第133話 お粥がくれたワンチャン
ファミレスから帰った東堂は身心ともに疲労を感じていた。
そんな彼女が自宅へ帰るとアパート前で人が倒れていた。
「ね、姉さん!?(←碧) と、お姉ちゃん!?(←茜)」
と、言うか寝ていた。
何事かと思い東堂は2人を揺する。
「2人ともどうしてこんなところで寝てるの? ……お酒くさっ!」
「大丈夫やで、明里ぃ……わいを酔わせたら大したもんや……」
「ううっ……お姉ちゃん、優しい明里への思いが急に込み上がってきて……」
「わわっ! こんなところで吐くのは止めて!」
東堂はアパート前で惨劇を起こそうとする酔った2人を急いで自室へと連行した。
2人は部屋に着いてすぐにトイレに駆け込む。
「「※こちらの音声は皆様のご想像にお任せします」」
一つの便器をシェアして仲良く滝を演出する姉たち。
これには流石の妹もドン引きである。
静かに扉を閉め、その場から出来るだけ距離を取った。
しばらくしてトイレから出てきた姉たちは多少顔色が良くなった。
「……さ、最悪。碧のしぶきが掛かった……」
「何言うてんねん。自分もビシャビシャに飛ばしっとたで?」
「ふ、2人ともきたな……あ、いや、ちゃんと洗面台で顔洗ってきてね?」
そしてどちらが先に顔洗うかで揉める姉たち。
「おい、明里はわいに洗面台使えって言ったんや。お前は便器の水で顔洗ってこい」
「下品。碧の顔は私のゲロより汚いから洗う必要ないよ」
「ちょ、ちょっと2人とも喧嘩しないで……」
そして揉めあって体を動かした結果、
「うぅ……なんや、吐き気がまた……」
「と、トイレまで持たな、い……」
「ちょっと! 洗面台はやめて! せめてキッチンの流し台で!」
自室に押し入られた挙句、そこら中に吐き散らかされる東堂であった。
***
そして一夜明け。
2人の酔いは終わった。
では、酔いが覚めたらどうなるか?
それは――
「「オロロr※こちらの音声は皆様のご想像にお任せします」」
――二日酔いが始まる。
本日は月曜日だが勤労感謝の日の振り替え休日により休みとなっている。
東堂は朝から喧嘩してはトイレで吐き、顔を洗えば喧嘩して流し台で吐く姉たちの世話をしている。
往復の頻度がようやく減ってきたその頃、東堂は姉たちに事情を伺うことにした。
「2人はなんでこんなになるまで飲んじゃったの?」
「それがな、わいら今週で実習期間が終わるやろ? せやから、千堂先生と万里先生が飲み会を開いてくれたんや」
「そうそう。来週はレポートとか報告とかあるし忙しいだろうからって。とっても親切な先生」
「……それって百合先生も来なかった?」
「せやせや。ようわかったな明里」
東堂は確信した。
千堂と万里は百合を釣る為に姉たちをエサとして利用した事を。
2人は東堂が作ったおかゆを食べながら昨日の出来事を語った。
***
碧が茜のグラスにビールを注ぐ。
「あ、ほれっ! 厚いつもりで薄いのは?」 (←碧)
「教頭の頭」 (←茜)
――ゴクゴク
再び碧が茜のグラスにビールを注ぐ。
「あ、ほれっ! 薄いつもりで厚いのは?」 (←碧)
「教頭の腹の贅肉」 (←茜)
――ゴクゴク
「ちょっと……2人とも大丈夫? そんな大学生みたいな飲み方して……私、ちょっとデジャヴが……」
「大丈夫、大丈夫! 百合先生。わいら大学生やから! 大学生が大学生みたいな飲み方してもなんも問題あらへん!」
「そうそう。私たち酔わせたら大したもん」
「こっ、この光景……うっ、頭が……」
2人を制止する百合にあの日の悪夢が蘇る。
そんな事いざ知らず実習生たちは盛り上がる。
茜が碧のグラスにビールを注ぐ。
「深いつもりで浅いのは?」 (←茜)
「よ! 教頭の知識!」 (←碧)
――ゴクゴク
再び茜が碧のグラスにビールを注ぐ。
「浅いつもりで深いのは?」 (←茜)
「よ! 教頭の欲望!」 (←碧)
――ゴクゴク
「す、凄いな彼女たちは。流石はあの東堂の姉だけはある」
「そうだね。よくもまぁ実習生の分際であそこまで教頭をこき下ろせるもんだね」
丸女でも比較的クズ寄りの2人も舌を巻いていた。
「今日は誘ってくれてありがとうございました。お2人ともペース遅めですが、お酒は苦手なんですか?」
「ん、ああ。ちょっと、作戦があってね。ペースは落としてるんだ」
「なんやようわからんけど、今日は無礼講や! じゃんじゃん飲みましょ!」
「残念ながらそれは君らの立場で言うセリフではない」
そして2人が飲みのペースが早い百合に勝負を持ち掛けた後の流れはお察しである。
***
「そこから記憶がない」
「せやな、気づいたら明里ん家で吐いとった」
「うわぁ……百合先生ってホントにお酒強いんだ」
「強いなんてもんやあらへん。あんなん酒豪や」
「もしくは妖怪。そっちのが濃厚」
洗い物をしながら2人の話を聞き終えた東堂は姉の顔色が悪い事に気づく。
目頭を赤くして苦悶の表情で耐えている碧。
「……姉さん顔色悪いけど大丈夫? 無理してない?」
「あ、あかん。明里が作ってくれたおかゆを戻す訳には……」
「そんな気遣い要らないよ! 辛いなら吐いてきて!」
青い顔をしながら笑顔を浮かべる茜。
「明里、土鍋貸して? 大丈夫。お姉ちゃん、明里が作ったものは絶対無駄にしないから」
彼女はレンゲを片手に土鍋に吐こうとしている。
「お姉ちゃん! それだけはやめて! 人として終わってるよ!」
「せ、せやな。茜。おかゆならワンチャン……あるか?」
「ないよ! ぼ、僕もうしばらくおかゆ食べられないよ……」
結局、東堂にトラウマを植え付けた2人は翌日の朝まで家に居座った。
***
尚、妹の功績により姉たちは人間としてラインは逸脱せずに済んだ模様。
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