第140話 後輩がキモすぎる件について
強引について来た後輩たちを引き連れ自宅へと到着した南雲。
エレベーターをから出ると当然、あの女が待ち構えていた。
「リリィちゃん! どうして丸井さんと一緒に下校してるんですか!」
「そんなの私が先輩と仲良しだからに決まってるじゃない」
「2人とも、ワタシの部屋の中で喧嘩したら叩き出すからね?」
構うのもめんどくさい2人を放置して南雲は自室の扉を開ける。
すると、喧嘩していた2人は扉が閉められる前にヌルっと侵入してきた。
「わぁ……ここが先輩の、いや、これからは私たちのお家になるんですね」
「ならないよ。てか、今日ホントに泊まるつもりなの? 一応さ……」
玄関に置いてあるカレンダーを確認する。
「――今日、水曜日のド平日だよね? 君ら明日の学校どうするの??」
「勉強より大切な事って……ありますよね?」
「お姉様ファーストを宣言致しますわ」
「こっちは手遅れ、と……西宮さんも明日学校どうするの?」
「……? 普通に起きて学校に行けばいいじゃない。同伴出勤で」
「キャバクラみたいに言わないで」
合宿にしてもお泊り会にしても、平日のど真ん中に行うことはまずないだろう。
ところが、後輩たちは先輩たちの為にエブリデイをホリデイにする所存だった。
「うーん……分かった。じゃあ、明日ちゃんと学校行くなら泊まっていいよ」
「えっ!? 毎日学校行ったらずっと先輩の家に泊まれる……って事ですか!?」
「どうしてそうなった。今日だけだよ」
ようやく話が纏まろうとした頃、
「ちょ、ちょっと待ってください! リリィちゃん! 丸井さんが泊まるなら私も泊まります!」
「いや……もう、定員オーバーなんだって。それに君の部屋は隣じゃん」
「……は? この女、いつの間に先輩の部屋の隣に……」
「あー、頭おかしくなる……」
こうして、狂人比率高めの女子会の内容はうやむやなまま進んだ。
***
現在、南雲を除く4人は表面上はゲームの練習をしている。
「お姉様はゲームまで上手いんですね……素敵ですわ!!」
「……ところで、私とガブの対戦に意味はあるのかしら?」
もちろん、なんの意味もない。
接待格ゲーをしながら西宮をひたすらヨイショする四方堂がテレビを陣取っていた。
では、配信者大会に出るはずの2人は何をしているのかというと……
「セーラさんは普段、先輩の部屋の隣で何をしているの?」
「普段はリリィちゃんの髪の毛を集めて生計を立ててます」
「え!? 小学生がなりたい職業ランキングTOP5に入った、あの!?」
「そんな小学生は嫌だよ……
てか、君らは中学生がなりたい職業ランキングTOP3(※1)の自覚持ちな?」
(※1.2023年の3位らしい)
もの凄くどうでもいい雑談をしていた。
南雲はランクマの片手間で一応話を聞いている。
「そ、その……セーラさん。それって少し分けて貰うことって出来ます?」
「あ、新鮮なものだったらここにたくさんありますよー」
「たしかに! あ、これかも! あ、じゃあお一つ……♡」
プレイの途中だった南雲はチラリと横目で十河の行動を確認し、画面に視線を戻そうとしたが衝撃のあまり二度見した。
――バシッ!!
南雲はプレイを放棄し、髪の毛を口に運ぼうとしている十河の手をはたきおとした。
「今なにしようとしてた!?」
「え? 先輩の一部を体に取り込もうと……」
「きっっっっっしょ!! それは2度としないでっ!! ……てか、ちょっと待って。流石にセーラちゃんはそういう事してないよね?」
「流石に踊り食いはしません!」
「踊り食い言うな。というか、持ち帰って食べてないよね!?」
「Uh-huh…サスガニ、ネ」
「急に日本語弱くなるのやめて? あと、キモすぎ」
なるべく考えないようにしていたが、南雲はこの2人が狂気的なストーカーであることを再認識させられた。
寒気、吐き気諸々の症状を感じた南雲は顔を洗いに行くため椅子から腰を上げる。
「……ちょっと顔洗ってくる。君たちのお陰で心身に不調が表れ始めたよ」
「そんな……じゃあ、私の元気と愛情を先輩に分けてあげます! はいっ♡」
――プチッ♡
十河は南雲の目の前で自らの髪の毛を抜いて渡す。
その様子が南雲の目には、ご主人にゴ〇ブリをプレゼントするネコのように映った。
「ハハッ……ありがと。大事にするね」
乾いた笑いが零れる南雲は洗面所に行く途中、受け取った元気と愛情をキッチンのコンロで燃やした。
***
南雲が洗面所に行った直後、十河がリュックから鍋とペットボトルを出した。
「十河さん? それは何のセットかしら」
西宮のおもしろセンサーが十河に反応して興味を示す。
「あ、西宮先輩。これは、今から先輩のお出汁を頂こうと……」
「十河、あなたまさか……洗顔後の水を……」
そのまさかである。
鍋で洗顔後の水を入手してペットボトルに入れて持ち帰ろうとしていた。
「ハッ!? その発想はなかった……まさか丸井さんに後れを取るなんて……」
「キモすぎですわ……」
「それはどうかな、杏樹? よく考えてごらん?」
「いや、結構気持ち悪いわよ」
流石の西宮も引き始め、ツッコミに回った。
「ほら、西宮先輩のお出汁がたっぷり出たお味噌汁……」
「!?」
「ほーら、西宮先輩のお出汁が染み渡った肉じゃが……じゃがいもを想像してみて」
「美味しいですわ!?!?」
「どう? 西宮さん。気持ち悪いでしょ?」
いつの間にか帰ってきた南雲が西宮に声を掛けた。
ガチレズの西宮をも圧倒するガチのサイコレズがそこには
「ええ。私、五味渕以外で初めて女性に対して気持ち悪いと感じたわ」
「……ちなみに。西宮さんはワタシのうちの『HENTAI』には責任持つって言う約束してたよね?」
「……………………」
この時、西宮の耳元で囁く南雲には凄味があった。
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