第143話 平日がクリスマスの場合


ある日の昼休み、



「北条さん、もうすぐクリスマスね。クリスマスと言えば……??」


「どうせデートとか言うんだろ」


「……さ、サンタさんよ」


「無理して外すな」



4人はクリスマスのご予定に関して牽制を入れていた。



「あーちゃんが欲しいものあれば南雲サンタが届けに行くね!」


「いや、欲しいものは特にないかな……」


「じゃあじゃあ! あーちゃんがサンタ役ってことー?」


「ゆーちゃん。僕たちの元にもうサンタさんは来ないんだ」



東堂は南雲にとても悲しい現実をお伝えした。

今年のクリスマスイヴが平日の水曜日なので、デートするにしてもお泊りするにしても微妙なタイミングだった。

ちなみに、冬休みはその週の土曜日。


つまり、何もかもが噛み合っていない。



「俺もさ、なぐ……みんなと一緒に過ごしたいけど、家族が寂しがるから」


「クリスマスに茉希ちゃん外出したら、美保ちゃんギャン泣きしそうだね」


「僕が言える事じゃないけど、そろそろ姉離れを考えた方がいいような……」


「なるほど……では、みんなで集まるなら北条さんのお家、と」



「どうしてそうなった。いや、まぁ多分お袋には許可されそうだけど」



北条が母に一報入れたところ、昼の休憩時間だったのか速攻で『OK。任せろ』が返ってきた。

『OK』は理解できたものの、北条には『任せろ』の意味が理解できなかった。


一応、妹にも連絡したところ、


『一ノ瀬も誘っていい?』

『いいよ』

『あと、南雲は出禁だから』

『仲良くしろよ? 暴れたらお前を締め出すからな?』

『妹と南雲どっちが――』



「……ん。お袋も美保も良いってさ」


北条は途中で不毛なやりとりを放棄した。


「ほ、北条。さっきから通知音凄いけど大丈夫?」


「あぁ、ごめんごめん。美保の悪ふざけ」



その言葉を聞いた3人は北条の妹がゴネている事を完全に把握した。



「てか、集まって何すんのかは分らんけど、みんなで飯を食うって感じか?」


「多分そうじゃない? 僕と北条が調理担当だね。何か食べたいものとかある?」


「いつも2人にだけ悪いし、その日は私と南雲さんが調理を担当するわ」



「え」(←悪いとかそういう感情あったんかこいつ……)


「え」(←2人とも料理出来ないのに、なぜ!?)


「え」(←なんでワタシも巻き込まれたの?)


「え」(←流れでやってみた)



珍しい西宮の殊勝な心掛けに困惑する3人。

しかし、困惑したのは一瞬で冷静に考えて見れば……



「あ。いや結構です」


「そ、そうだね! 僕たちは調理が好きだから大丈夫!」


過去に手作り弁当で酷い目にあった2人は全力で拒否した。


「だってさ、西宮さん。ワタシたちは別の事で貢献しよ?」


「そうね。パーティーゲームでも考えましょうか」



調理担当は不採用だったが本人もただの気の迷いだったようで、何の未練もなくあっさりと次の職へと就く。



「……あ、おい。一応言っとくぞ、流石に大丈夫だとは思うけど。美保もお袋も居るんだから、あんまりはっちゃけたやつはやめろよ?」


「はっちゃけたやつとは? よく分からないわ。具体的に言いなさい」


「え、エロいやつとかだよ!!」


「あら、やだ破廉恥ね。まったく、北条さんは普段からそういう事ばかり考えているのかしら」


「こいつ殴りてぇ……」



いまいち信用ならないイベント担当だが、北条は西宮が最低限のラインは守ってくれるものと信用することにした。


一方、もう一人の担当はと言うと。



「ゆーちゃん。麗奈が暴走しないようにしっかりと舵取りを……」


「どうにかしてプレゼント交換を装ってあーちゃんとチューがしたい……(ブツブツ」


「ゆ、ゆーちゃーん?」


「出来れば舌を入れてみたい……(ブツブツ」


「…………」



こっちも暴走していた。

東堂は私利私欲でイベントを考える南雲が最低限のラインも超えてくると警戒することにした。



***


その後、イベントに関しては東堂と北条も中間報告を聞きながら綿密にルールを定めた。

出来るだけ2人が脱法を出来ないように。



「え、えー!! お触り禁止だとチュー出来ないじゃん!!」


「南雲……お前、何しようとしてたの……?」


「こ、言葉責めもダメなら私はどうやって感じさせればいいの!?」


「感じ……えっ? クリスマスパーティーの話だよね……?」



こうして、当日までの北条と東堂の努力によりクリスマスパーティーは可能な限り健全な方向で開催される運びとなった。



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