だけは……」
根は小物の六波羅は竦む足をなんとか奮い立たせ北条と相対する。
そこに北条の荷物検査をした別の風紀委員が駆け付けた。
手には化粧ポーチから出したパウダーを持っている。
「い、委員長! これを見て下さい!」
「なんだよ? 普通のパウダーじゃねぇか」
「いえ、怪しいクスリの可能性もあるわね……まさか、炙って吸引……?」
「んなワケあるか!! さっきから偏見しかねぇよ!!」
最後の北条に関しては、生徒指導室行きが命じられたが担任の弁明により一命を取り留めた。
当然、メチャクチャな容疑を掛けた風紀委員はこってりと油を絞られた。
***
「……ったく。散々な目にあったわ」
丸女でも前代未聞の薬物所持の疑いを掛けられた北条。
無事、冤罪を晴らした彼女はくたびれた様子で席につく。
「いいじゃないか、北条は。僕なんて名前を聞いただけで反省文だよ……」
「ワタシなんて青春しただけで反省文だよ!」
「私はう〇い棒を単純所持してただけで反省文よ」
「お前らはしゃんとせい」
結局、他3人の有罪判定は覆らなかった。
そして北条は3学期も3人に巻き込まれてとばっちりを受ける模様。
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