第136話 今から面白い話をします


いよいよ11月も終わる頃、1-Aで東堂碧が現代文の授業を行っていた。



「まいど、みんなー。今日はなんの日か知っとるかー?」


「はい!」



今日は珍しく起きている南雲が挙手をした。



「南雲ちゃんは元気やなー! ほなどうぞ」


「朝、茉希ちゃんがブラックマーケットの日って言ってました!」


「あー、そうそう。ちょっと銃とか薬を……って、ちげぇよ! ブラックフライデーだろ。俺の容姿でブラックマーケットとかの話されると洒落にならないから勘弁してくれ」


「おー! 見事なノリツッコミ。自分、中々やるやん?」



一応、本日は11月28日はブラックフライデーである。

南雲のニアピン(?)が危険な方向性だったので北条は自分の世間体を危惧した。



「……せやな。じゃあ、せっかくやし、今日はツッコミの授業でもやろか!」


「え……あの、東堂先生……現代文の授業を……」


「かまへん、かまへん! お笑いでも『つかみ』ってあるやん?」



気の弱い教科担任は困惑する。

仮に、お笑いにつかみがあったとしても何故それが授業に関係するのかが謎だった。


ただ、今までの碧の授業を見る限り、

脱線はしているものの、ちゃんと目標の範囲までは教えられている。

なのでここは一旦様子を見ることにした。



「よし。ほな、わいがボケるから我こそはツッコミ担当って人は手あげてー!」



スッと手を挙げたのは我らが1-Aのツッコミ三銃士。

東堂、南雲、西宮の精鋭たちだった。



「ボケ三銃士じゃねぇか!! よく自信満々で手挙げたな!?」


「え? ワタシ、結構ツッコミに回る事多いと思うけど?」


「え? 流石にボクはツッコミ担当だよね?」


「え? むしろ、ボケ方を教えて欲しいくらいだわ」



3人はボケ担当だと思われていた事が誠に遺憾だったらしい。

北条はそれ以上は何も言わずに彼女たちの雄姿を見守ることにした。



「各々、得意なツッコミでええからな。ツッコミ終わったら種類を解説するわ!」



***


Act.1 南雲


「南雲ちゃん、わいな、この間ネコと散歩しててん。そしたらな……」


「ってそれ、イヌやないかーい!」



「…………うん。違う、違う。南雲。まだ、ボケ始まってないから……」



「おお。凄いな。今のは『説明ツッコミ』。北条さん一本!」



Act.2 東堂


「明里。わいな、この間茜と仲直りしたんや」


「そうなの!?」


「うん、まぁ嘘やけど」


「そうなんだ……」


「「…………」」



「…………いや、『そうなんだ』じゃ、ねぇんだよ。ツッコめよ。世間話か」



「おお、またも北条さん。今のは『例えツッコミ』やな」



Act.3 西宮


「東堂さんには得意なツッコミがあるやないかーい(棒読み)」


「…………おい、ツッコミから導入するやつおるか?」


「え? 僕? なんかあったっけ?」


「誘い受け」



「それはツッコミの種類じゃねぇよ!!」



「お見事。『一刀両断』のツッコミやな」



***


やはり我らがツッコミエース北条茉希。

名乗りこそ挙げなかったが、真打である彼女が全てのボケを拾いガン処理してくれた。


クラスのみんなも北条に賞賛の拍手をしている。


しかし、そうなってくると腑に落ちないのはボケ担当の烙印を押された3名。



「良いご身分ね。ボケ担当の拙いツッコミをなじってさぞご満悦なのでしょうね」


「そうだよ! ワタシたちはアウェイで戦ってたんだよ?」


「いや……アウェイに行ったの自分たちじゃん……」


「じゃあ北条はツッコミ担当に名乗り上げなかったからボケ担当なの?」


「そもそもお笑い担当じゃねぇんだわ。この世の全ての人間をボケとツッコミに二分するな」



珍しい3対1の図式で総バッシングを受ける北条。

北条にまったく罪は無いのだが、自爆して恥を掻いた3人はなんとか北条を道ずれにしようと画策している。



「とりあえずさ、僕たちがツッコむから一回北条先生のお手並みを見せてよ」


「いいわね。おもしろヤンキー女からはどんなおもしろ小話が聞けるのかしら?」


「はいはーい。みんな注目ー! いまから茉希ちゃんが面白い事言うよー」



「……お前ら鬼なの?」



もはやクラスは北条茉希のおもしろトーク待ちの状態である。

ここで引いてシラケるくらいならボケてスベった方がマシという状況。


北条は覚悟を決めた。



「……こ、この間さ。出前でカレーうどん頼んだんだけどさ。俺、結構トッピングにはこだわりあって……」


「「「うんうん、うんうん」」」



(やりづれぇー……!!)



「まずは粉チーズ掛けるじゃん? ほんで、ネギ軽く振って、温玉のせて。最後に七味を掛けて……さぁ食べようって、お椀のラップを外したらトッピング全部机にぶちまけたわ」



「「「…………?」」」



「得意なのは机のトッピングなんだよな! なーんつって…………って、いや!! ツッコめよ!!」



「あ、いや。僕は、なんでラップ外してからトッピングしないのかなーって思って」


「ラップ外してたら普通のカレーうどんの出来上がりだよ!! ボケにならんだろ!!」


「ワタシが知ってる茉希ちゃんはそんなミスしないから作り話なのかが気になって……」


「作り話だよ!! ノンフィクションでボケる必要はないんだわ!!」


「私はあんまり面白いとは感じなかったわ」


「面白くねぇからツッコむんだよ!! 放置されたらただのスベり芸じゃねぇか!!」



息もつかせぬ怒涛の3連斬りにクラスメイトは拍手を送る。

ちゃっかり教科担任も拍手していた。



「いやぁ、ええもん見せてもろたわ。優勝も決まったし……ほな、そろそろ授業やろか」


『つかみ』もばっちり決まったところでようやく碧の授業が始まろうとしていた。


「あ、そうそう。ちなみに今日はわいらの実習が最後の日やね」



『――それは早く言えよ!!』



心の中で総ツッコミを入れるクラスメイトたちに早速授業の成果は出ていた。



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