第148話 片付けが出来ない人たち


今年は暦の関係上、冬休みの開始日が遅くなった。

なので、まだ冬休みに突入したばかりではあるが大晦日は既に目前である。


そんな年末までにしなければならない恒例行事の一つ、大掃除。


しかし、こればかりは向き不向きがあるようで――



「いいか、美保? 片付けや掃除ってのは日々の積み重ねが大事なんだ。それが出来ねぇ女はだらしないと思われちまうぞ」


「なるほど。つまりはこれがだらしない女の部屋と」



娘の北条美保に金言を授けた母・北条瑠美の部屋はそこそこ散らかっていた。

現物を見ればたしかに効果は覿面てきめんで、美保はこうはなりたくないなという感想を抱いている。

どこから手をつければいいのか途方に暮れる2人の元にもう一人の娘が来た。



「……どう? 片付け出来そう? 手貸すぞ?」


「いーや、いいから! 茉希は今日手を貸さないで! これくらい自分でやらなきゃダメ人間になっちまう」


「いや、ダメ人間だからこうなってんだろ。なんでアタシまでお袋の部屋の掃除に巻き込まれなきゃいけねぇんだよ」


「それはお前もダメ人間だからだよ」



北条家では長女の茉希が毎日こまめに片付けと掃除をしてくれるお陰でほとんど大掃除をする必要がない。

しかし、母の部屋に関しては軽く掃除はするものの、勝手に物の位置を変えたり捨てたりすることは憚られるので普段は手を付けずにいた。


その結果、怠惰の極みを尽くしていた瑠美は御覧の有様になってしまったわけだ。


それでは先ほどから巻き込まれた風な反応を見せている次女の方はと言うと――



「……お前さ、お袋の部屋の片付け終わったら自分の机の掃除しろよ? プリントとか教科書がミルフィーユみたいになってたぞ」


「えー。お袋とやるのだるー。姉貴と一緒にやる!」


「美保……お前、この先茉希が居なくなったら生きていけんのかよ……?」


「は? 何言ってんのお袋。姉貴が居なくなるわけないじゃん。てか、そんな世界、価値なくね?」



サラッと恐ろしい事を言いながら虚ろな目をしている彼女もまた、片付けが出来ないだらしない女であった。


と、いう事で今日はそんなダメ人間たちが365日の中で1日くらいは自分たちで掃除しようという気概を見せている。

尚、364日は長女にお世話になる模様。



そんな最中、時間を持て余している長女のスマホにメッセージが届く。


『大変恐縮ではございますが、茉希ちゃん様の貴重なお時間を頂くことは可能でしょうか?』


そこはかとなく嫌な予感はしたが、思い人の為に北条は立ち上がった。



***


「ようこそお越しいただきました……!」


「いや、丁度暇だったからいいけど……てか、西宮も居るんだな」


「ええ。何やら私の協力が必要らしいわよ」



南雲が指定した待ち合わせ場所は駅から少しだけ歩いた薬局の前。

2人はまだ何処で何をするのかも知らされていない。


レジ袋を持った南雲について歩くと程なくしてアパートについた。



「……あぁ、なんかもう分かったわ。ここに東堂が住んでんだろうな」


「なるほど。そういえば来たことはなかったわね」



初めて東堂の家に上がる2人は南雲の案内で階段を進む。

到着した1室を南雲は当たり前のように合鍵(許可なし)を使って開けた。



「御覧の通りでございます……」


「うわぁ……えぇ? これ、東堂の部屋なん?」


「なんというか。シンプルに汚いわね。汚部屋というほどではないけど……物が多いのかしら?」



東堂の部屋は普段の清廉で溌剌はつらつなイメージとは程遠い惨状だった。

これまた中途半端で、汚部屋というのは大げさだが決して綺麗とは言えないという状況。


そんな状況を眺めていると南雲が帰ってきたのを察知した東堂が奥から歩いてきた。



「ゆーちゃん? 帰ってきたのー? ごめんね、おつかい頼んじゃ……ってええええッ!? 麗奈!? それに北条!?」



――バタンッ!! ガチャガチャッ!!


まさかの助っ人2人の登場に東堂は叫びながらドアを閉めてチェーンを掛ける。

特に西宮には部屋を見られたくなかったのだろう。



「ちょ、ちょっと、今日は部屋が汚いから見せられなくて!!」


「いや、『今日は』とかそういうレベルじゃなかっただろ」


「あなた、寝相悪かったり、寝起きが悪かったり、部屋が汚かったり……私生活は意外とだらしないのね」


「そうだよ。世の女子たちはあーちゃんに幻想を抱きすぎ。でも、ワタシはだらしないあーちゃんでも大好き!」



ガサゴソ音がした後に東堂は観念して扉を開けた。

すると……きもーーーち物が壁に寄せられて綺麗になってるように見えなくもない。



「うん、やっぱ汚ぇな」


「言わないでぇ……」



気のせいだったらしい。

見られたことがショックだったのか東堂が顔を覆う。


本来、南雲は東堂と1日かけて大掃除をする予定だったのだが、いざ片付け始めると南雲の想像以上に散らかっていたので西宮と北条も呼ぶことに。



「最近この部屋に姉が2人泊まったのよね? 何も言われなかったのかしら?」


「東堂家はみんな片付け出来ない血筋で……」


「東堂の血は頭脳と身体能力の代償がこれなのか……」



その理論で行くと北条が掃除や家事が出来る事に説明がつかないので、結局は本人たちがだらしないだけだった。



「と、言うことで。今回はあーちゃんのお部屋を大掃除していきたいと思います!!」


「……ま、こんだけ汚いと逆にテンション上がるわ!」



腕まくりをする北条はやりがいを感じていた。一方で西宮は、



「自分で言うのもなんだけど、私は部屋の掃除なんてした事ないわよ」


「西宮さんはこの光景を見ているだけであーちゃんへの戒めになるから。あーちゃんにはしっかりとお灸を据えてあげて!」


「それじゃあ掃除をする東堂さんをクズだのゴミ女だのと罵ればいいのかしら?」


「それはあーちゃんが別の何かに目覚めそうだからやめて」



お灸を据えるというか、もはや彼女自身がお灸だった。

ここからは北条の指示の元、全員で東堂の部屋を大掃除する事となった。



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