第137話 〇〇過ぎると話題に!?
東堂姉妹の実習とともに11月は終わり、気づけば12月の初旬の期末テストも終わった。
今回のテストも特筆すべき点は無いが、あえて言うなら南雲と西宮はいつも通り赤点祭りだった。
しかし夏休みとは違い、冬休みには補習は無い。
南雲と西宮にはありがたい話だが、その辺の緩さに丸女らしさが出ていた。
教師陣にも年末くらいはゆっくり休んでもらいたいところ。
12月は学校行事も特になくイベントなども後半に集中している。
つまりは――
「暇ね」
この12月初旬と中旬は非常に『暇』な期間なのである。
「ふーん、俺と東堂はバイトあるから先帰るわ。お前も部活かバイトしたら?」
「よかったら麗奈も一緒に『りりあん☆がーてん』でバイトしようよ!」
「暇だからといって労働する気にはならないわ」
「じゃあ部活すればー? まぁ、一週間で出禁になるだろうけど」
こうして放課後、4人はバイト組と帰宅組に分かれた。
「南雲さんも暇なのでしょう。部活の見学でもする?」
「ごめん。ワタシは家でやる事あるから」
「もしかして『H』なやつかしら? それなら手伝えるけど」
「殴るよ? ……いや、でもあながち間違いじゃないかも。手伝ってもらおうかな」
「えっ! いいの? ……どこまでやっていいのかしら?」
「まぁ、流れで判断して。ちゃんと責任取ってね?」
まさかの許可が下りた『H』案件。
最初は冗談かと思った西宮だったが、
帰宅途中にも南雲から自宅で『H』の処理をして欲しいと頼まれ、いよいよ現実味を帯びてきた。
もしかしたらワンチャン……
「あっ! リリィちゃん! お帰り! 早速練習しましょう!」
など、あるはずもなく。
南雲の自室の扉の前にはアーケードコントローラーを抱きしめた謎外国人の姿があった。
「え……誰?」
「うちに憑りついてる変態。じゃあ西宮さん処理よろしく」
今回南雲さんが自宅で処理して欲しいと言った『HENTAI』は夜咲星空こと、セーラだった。
***
ため息をつきながらも2人の『HENTAI』を自室に招き入れた南雲は自己紹介を促す。
「セーラです! リリィちゃんの後輩です!」
「……リリィ? 後輩? どう見ても年上……一体何が起こって……」
「セーラちゃん。その紹介、外では絶対にやめてね?」
情報量が多すぎて混乱する西宮。
南雲はまだ西宮に話していなかった自身の配信活動について話した。
「えっ、えぇ!? 南雲さんが!? 梅雨町って、あの
「「 違います 」」
やはり、世間的には『梅雨町リリィ』としての知名度よりも『丸井が推している人』としての知名度の方が高かった。
2人の仲についてはネット上では想像にお任せしているが、リアルでは仲が悪いと断言出来る。
南雲は丸井のストーカー行為についても西宮に説明をした。
「うんうん。ホント……丸井さんはリリィちゃんのストーカーみたいで気持ち悪いです!」
「……うん。で、こっちがストーカー2号ね。活動名は夜咲星空」
「南雲さんのストーカーって、まさか……十河さんが丸井月ということ!?」
「あぁ、そっか。文化祭で顔合わせてたよね。あれ、ワタシのストーカー1号」
西宮はアニオタ・ゲーオタの類なのであまりVtuberには詳しくはないが、流石に丸井レベルなら認知している。
そんな西宮の丸井に対するイメージはどちらと言うと……
「彼女ってひたむきで純粋なイメージがあったのだけど……」
「ひたむきねぇ……通知ミュートにしてるから最近見てなったけど、見る?」
南雲がDisc-cord(通称、ディスコ)のチャット欄で丸井とのチャットを開くと通知が『+9,999』と表示されているのが既に不穏だった。
不在通話が約500件、チャットが約12,000件ほど溜まっていた。
これは前回一緒に出た大会後の3ヶ月間、ガン無視した期間が約90日とすると、
1日あたりの通話は約6件/日、チャットは約130件/日のペースである。
しかも、約90日間なんの反応もない南雲に送り続けているあたりが非常に恐怖ポイントが高い。
これを純粋と言うかひたむきというのか。あるいは狂気的というのかは人それぞれである。
「配信者って大変なのね……」
「ホントねー。 ……で、もうすぐ配信者大会あるから練習したいんだけど、こっちのストーカーが鬱陶しくて」
「セーラはリリィちゃんと共に切磋琢磨したいです!」
「いや、君そういうレベルじゃないんだって。イキってアケコン使ってるけど……たぶん、パッドの方がいいよ?」
今回は偶然に参加大会が被った2人。
出るのは格闘ゲームの大会で、もちろん丸井月の参加も決まっている。
練習配信が始まれば南雲が嫌でも顔を合わせる機会はあるだろう。
「西宮さんって意外とゲーム出来るよね。セーラちゃんの相手お願いできない?」
「私が配信者の相手? 務まるかしら?」
「大丈夫。その子、最弱CPUより弱いから。そもそもガード出来ないし」
「舐めないで下さい! 手から弾出す奴は打てるようになりました! 10回に1回くらい……」
そして、西宮に2ラウンド連続でパーフェクトKOされた。
セーラは対戦中のほとんどの間、手元の様子見ていた為画面を見ていなかった。
「このコントローラー使いにくいです!」
「いや、だからパッド使いなよ……」
「リリィちゃんとお揃いのコントローラーが良いんです!」
「あぁ……そういう。まぁモチベに繋がるなら……いいのかな?」
とは言え、流石に西宮も気まずくなるような驚きの弱さ。
「私が言うのもなんだけど弱すぎないかしら……? 放送事故レベルよ……」
「そだよ。これが星空ちゃんの配信スタイルだから。この前、なんかの対戦ゲームで80代のおばあちゃん配信者といい勝負してたよ」
「リリィちゃん……! セーラの配信、見ててくれたんですね!」
「うん。おすすめ動画の『夜咲のプレイングが80代過ぎると話題に!?』っていう切り抜きのサムネに釣られてね」
***
こうして、しばらく放課後に集まることになった3人。
南雲の部屋にて据え置き型ゲーム機で練習するセーラとそれに付き合う西宮。
そして2人に背を向けてPCで一人オンライン対戦をする南雲。
その様子は一緒に遊んでいるというより、もはやゲーム部だった。
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