第139話 メス豚殺害案件


昨日、突然の体調不良で配信をお休みした丸井月まるいるな

本日その中の人は友人にキレ散らかしていた。



「杏樹!!!!!!」


「……何ですの。騒々しい」


「よざ、よざよざ、よざき……」


「落ち着きなさい。今日はまた一段と壊れてますわね」



丸井月こと十河灯はあまりの怒りから言語中枢に深刻なダメージを受けていた。

なので、重要な単語を叫ぶように吐き出した。



「夜咲がッ! 先輩のッ!! 家にッッッ!!!」


「……そういえば南雲さんはあなた以外のストーカーも飼っているんでしたわね」


「どうしよ……私が先輩を守らなきゃ……早く夜咲を殺さないと……」


「十河、落ち着きなさい。文化祭で前科二犯を犯した事をもう忘れたのかしら?」


「え、でも……」



十河は昨日セーラ(夜咲)から送られてきた写真を四方堂に見せる。



「……夜咲は西宮先輩とも肩を寄せてるよ?」


「よし。そのメス豚を殺害しましょう」


「流石は杏樹! 我が親友! それじゃあ丸女へレッツゴー!」



こうして二人は午後の授業をサボって丸女へと乗り込んだ。



***


一方、丸女では。

本日も東堂と北条はバイトなので途中で別れるのだが、それまでは4人で下校しようとしていた。



「れ、麗奈? 1ヶ月くらい、あかりんチャレンジしてみない?」


「……なんだその如何わしいキャンペーン」


「正直、東堂さんはあまり『あかりん』という感じがしないのよね」


「そうだよね? はい、あーちゃん、この話は終わりっ!」



東堂が謎のキャンペーンを西宮にさせようとしていたその頃、4人は下駄箱から校門へ向かう途中だった。

前を歩く生徒たちがチラチラと門の付近を見ているのが少し気になりつつも、4人は校門を通過しようとする。


すると――



「せーんぱい♡ 来ちゃいましたっ♡」


「あ。みんな。ワタシ、教室に教科書忘れてきた。取ってくるから先帰っててー」


「あなたはいつも教科書はロッカーに入れっぱなしじゃない」


「お姉様!! 再びお会い出来た事を光栄に思いますわ!!」


「あら、ガブ。久しぶりね」


 

約2か月ぶりの再会に恍惚の表情を浮かべるのは十河灯と四方堂ガブリエル杏樹。

不快そうな顔をした南雲は東堂の陰に隠れた。



「東堂ッ……先輩。居たんですねー。ちょっと先輩と話あるんでどっか行ってもらえますかー?」


「うわぁ……敵意剝き出しだね……」


「ちょっと、金髪の方。名前は憶えてませんけど……私とお姉様の運命の再会の邪魔をしないでくれます?」


「えぇ……態度わっる。てか、運命て。お前らモロに出待ちだったじゃん……」



2人は互いに嫌いな先輩にもしっかりと牽制を入れた。



「まぁ、どのみち僕たちはバイトだからここで別れるけど、2人は一体何をしに? 場合によっては……」


「それ東堂先輩に関係ありますー? さっさとバイトへ行ってくだ……あんッ♡」



――バシンッ!!



東堂に暴言に吐く十河の頭を南雲が割と本気で叩いた。

素早く東堂の背中から飛び出した南雲はすぐにまたホームポジション東堂の背中に戻る。


しかし、当の十河は内股になって幸せそうに震えていた。



「十河、羨ましいですわ。私もお姉様に叩かれてみたい……」


「おい……こいつらヤバすぎだろ……」



話を聞く限りでは先輩(東堂と北条を除く)と遊びたい一心で遠路遥々丸女まで来た2人。

ここだけ切り取ればただの可愛い後輩だった。


無論、精神に異常をきたしている面を除いたらの話である。



「せんぱぁい……夜咲は家に入れるのに私はダメなんてことないですよね?」


「別にセーラちゃんにも許してる訳じゃないけどね。勝手に入ってくるだけで」


「じゃあ私も先輩の家に勝手に入ります!!」


「いや、勝手に入るのも許可してる訳ではない」



当然、難色を示す南雲だが冷静に考えた。

ここで拒否をしてもどうせ一生ついてくるに違いない。

しかも、来年は逃れようがないのであれば諦めた方が良いのでは、と。


かつて東堂がそうだったように、ついに南雲もストーカーに屈した。



「はぁ……分かったよ。絶対に変な事はしないでね?」


「はいっ♡ 私、世間では清楚で清純派って言われてます♡」


「世の中終わってるよ」


「それでは東堂さん、金髪の方。ごきげんよう」


「お前、最後まで俺の名前聞かないじゃん……」



そして東堂と北条、南雲と西宮 with 後輩はそれぞれ分かれて帰路につく。



「それじゃあ……よいしょっ♡」


「ちょっと、待って」



さぁ、いざ南雲宅へと思った瞬間、十河が校門付近に立てかけてあったリュックをしょい込む。



「……そのリュックは何?」


「お泊りセットです!」


「いや。泊めないけど」


「……? 泊まりますけど?」



先輩は何を言ってるんだろうという表情で可愛らしく小首を傾げる十河。

南雲はその生意気な小首をへし折りたい衝動に駆られた。



「まったく、十河。流石に泊りはご迷惑では?」


「合宿なら私もしたいわ」


「そうですわよね! 私もすぐにお泊まりセットを手配させますわ」


四方堂の手のひらは非常に軽い素材で出来ているらしい。


「うちに3人も泊まるスペースはない。お嬢様2人がキッチンで寝るなら話は別だけど」


「あ♡ 私は先輩と同じベッドで大丈夫です♡」


「はい。十河さんはベランダね。冷え冷えのコンクリが君を待ってるよ」



こうして、3人は本当にお泊りセットを持参して南雲の部屋へ。

どう考えても一人暮らしの家にはキャパオーバーだった。


しかし、忘れてはならない人物はもう一人……



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