第149話 だいたい泥棒のせい


「先に行っておくけど、一日で全部掃除すんのは無理。だから、多少強引に片づけていこう」


入学からじっくりと時間を掛けて東堂が作り上げた魔窟をあるべき姿に戻す為、北条は掃除の段取りと役割を決めた。


北条:水回りと清掃全般

南雲:部屋の掃除

東堂・西宮:ゴミの仕分け


だいたいこんな感じになった。

西宮だけ東堂のお灸担当なのでセットにしてある。

担当も決まったところで、各員それぞれの仕事へと向かった。



***


西宮が寝室に向かう際、東堂は小癪な抵抗を見せたが西宮は構わず寝室に入る。



「なるほどね。まぁ当然、廊下よりは汚いわよね」


「あ、あれー? 泥棒でも入ったのかな??」



東堂の寝室は『汚れている』というよりは『散らかっている』というタイプの惨状だった。

廊下から既に散らかっていたという事は、もちろん寝室の方が散らかっているという事である。

つまりここから導き出される答えは、この部屋を荒らした犯人は廊下を軽く物色した後に寝室で金品を隈なく探したのだろう。


そんな冗談はさておき、今回この2人が任されたのは散乱しているものの仕分けである。

不要なものと必要なものを分けて、まずは物を減らそうという算段だ。



①謎の棒


「でも、なんというか……東堂さん。なんでベッドの周りだけこんなに物が多いのかしら?」


「うちのベッドは物凄く人望が厚くて……自然とみんなが集まってくるんだよ」


「やかましいわよ」



畳むのは得意らしく何故かベッドの周りに散乱している服はきっちりと畳まれていた。

だが、床に直置きである。


それらの服をベッドの下の収納箱にしまうのを手伝っていると西宮はベッドの横に立て掛けられていた棒にぶつかった。



「……? 何か倒れてきたのだけど。これは何……?」


「えーと……こ、これは!」



西宮は倒した謎の棒のグリップ部分(?)を握る。

すると、先端の洗濯バサミのような部分がキュッと閉じた。


そこに丁度部屋の前を通過した南雲が顔を出す。



「あぁ……その……。あーちゃんが起きた時に服を取るのに使おうとしてたやつだねー……」


「東堂さん、あなた寝起きのIQは3くらいなのかしら」


「でも、あーちゃんは気づいたんだ。手の届く範囲に物を置けばマジックハンドはいらないのでは? と」


「さらにIQが下がったわね」



究極に無駄を削ぎ落していく論理的思考。

それは常人に理解不能な天才の発想なのかもしれない。



「つまりこれはゴミと」


「あ、でも、何かに使えるかもしれないし……!」


「捨てなさい」



②謎のお菓子


服の片付けが終わると、あらかた床の物は片付いた。

西宮はその『あらかた』には該当しない部分の物を床から拾い上げた。



「東堂さん……床にお菓子の袋が転がってるわよ……」


「いや食べかけとかじゃないから! 未開封だよね? 忘れてた訳じゃないから! えーと、確か賞味期限は……」


東堂コンピューターが脳内SSDから画像検索を掛けている間に西宮がスナック菓子の袋の裏面を見る。


「……先月の4日くらいだったような?」


「覚えてるだけで食べ忘れてるじゃない」



一応、多少は過ぎてもいけるタイプのスナック菓子だったので必要品として処理することに。

また来年発掘されない事を祈ろう。



③謎のスーツケース


ほとんど部屋が片付いてきたので、現在は南雲の掃除と同時進行で仕分けしている。



「このスーツケースの周囲だけやけに綺麗ね」


「い、いやぁ、ちょっと旅行に行こうかと思ってて!」


「ふーん。あーちゃん、開けていい?」


「いやっ……今ほら! 片付け中だからまた今度ね!」


「開けるわよ」



明らかに挙動不審の東堂を訝しむ2人が強行してトランクを開ける。

中には例の『西宮の下着と制服一式ハッピーセット』が丁寧に袋詰めされていた。



「あら。これはまた後生大事に……ありがたい事ね」


「茉希ちゃんーーー! 西宮さんの下着って燃えるゴミだっけーーー?」



南雲は取り出した下着を握り潰しながらキッチンに居る北条に問いかける。



「産業廃棄物ーーー! 業者に連絡してーーー!」


「残念だったわね、東堂さん。後で今着けてる下着をあげるわ」


「西宮さんは淫魔か何かなの? 片付けしてる最中にゴミを増やすのはやめて」



こうして東堂の部屋の仕分け作業が終わる。

結局、ハッピーセットは元の持ち主が持ち帰ることになった。



***


「よーしっ! まぁ、こんなもんだろ」


「なんとか終わったねー!」



なんとか日が暮れるまでには北条が目標としていたラインまで大掃除する事が出来た。



「掃除って面倒なのね。東堂さんの気持ちが分かった気がするわ」


「麗奈……! 僕はこの感覚を共有出来て嬉しいよ!」


「あーちゃん? 折角、茉希ちゃんが綺麗にしてくれたんだからちゃんと維持しないとダメだよ?」


「も、もちろんだよ! ありがとね、みんな!」


「……ま、俺の経験則上、こういうのは中々直らねぇんだけどな」



深々と頭を下げた東堂はいつかこの御恩は必ず返すと約束してくれた。

そんな彼女に対して北条は『お礼はいいから掃除しろ』と言い残して帰っていった。


そして北条が自宅へ戻ると――



「なん……だと……?」



それはまるでに荒らされたような部屋の惨状。

その悪事が見つかった犯人たちは北条を見つけて泣きついてきた。



「うぅっ! 茉希っ……ちょっといいとこ見せたくて調子乗ったぁぁぁ! だらしない母親でごべぇんんん!!」


「うわーん! 姉貴ぃ……わざとじゃねぇんだ! ただ、姉貴に褒められたくてぇ……」



「……ったく」


北条は自白した犯人たちを責めるでもなく、頭を優しくポンポンと叩く。

そして彼女は自身の頬を叩き、腕まくりをしてニカッと笑った。


「ほんじゃ、まぁ……もういっちょやりますか!」


「茉希っ! しゅき……♡」

「姉貴っ! しゅき……♡」



後に南雲と西宮にこの話をしたところ、彼女は『ダメ人間製造機』に認定された。



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