第131話 お別れは切ない
デート中に迷子の幼女と遭遇した西宮と北条。
最初こそ幼女をだっこした西宮だったが2歩目で諦めた。
駄々は捏ねられたが2人は幼女を間に、手を繋いで歩く事に。
「自分の名前は言えるか?」
「さとみ!」
「よろしくね、さとみちゃん。私はレイにゃ、こっちはマキにゃよ」
「まぁいいわ。それで呼びやすいなら」
「うん? ママ! パパ!」
「ほんでガン無視と。てか、よりにもよってパパかよ」
ママと一緒にいる人はパパと言う子供特有の思考回路で北条はついにパパとなった。
ちなみに、胸の話だけで言えば北条はDカップなので本来はママと言っても差し支えない。
ただ、西宮と比べるとどうしてもパパになるだけだ。
「さとみちゃんは動物園好き?」
「すき! あっ、ひよこさん!」
好きなものを見つけると飛び出そうとするさとみちゃんを見て2人は迷子になった理由を察する。
「こらこら、また迷子になるぞ。……あと、それフラミンゴな」
その後、案の定さとみちゃんを制御しながら迷子センターに行くのは相当苦労した。
しかも残念ながら迷子センターにさとみちゃんの親は居ないらしい。
「苗字は分かるか?」
「わかんない!」
「よしよし。そうよね。世の中に分からないことはたくさんあるわよね」
仕方がないので名前で迷子のお呼び出しをしてもらうことに。
後の事をスタッフに任せようとしたのだがさとみちゃんに泣きつかれ、親が来るのを一緒に待つことになった。
「もうすぐちゃんとしたママが来るからなー」
「それだと私がちゃんとしてないみたいじゃない」
「けんかー? ママ、パパきらい?」
「好きよ」
「パパはー?」
「ふ、普通」
微笑ましいやり取りを彼女たちの事情を知らないスタッフが暖かい目で見守る。
客観的に見た北条は友人に好きか嫌いかを聞かれて照れてるシャイな子だった。
「ふつう? わかんない! すき? きらい?」
「……くッ! 普通って言うのはな……」
「諦めなさい、二択よ」
さとみちゃんを利用した西宮は強気の攻勢に出る。
部屋の全員に注目されている北条は西宮とさとみちゃんの視線から逃れるように顔を背け、か細い声で呟いた。
「……どちらかと言えば好き」
「あらあら、あらあら! これはテンションが上がってしまうわね!」
「言っとくけど、0が普通で100が好きなら3くらいだからな!」
「はいはい。0か1で言えば1なのよね?」
これには西宮さんもニッコリ。周りのスタッフも拍手である。
中には、『見てください。アレがツンデレっすよ』と先輩のスタッフに囁いてる者も居た。
なんだか分からないが盛り上がっているフロアの空気にさとみちゃんもアガる。
「じゃあママ! パパ! なかなおりのチュー!」
「は?」
「なるほど?」
さとみちゃんのご家庭の夫婦はよほど円満な関係を築いているのだろう。
ことこの状況の北条からすれば迷惑極まりない話ではあるが。
完全に流れに乗っている西宮は片耳に髪を掛けて、北条を見つめる。
「ここで引いたらパパ失格よ。諦めて私とキスしなさい」
「お前マジでせめて頬かデコに――」
なんの躊躇いもなく、西宮の唇が北条の唇に近づいたその時――
「ご、ごめんなさい! お待たせしました! ……って、あなたたち! こんなとこでなんてことを……!」
その唇が触れる直前に何故か
***
「驚いたわ。百合先生って子供が居たのね」
「ち、違うよ! この子は友達の子供! 名前はまりあちゃん」
「は? さとみちゃんって言ってたぞ……?」
「そ、それは私の名前……迷子のお呼び出しされてびっくりしたよ……」
どうやら聞く話によると、友人と一緒に動物園に来た百合は目を離した隙に消えてしまったまりあちゃんを探していた。
最初はすぐに周りに聞き込みしようとしたのだが、友人が不安でパニックになってしまい倒れてしまったらしい。
スタッフを呼んで倒れてしまった友人を休憩室に運び、救急車を手配。
丁度その頃、迷子のお呼び出しでまりあちゃんの仕業だと感づいた百合は保護者代理として馳せ参じた。
「このくらいの子って自分の名前まだ覚えられないんですね」
「3才だからね。個人差はあるかなー? たぶん私が『私の名前は聡美です』って紹介したから、『名前は』って聞いたら『聡美』って言っちゃたんじゃないかな」
「さとみ!」
まりあちゃんのお気に入りなのか百合にダイブして抱き着く。
「思いっきり呼び捨てで呼ばれてるわね。サイズ的にも友達だと思われてるんじゃない?」
幼児体系と幼女という五味渕垂涎のコラボレーションだった。
百合は後の事もあるので、2人は簡単に挨拶だけして場を離れることにした。
「またね。まりあちゃん。『さとみ』に迷惑掛けちゃ駄目よ」
「じゃあな。今度会う時までにはパパとママをしっかり覚えような」
「うん? ばいばーい!」
[子供あるある]
さっきまで懐いていたと思ったのに別れ際は急に素っ気ない。
2人は別れに少しの寂しさを抱いていたが、まりあちゃんはそうでもなかったらしい。
***
その後、動物園を満喫した帰り際に西宮の希望で記念の写真を撮ることに。
ボードにくり抜かれた穴から顔出すアレである。
西宮が召喚した五味渕はカメラを構えた。
「おい、あいつ入園料払ってんのか」
「忍者は入園料無料よ」
どういう表情をすればいいのか分からない2人は、
アルパカが描かれたボードから顔を出して真顔をするというシュールな一枚が取れた。
撮影が終わり2人は顔を穴から外してボード裏の台から降りる。
「あら? 北条さん、これは何かしら?」
西宮は自身の肩についた何かを指差す。
「ん? どれ?」
良く分からなかった北条が顔を近づけ、
――西宮がキスをした。
「……ん」
「!?」
不意打ちは一瞬。
北条は跳ねるように体を離す。
「これで仲直りよ。まりあちゃんも喜ぶわね」
「おま……」
してやられた北条はそれ以上は言わない。
東堂は散々警戒していたが、結局動物園にも死角はある。
ボード裏から出た後、西宮は五味渕から貰った写真を嬉しそうに眺める。
それを見た北条の怒る気は失せた。
そして別れ際。
駅にて車に乗り込む西宮は、
「ちなみにあれは私のファーストキスよ」
「はぁ!? お前さぁ……!」
爆弾発言だけ残して去っていった。
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