第129話 一番ちゃっかりした奴が優勝


東堂と南雲の喧嘩(と仲直り)から一夜明け、4人は普段通り一緒に登校している。

仲直りした際の話を2人から聞いた北条は安堵の息を吐いた。



「うん、よし。お前らも無事に仲直り出来たみたいだし、これで一件落着だな!」


「まだ終わってないわよ」


「……うん? 僕たちはちゃんと仲直りしたよ?」


「ハッ!? そっか! あーちゃんっ! まだ仲直りのちゅーしてないよ!」



どさくさに紛れてキスしようとする南雲は放置して西宮は北条を睨む。



「まだ私と北条さんが仲直りしてないわ」


「は? 俺、お前といつ喧嘩した?」


「……私が真剣に告白したのにあなたが取り合ってくれなかった時よ」



「「 告白ッ!? 」」



「こいつが言ってんのは、3人が好きだっていういつものアレだぞ」


「あー……いつものアレねー」


「ほっ……」



2人もいつものアレである事が分かったところで一人キレているらしい西宮さんに事情を伺う。

若干盛り気味に例の件を語るキレ宮の話を聞きながら北条は思い返した。



「……でもさ、お前あん時に怒ってないって言ってたじゃん。悔しいとかなんとか」


「悔しさという種が時間という水を与えられて怒りの花を咲かせたのよ」


「詩人みたいな言い回しすんな。思い返したら腹立って勝手にキレてるだけだろ」


「とにかく、私は北条さんに仲直りの儀を要求するわ」


「何なん、その儀式……」



西宮が提唱する『仲直りの儀』には選べる3つのプランがあった。


①教室で土下座プラン

②屋上で謝罪のキスプラン

③ラブホで関係修復プラン



「選びなさい」


「ほら、あーちゃんも選んでー。仲直りの儀だよー」


気づけば南雲も西宮の側についていた。


「ほ、北条! 変なのは選ばないよね!?」


「全部『変なの』なんだわ。わりぃ、2人とも。俺……、西宮と仲直り出来ないかも……」



北条は第4の選択肢、選択しないという選択をする。

やがて季節が巡り、怒りの花が朽ちるその時まで彼女は待つことにした。


……と、なってくると焦るのは当然西宮。



「ま、待ちなさい。そんなあなたに最後の隠しプラン、お手軽デートプランよ」


「結局それかよ。 ……お前、なんでこいつらが喧嘩したか覚えてるか?」


「え……東堂さんが嫉妬妄想で南雲さんをないがしろにして、」


「ぐはっ」


「南雲さんが独占欲を暴走させたからじゃないのかしら?」


「ごふっ」



「……いや、まぁ要約するとそうなんですけども」



急にエイムの良くなった西宮の的を射た発言は東堂と南雲に致命傷を与える。

しかし、北条が言いたいのは彼女たちが嫉妬に狂った原因の話だ。



「俺らがデートしたらまた東堂とギスるかもしれないだろ」


「安心しなさい。昨日彼女には十全にメンタルケアを施しておいたわ。大丈夫よね、東堂さん?」



「…………………………うん」



「めちゃくちゃ嫌そうだけど大丈夫そ? もっかいメンタルケアした方がよくね?」


「東堂さん……? あなたは北条さん如きに何をそんなに警戒しているの?」


「シバくぞ。デートに誘う奴のセリフじゃねぇぞ」



東堂は少しの思案の後、理由を語る。



「……北条って何かちゃっかりしてるというか、なんか気づいたらキスとかしてそうで怖いんだよね」


「そんな勢いでキスなんてするワケ……ねぇよな?」


「この女にそんな度胸はないわよ」


「いや! 茉希ちゃんはやる時はやる女だよ!」


「な、南雲。そのフォローは要らないかも」



北条は文化祭で西宮とデートをすれば2人きりで抱き合うし、南雲を慰めれば流れでキスをしている。

内容までは知らないが、東堂センサーは北条から危険な何かを感じ取っていた。


モテ女である東堂を以てしても警戒対象となりうる、それが北条茉希という女。



「はぁ、仕方ないわね。これ以上東堂さんがヘラると北条さんが刺されかねないから……」


「刺されんのはお前だろ」


「私と北条さんのデートプランを東堂さんが立てなさい。それなら安全だし文句ないでしょう?」


「うーん……確かに? まぁ、それなら……」


「おい。俺の意思どこ行った。てか、お前もお前でそれはどうなん……?」



好きな人とそうでもない人のデートをプランニングするという東堂の謎の立ち位置。

西宮の譲歩もあった為、渋々とは言えその役目を承知した彼女は安心・安全・ド健全をテーマに掲げて計画を練り始めた。


こうして北条の意思を置き去りにしてデートは決行される事となる。


これには西宮の溜飲も下がったようで、怒りも晴れていた。

なんだかんだ言って、一番ちゃっかりしてるのは西宮である。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る